13話
「あー、遥か極東の田舎出身なんですよ」
「極東だぁ? ここより東に人なんて住んでんのか」
「ええ、まぁ。うちの方じゃあ魔法なんて使ってる人、見たこと無くって」
こっちを胡散臭そうに見つめるロッセリーニ整備長。
「……嘘はついて無さそうだな」
嘘はついてない。
自分の住んでいた所には、エルフもドワーフも獣人もいないし、魔法も人型歩行戦車も無かった。
それは全部ゲームの中にあっただけだ。
ここがゲームの中にせよ、その情報を受けた類似した世界にせよ、少なくともプレイをしながら現実だったらと夢見ていた存在がある。
愛機のティーガーに、敷嶋たちメイド隊、ゲーム準拠の強化された体、潤沢な物資、それに加えて退屈する暇も無さそうな憧れていた戦場と敵までがあるんだ、もうこっちこそが自分の現実だ。
夢ならばこのまま一生覚めないでくれ。
あの無味乾燥な毎日を繰り返すだけの現実よ、さようなら、だ。
「まぁ訳アリって奴か、そんなんこの町じゃあ珍しくねぇ……ただ、魔法を教えて欲しかったら」
意味深な顔をするロッセリーニ整備長、改めおやっさんだが、言いたい事は分かるので釘を刺しておく。
「ティーガーをばらすのは却下です」
「ちっ、人の心を読みやがる」
「その代わり、さっきの真銀と金剛銀、お譲りします」
「真銀はありがてぇが、金剛銀は扱えねぇな」
渋い顔をするおやっさん。
「はいはいはい、そこは私が手伝うであります!」
両手を上げてぴょんぴょん跳ねつつアピールする埋火。
さっきから思っていたが、アシスタントたち全員、だんだん個性がはっきりしてきていないか?
埋火だって、呼び出した時はもっと落ち着いた感じだったのが……成長している?
「しゃあねえな、お嬢ちゃんに免じてそれでいいや。んで、習うのは誰だ?」
「まあ、基本的には全員教えて頂きたいですが……」
「そりゃあ無理だ、人数が多すぎだし適正もあらぁな」
「でしょうね、なのでまずは埋火たち整備のメンバーでしょうか。で、魔法ってのは、さっきのような鍛冶魔法だけなんですか?」
「いんや、ワシらドワーフが使うのを鍛冶魔法と言ってるが、魔法ってのは根本は一つしかねぇ」
「一つ?」
「ああ、魔法ってのはな、魔力をどのように現実に働きかけて効果を発生させるか、それだけだ。物質に魔力を通して様相や形態を変えりゃ鍛冶魔法で、魔力を燃やしてぶつけりゃ攻撃魔法だな」
「なるほど、それは正確な知識が必要となりますね」
「そーゆーこった。魔力を燃やす程度なら何とでもなるが、鉱石から金属を抽出するなら、抽出する金属の性質と構造を理解しなきゃならねぇ。溶かすなら融点を知る必要がある」
「それは……例えば、鋼を魔法で硬化させるなら、結晶構造が変化する温度を知る必要があるってことですか?」
「何だ、分かってんじゃねえかよ」
要するに、パンストのゲームではゲシュペンストや各種車輌、武器弾薬などの生産は自動工廠で行われているが、それは交通上の要衝や資源の産地などの重要拠点にしか存在しない。
工廠は周辺地域から材料を収集して加工、生産までの全てを自動で行っているが、生産されたゲシュペンストや兵器の修理や改修は、人間が直接作業をする必要がある。
ゲームではそうした作業は、プレイヤーの格納庫に設置されている自動工作機械を使えばかなり楽になったが、この世界に他にプレイヤーがいるのかどうか分からないし、自分も格納庫メニューが使えない。
さっきおやっさんの整備場を見たが、自動工作機械らしいのは無かったし、基本的な加工作業は人力で行われていた。
それだと装甲材や部品を作るのも楽じゃないので、工廠やゲシュペンストの基本技術に使われている魔力とその働きを解析して、人間が同じような結果を出せるようにしたのが魔法ということらしい。
他にも例えば治癒魔法なら人体に対する正しい知識が必要なように、魔力をどのように対象に作用させるかとなると専門知識が必要となってくる。
ぶっちゃけた話をすると、クッソ面倒くさい。
何と言うか、下手に科学が進んだ世界に魔法が後から入ってくるとこうなるんだなあ、と思わされて、個人的にはもっと厨二病溢れる呪文と杖を持って大げさな身振りをすると強大な破壊魔法が放たれるとか、「なにぃ、無詠唱で三段複合術式大魔法を放っただと!」とか、そんなのを期待していたんだけどなぁ。
いやまぁ、溶接機が無くても装甲を溶接出来るとか、曲がったフレームをその場で直せるとか、近くに転がっている鉄くずを装甲に加工するとか、世界観的には超絶楽なんだけど……ほら、それ全部格納庫メニューか、整備車輌の追加装備で出来るから。
火炎魔法攻撃も見せて貰ったけど、焼夷手榴弾投げた方が早いし、威力があるぞ。
それでもこの世界の人間が、魔導複合装甲や魔導浸徹弾が無くても、そして五〇ミリ程度の豆鉄砲で魔物と戦えている理由が少し分かった。
魔法攻撃で何とかしのいでいるんだ。
だったら、魔力伝導率に優れた真銀があったら、もっと効果的に戦えるんじゃないのか?
今おやっさんが修理しているというⅢ号の主要部分に真銀を、装甲の外側に金剛銀をコーティングして、こっちの世界の魔法を使い慣れた、それこそ隊長のような人間が扱ったらどうなるんだろう。
ちょっと気になる。
既に魔改造済みの手持ちのゲシュペンストに乗って貰うのもありだが、それよりは彼らが普段使っている機体がどれだけパワーアップするか、そっちの方が変化が分かりやすいな。
Ⅲ号ぐらいのサイズなら、コーティングにはさっき渡したインゴットだけでお釣りがくるくらいだけど……埋火が魔法で変化させたあのヘンテコな踊る人形は、もったいないからどっかに飾っておいて、他のインゴットと交換しよう。
ならば、埋火たち整備三人娘をおやっさんの手伝いに行かせて、同時に彼女たちに魔法を習わせよう。
当面はⅢ号を修理するまでの期間、昼間だけ派遣する形で。
それなら、行き来を考えたら整備場の一角を借して貰って、寝泊まりするための装甲指揮車とかも移動した方がいいだろう。
そうおやっさんに提案すると、二つ返事で引き受けてくれた。
まぁ、そうだろうな。
向こうに我々が行けば、ティーガーの整備も見られるわけだし。
ついでにもう一つ気になっていたことをおやっさんに聞いてみる。
「ところで、魔物とか倒すのは、フェデリコ隊長とかに許可取る必要ありますか?」
「いや、倒すなら勝手にやって構わんが……報奨金は出ねぇぞ」
「許可取ったら出るんですか?」
「ヒュドラみたいな賞金首はな。普通は出ねぇ」
他にも聞いてみたが、お約束な冒険者ギルドや傭兵ギルド的な組織は存在しない。
これはゲームでは、プレイヤーは基本どこかの軍に所属するシステムだったので、そうだろうなとは思っていた。
ただ、ゲームのような国家は壊滅したのか、少なくともこの辺りは自治都市が協力しながら細々と人類の生存圏を維持していて、自警団がそれを守っている。
傭兵団やフリーのゲシュペンスト乗りもいて、自警団に雇われるのも珍しくない。
だから、さっきフェデリコ隊長が手伝ってくれと声を掛けたんだろう。
雇われれば、その間の給金は出るし、修理や補給も自警団持ちだ。
ただ、自由は少なくなるから、今はこのままでいいかな。
いつまでこの町にいるかも分からないし。
それと魔核はゲシュペンストや自動工廠も含む機械類のエネルギーとなるから、買い取ってくれる。
「魔物の装甲や肉も買うぞ」
「え、肉どうするんですか?」
「そりゃあ、食べるに決まってるだろうが」
あ、食べられるんだ。
そこはゲームに無かった設定だな。
ヒュドラも食べられたのかな、ほとんど焼いちゃったけど、蛇って鳥のささ身のような味がするって言うよな。
焼け残った部分とか試してみるか。
でも毒があるからダメかな?
まあいいや、食べられる魔物に関してもそのうち調べて置こう。
さて、今後のやるべきことが大体固まったので、敷嶋を呼ぶ。
「敷嶋、ここに」
「命令を伝える。まず補給中隊は装甲指揮車をドラゴンワゴンと共に整備場に移動、拠点の確保と現状の作業の継続、並びに夕食の準備、可能ならばこの紙幣の価値の確認と適切な物資の補給」
敷嶋に先ほど入手した紙幣の束、その半分を渡す。
「次いで整備中隊は補給中隊と共に移動、拠点確保後はロッセリーニ整備長に協力し、現地の指定Ⅲ号ゲシュペンストの修理と改造を行うべし。ドラゴンワゴンの機材とこれは自由に使用して良い」
次に金剛銀のインゴットを一本渡す。
「警備中隊も補給中隊に同行、各中隊員と機材、物資の安全を確保せよ。そして敷嶋は私と共に東方の敵勢力に対してティーガーにて威力偵察を行う。一五分後に出撃で行けるか?」
敷嶋が踵を鳴らして背筋を伸ばすと、恭しく頭を下げる。
「御心のままに、ご主人様」
「宜しい、期待している。かかれ!」
全員が今の命令を聞いているはずだが、この後はプライベートではなく、作戦行動であると認識させるために、最先任メイド長である敷嶋から各メイドに指示を出して貰う。
ちょっと前までのパンストは、プレイヤーが直接指示を出せるのはアシスタント長だけであり、それ以外にはアシスタント長が伝えるというシステムになっていた。
これはプレイヤーがいるのは自分のゲシュペンストの車内だけであり、アシスタント長に通信で外と連絡して貰うというシステムだったからだ。
それが少し前のアプデで、各部門の長に対しては指示を出せるようになり、今回のアプデの目玉の一つが、VR空間が広がることでゲシュペンストの外も移動可能となって、アシスタント全員と直接会話出来るはずだった。
まあ、実装されたのを確認する前に、この世界に来ちゃったっぽいから、どうなったか分からないんだけど。
ともかく、そんなシステムだったので敷嶋経由で命令を伝えるのが個人的にもしっくり来るんだよな。
さっきまでヘッドセットで通信をしていた敷嶋が、こちらに小さく頭を下げると装甲指揮車の方に小走りで向かった。
こんな時でもメイド服のスカートを翻したりはせず、実に優雅な足の運びだ。
「エプロンは乱さぬよう、スカートは翻さぬよう、だっけか」
ふと、昔流行ったフレーズを思い出す。




