10話
「ご主人様、お帰りなさいませ」
ティーガーを整備中の埋火たちが頭を下げる。
「手を止めなくていい、作業を続けてくれ」
「御心のままに」
しかしまぁ、ゲームの時は全然気にならなかったが、メイドたちが人型歩行戦車の整備をしているのって、なかなかシュールだな。
だが、それがいい。
いや、これこそがいい。
黒に近いジャーマングレーに、国籍マークなどで所々白いラインが入ったティーガーは、意図せずにメイド服っぽいカラーリングになっている。
身長六・五メートル、体重五〇トンの鋼のメイドか。
強いな、とても強い。
そして彼女を万全の状態にするために、埋火たちがメンテナンスをしている。
なお、整備班には特別なメイド服が与えられており、整備の際にはエプロンが作業用の厚手でポケットの多いものとなる。
そこに工具を入れるのだが、それだけでは足りずに腰に武骨な工具用のベルトをしている。
スカートもロングではなく、動きやすいように膝丈で、そこに安全靴のような鉄――彼女たちのは金剛銀だが――の入った編み上げブーツを合わせている。
袖のふくらみも少なめで、作業時には頑丈な皮手袋をはめるようにしている。
手袋の素材は動きやすさと丈夫さを重視して、真銀糸を多めにして、大姫蜘蛛の糸の代わりに金剛山羊織を使用した。
ゲームだと数値の違いだけだが、今だとどうなんだろうな。
作業が終わったら着心地の違いを聞いてみよう。
そうだ、さっき引っ張り出した服の中に作業服もあったな、あれをベースにしてメイド服風にするのはどうだろう。
いや、ダメだ、それはロマンがない。
却下だ。
考えるならば、メイド服のシルエットとデザインを生かしつつ、どれだけ作業しやすくするかだろう。
たすき掛けはゲーム時代から衣装に取り入れていたから、そこは問題ない。
実際に作業をしてどうだったか、改善点はないか、後で埋火たちに聞いてみよう。
ああ、そうだ、思い出した。
「敷嶋」
「はい、ここに」
後ろに控えていた敷嶋が、すっと半歩出て頭を下げる。
「偵察用ゲシュペンストを呼ぼうと思うのだが、何がいい?」
「偵察用でございますか。ご主人様のお持ちの中からですとⅡ号系列になるかと」
「まあ、そうだよな」
史実では初期の重戦車大隊なら、偵察や伝令などに使用されたのはⅢ号戦車系列だが、実際に運用してからはⅢ号は消耗が多いとして、戦車は全てティーガーに置き換えられ、偵察や伝令はオートバイやサイドカーの仕事になった。
さっき破壊されていたように、Ⅲ号はちょっと中途半端なんだよな。
中戦車だから、武装も装甲も機動力もそこそこあるのだが、逆にそこそこあるから偵察だけじゃなく戦闘にも使用されて、でもそこそこの装甲しかないから撃破される。
だったら、もっと軽快で機動力があって、武装や装甲は身を守る程度の方か、それこそサイドカーのように最初からそれを捨てている方が、偵察に使うのには向いている。
そのコンセプトであるなら、偵察用として呼び出すなら、軽戦車であるⅡ号L型、通称山猫と呼ばれるⅡ号系列の集大成とも言えるモデルの方が確実だ。
装甲は最大で三〇ミリしかなくて、武装も対空機関砲を改造した二センチ機関砲で、通常徹甲弾を使用した場合、五〇〇メートルの距離で一五ミリの装甲を抜ける程度の威力しかない。
そんな性能だから敵と遭遇した場合、柔らかい相手なら射撃で牽制しつつ退避、硬い相手なら速度を生かして遁走するのに迷いがない。
「一応、Sd Kfz 234もございますが」
Sd Kfz 234、これはゲシュペンストではなく、八輪重装甲偵察車だ。
五センチ砲を搭載したタイプは、プーマの愛称でも知られており、その砲塔はⅡ号戦車系列の最終型となる予定だった、一六トン偵察軽戦車の物を転用している。
レオパルトは、Ⅱ号というよりは、パンターを小さくしたようなデザインをしているが、最大装甲五〇ミリ、主砲六〇口径五センチ砲、重量二二トンと軽戦車とは思えない大型で、ここまで来るとむしろⅢ号戦車と大差ない。
多少性能は向上したとしても、ただでも限りがある生産ラインを圧迫してまで作るほどじゃないので、製造中止になるのは仕方ないだろう。
だが、これもドイツあるあるなのだが、計画自体は中止になったが砲塔は既に作られていたので、それを偵察車に転用したという訳だ。
なので、後で作られたモデルは、Ⅱ号や従来の偵察車同様の二センチ機関砲を搭載している。
「いや、車輌はやめておこう」
Ⅱ号L型もSd Kfz 234も最大装甲は同じ三〇ミリだが、魔導装甲を効果的に使えるゲシュペンストの方が防御力は向上する。
もちろん、装甲厚の問題からティーガーほど強固にするのは無理だが、表面に金剛銀をコーティングして、魔力を通しやすい真銀を内側にすれば、かなりの防御力になる。
とはいえ、魔力を通すことが前提で、魔力が無くなれば通常の装甲よりも少し硬い程度となってしまうのだが。
普通の車輌は、魔力を通す構造になっていないので、正面装甲部分とかに局所的に使う程度で精一杯だが、ゲシュペンストはそもそも全身を動かすのに魔力が必要なので、装甲に魔力を通すのはさほど問題にならない。
採算と効率を度外視して、車輌に魔導装甲を使う改造をしているプレイヤーもいたし、それはそれでロマンではあったが、自分はゲシュペンストを扱う方が好みだったので、そっちのロマンは追求していない。
なので、ここは普通にⅡ号L型を使うのがいいだろう。
「ありがとう、敷嶋。方向性が見えたよ」
「お役に立てたなら幸いです」
深々と一礼する敷嶋。
ティーガーのメンテナンスが終わったら、ちょっと東の敵情がどうなっているのか探って、その時にⅡ号も呼ぼう。
さっきはヒュドラが出てきたし、混沌巨蛇とか三身巨人とか人面獅子とか、地中海方面やエジプト関連の敵、キメラや多頭系、蛇やサソリ系が出てきそうな気がするな。
サソリなんかは装甲硬いし、毒の砲弾撃ってくるし、機動力あるし、結構面倒だよな。
まあ、軽自動車程度のサイズだから、踏み潰すのが一番効果的なんだけど。
『町の方から軽車輌一接近中。武装無し』
そこに山桜の報告が飛び込んでくる。
さっき全員に通信用のヘッドセットを渡しておいたのが、早速役に立ったな。
「車種は?」
『ダークイエローのオープントップの小型自動車で、乗員は一名……恐らく先程のロッセリーニ整備長の可能性極めて大』
ああ、さっきの老人か。
顔を出すように言われてたけど、Ⅲ号の修理が終わって待ちきれなくてやってきたかな?
『車種は508CMだと推測されます』
イタリアに相当するウィリディス王国の軍用軽汎用自動車か。
恐らく砂漠用のコロニアーレだな、ピザの校章の学校でも使ってたアレだ。
個人的には、AS42サハリアーナ偵察車の方が、平べったい形で面白くて好みだな。
サハリアーナは結構モダンなデザインで、クラシックデザインの508CMと比べると同じ国の同じ時代の車とは思えない。
でも、ウィリディス王国ツリーには手を出していなかったんだよなあ……弱いし。
どこかで、「弱くない、じゃなかった強い!」って声が聞こえた気がするが、まぁ気にしない。
あー、そうだ、それで思い出した。
トラックの荷台に乗るのはもう勘弁して欲しいから、適当な小型車輌も格納庫から出しておかないとな。
どんどん必要な物が増えて、さっさと拠点が欲しいわ。
『ご指示を』
山桜からどうするか聞かれた。
恐らくMG42を構えているんだろう。
あの老人相手なら、戦闘になることもないだろう。
ティーガーに関して根掘り葉掘り聞かれそうだけど。
「問題ない、通して構わないぞ」
『ご命令のままに』
最近のご時世でなかなかブレストができないので、文章の書き方を忘れないようにしないとならないため、何とか少しずつでも書いていこうと思います。
一日書かないと勘が戻るまでに三日掛かって、三日書かないと一週間、一週間書かないと一か月と良く言われますし。
それと今一つまだシステムが分かっていないんですが、評価がある模様で、それを頂けると作者が喜びます。




