9話
何故か全部脱がされてあちこち計られて、その後着せ替え人形にされた。
最後は、アフリカ軍団仕様の砂色の半ズボンをはかされて、敷嶋と月影が手を合わせて「これで行きましょう!」と盛り上がっていたのだが、望月が一言「似合わない」と切って捨てたことと、自分が何とも言えない微妙な表情を浮かべたので、二人とも咳払いを一つして諦めてくれた。
まあ、常に最適な環境を保ってくれるみたいだし、普段のパンツァージャケットと――なお、一部のマニアからはパンツァーヤッケと言えとか、戦車用黒色特殊野戦服と言えと突っ込まれるが、ゲームの表記がパンツァージャケットなんだからパンツァージャケットでいいだろう――セットの黒ズボン、さっきまでのブーツじゃなく短靴に略帽を被って、ベルトには操作盤を入れるためのマップケースと、拳銃のホルスターを吊るす。
砂漠なので、白のマフラーを首元に巻いて、その上にゴーグルとヘッドホンを引っ掛ける。
ヘッドホンと喉元のマイクは操作盤に繋がっているので、ティーガーの敷嶋だけじゃなく、他のメンバーの通信機とも通話可能だ。
後は標準装備ではないけど、安全のために皮手袋をはめれば、装備は完成だ。
下着だけは最初から着ていたものだけど、他は全部ゲーム中装備だけど、何と言うかこれは非常に着心地がいい。
肌触りもまるで極上の絹のような、なめらかでしなやか、まるで肌に貼り付きそうでいながら、ふわりと離れて行くのが名残惜しくなる感触、そしてしっかりとした素材なのに重くなく、更には微弱な魔力を通せば快適な環境を保つという、これこそ現実世界に欲しい素材だ。
静電気も起きにくい素材なので、ホコリがあんまり付かないとか、良いこと尽くめじゃん。
後はちょっとした耐熱性と紫外線吸収効果に加えて、下手な甲冑以上の防御力まであるから、完璧だね。
素材集めが大変だったことを除けば。
まあ、全員のメイド服をもう5セット程度作ってもお釣りが来るほどの素材はあるし、他の素材もせっかくだからどんな感じか試してみたい。
それと個人収納から、一振りの刀を取り出す。
武骨で装飾性に乏しい拵で、金具も含めて制服と同じにほぼ黒一色で、鍔は車内で引っ掛からないように、匕首風の喰出鍔、中身は刃長二尺六寸五分(約80cm)と長く、重ね厚く大切っ先の、面白みはない実用一点張りの直刃の刃紋に、刀身だけで1kgを超える豪刀が収まっている。
素材は金剛銀と緋炎鋼を練り合わせ、古刀同様に心金を入れない丸鍛えで、魔力の通りは悪いが切れ味と頑丈さはゲシュペンストの装甲も断ち切るほどだ。
普通の日本刀に比べるとやや長いが、身長170cmを超えるとこの位の長さがないと逆に実戦では物足りない。
幸い普段は収納に入れて置けるので、多少長くてもそこは問題にならない。
軽く重量を確かめると、腰のベルトに刀を差す。
次いで、腰の後ろに回したホルスターに手を伸ばす。
その中には、アートルムス帝国の制式軍用拳銃であるP38が入っている。
こちらは初期装備のまま、弾薬も含めて特に改造などはしていない。
何せ個人収納があるから、サイドアームとして拳銃をわざわざ使わなくても、MG42機関銃だろうが、StG44突撃銃だろうが、S-18対戦車ライフルですら使い放題である。
なのでまあ、お守り代わりというか制服と揃えたファッションの一つという所だ。
それでも一応初弾を装填し、マガジンを抜いて一発込めてから戻す。
後でちゃんと刀と共に、この体が使いこなせるのか試しておかないと。
体のスペックが現実世界のままなのか、それともゲームのスペック相当なのか、そこを理解しないと、この世界で生きていくための心構えが変わってくる。
着替えて武装を確認すると、一つ大きく息をつく。
しかしまぁ、普段の格好になるなら、さっきの着せ替えは何だったんだ。
「サイズが合うかどうかの確認です」
月影がしれっとこっちの呟きに返してきた。
まぁ、確かにゲームの時はガチャでゲットしたアイテムにサイズ調整は必要なかったけど、アバターのサイズになっていたら、それよりは10㎝は縮んでいるからサイズ調整が必要だっただろう。
幸い、その心配は余計だったが、月影が「仕事が減りました」とちょっとがっかりしていた。
なお、当然ながら、メイド服は全て個人個人のサイズに合わせて作ってある。
格納庫の収納から布地を取り出すと、月影に渡して、まずは今稼働状態にある全メイドの下着類や必要な物を作るように指示を出す。
裁縫道具やミシンは一通り月影の収納に入っているらしい。
「月影、僕は自分のメイドたちが、中身に負けないほど、他人から羨まれるぐらい美しく装っているのを好む。だが、今はこんな状況だから華美になり過ぎないよう、まずは実用性を重視してくれ」
「はい、御心のままに」
「望月も頼んだぞ」
「……了解」
二人に伝えると、敷嶋を引き連れて車外に出る。
そこにはMG42機関銃を担いだ山桜が、周辺を警戒していた。
「異常ありません」
「ご苦労」
山桜にも小さく手を振って、監視を続行するように伝える。
そのまま、大股で空の掩体壕の一つに向かい、奥にマンターゲットを貼り付けた金属の的を設置する。
歩数で大体15mの位置に立つと、収納から折り畳み机を取り出し、その上にマガジンを置く。
ヘッドホンをするように敷嶋に伝え、自分も耳を覆い、ゴーグルもする。
ホルスターからP38を取り出すと、安全装置を押し上げる。
引き金を静かに絞ると、乾いた音と共に9㎜弾が発射される。
一発目がマンターゲットの中心から僅かに右にずれたので、やや左を狙って続けて撃つ。
15m先の的のどこに当たったかしっかり見えるとは、現実世界では無理だったな。
海外で拳銃撃ったことあるけど、ライフル弾ならともかく、県銃弾はどこに飛んでいるのか全然分からなかったから、当たったのを見て修正なんて全然できなかった。
だけど、今は当たった位置だけじゃなく、飛んでいく弾丸までが分かる。
銃自体は9㎜の豆鉄砲だから、反動は大したことがないので、体のスペックは判断できないが、少なくとも目は相当に高性能になっている。
全弾撃ち終えると、素早くマガジンを交換、そのまま2マガジン分を的へと叩き込む。
「お見事です」
ヘッドホンを外すと敷島が拍手をしてくれるが、確かにここから見ても、最初の一発を除いて大体同じ位置に命中したのが分かる。
射撃スキルはどうやらゲームのままらしい。
撃ち終わったP38を机の上に置くと、敷嶋がターゲットを回収してきた。
「うむ、ご苦労」
「はい」
次に、腰の刀に手を当てる。
一足進め、三歩目を右に開くと同時に刀を抜いて右に切る。
続いて左手を刀に添えて上段に振りかぶり、足を進めて正面を切る。
すっと腰を伸ばすと、刀を納める。
「……うーん、型だけだと分からないな」
「とても無駄のない動きでしたが」
「動きはね。本当に切れるのかどうか、それと実戦で役に立つかは分からない……切るだけならできるか」
試斬用の畳表なんてないから、収納から泥濘などから脱出するのに使用する細い丸太を取り出して、地面に突き立てる。
「お、刺さった」
杭としても使えるように片方が尖らせてあるが、手で押し込んで刺さるとは、腕力もこれゲームのスペック通りなのか?
刺さり具合を確認して、真っ直ぐに立っているのが分かる。
そのまま、少し下がると、再び腰の刀に手を当て、歩を進める。
間合いに入ったと同時に刀を抜き、そのまま横に振りぬくと、刀を返して左手を添え、斜めに丸太に刃を滑らせる。
残心から、刀を鞘に納める。
何も抵抗を感じずに刀が降り抜けたので、当たらなかったかと思うと、一瞬後、二つの塊が地面に落ちた。
それを見て拍手をする敷嶋。
「……切れた」
「実にお見事です」
切った手ごたえを全く感じないで、丸太は三つに分かれ、地面に刺さった部分も傾いた様子はない。
再び刀を抜くと、刃こぼれどころか、何かが当たったような感じすら残っていない。
「これは刀が良いんだろうなあ」
「いえ、どんな名刀でも腕が伴わないとなまくらも一緒です」
「そうか、なら少しは刀も使えるみたいだな」
とりあえず、ある程度のゲーム中スキルは使えるみたいだ。
完全に同じことができるかは、まだ分からない。
というよりは、居合の時にちょっと感じたが、自分でスキルを使っているというよりはスキルに体を使われているような気がする。
これだと、あちこち筋肉痛が出そうな気がする。
自分からスキルを使いこなすようにしないと。
視力とかはいいけど、ある程度筋力も付けないとならないな。
まあ、それは後回しだ。
ティーガーの検証と、整備状況の確認、それに偵察用の軽ゲシュペンストを呼び出さないと。




