第二話 蘇った勇者
「久しぶりね、私のセルン」
ローリエなのかというセルンの問いかけに、彼女は笑って頷いた。
胸中に押し寄せる様々な想い。セルンは彼女に駆け寄ろうとして、途中で我に返る。
「違う。ローリエのわけがない。ローリエは俺の目の前で死んだんだ」
前回の聖戦で、ローリエはセルンの目の前で死んだ。自分の胸に神器の刃を突き刺し、自殺したのだ。
たとえどれだけ似ていようとも、気配や存在感といったものが酷似していても、それでも彼女はローリエではありえない。死んだ人は、どれだけ望もうとも決して蘇らないのだ。
「正体を現わせ。お前は何者だ?」
「酷いなぁ、私は本当にローリエなのに」
彼女は悲しそうに涙を拭うふりをすると、
「まあ、それも仕方ないか。たしかに私はあのときに死んだんだから、ローリエだって言っても信じてもらえないのも無理ないわね。……わかった。それじゃあ、どうして私が生きて今ここにいるのか説明してあげる」
そう言いながら、彼女はセルンに背中を向けた。
「待て! 説明しろ!」
そのまま歩き去ろうとする少女を追いかけようとセルンは立ち上がろうとして、その途中で体勢を崩してしまう。
慌てて治療していたマリエールがセルンを支える。
「ダメですよ、セルンさん。そんな急に動いたら! まだ傷が塞がってないんですから!」
「だが!」
「大丈夫だよ、セルン。私は逃げたりしないから」
ひらひらと手を振りながら、彼女は言う。
「ただ、これから私の試合だからね。今はそっちに向かわないといけないわけ」
「試合?」
「そう。あなたの疑問には、そのあとで答えてあげる。私がそのときまだ私でいたら、だけどね。もしも私が私じゃなかったら、そのときはまあ、レナスロッテにでも聞いてちょうだい」
試合会場へと向かう少女を、セルンは黙って見送ることしかできなかった。
あまりの事態に頭は混乱していて、どうすればいいのかわからない。マリエールの治療も、荒れ狂う精神状態までは治してはくれなかった。
「マスター」
同じように、混乱している様子のトアレがセルンに話しかける。
「先程の女をローリエと呼んでいたが、先代勇者は亡くなったはずでは?」
「そうだ。ローリエは死んだ。前回の聖戦でな」
「ではただのそっくりさんなのか?」
トアレも記憶として、ローリエの姿は知っていた。たしかに先程の少女と瓜二つだが、世の中は広い。似ている人間もいるだろう。
だがセルンの反応は、まさにローリエ本人を目の当たりにしたかのようだった。
「……わからない。けど、まったくの他人ではないと思う」
セルンはなんとか冷静になろうと自分に言い聞かせるように、ひとつひとつ情報を整理する。
「姿が似ていただけじゃない。声も、気配も、ローリエそのものだった。それに俺のことも知ってるようだった」
「……あの、セルンさん」
治療しながら、マリエールが恐る恐る尋ねる。
「ローリエというのは、あの先代勇者であるローリエ・エルジェラント様のことですよね? セルンさんとローリエ様はお知り合いだったのですか? その、試合中も色々と叫んでいましたが」
「そうか。マリーにはその辺りのこと、詳しく話したことはなかったな」
セルンがかつてローリエの仲間として戦っていたことなどは、こちらで知り合った人間には話していなかった。ユーゴなどは調べて知っていたようだが、そういう伝手のないマリエールなどは知らないのだろう。
「俺は十年前、先代勇者のローリエと一緒に旅をしていたんだ。彼女の仲間として、共に聖戦にも参加した」
「そう、だったんですか。では、ローリエ様のことを好きだと言っていたのは?」
「そのままの意味だよ。ローリエは俺の初恋の人なんだ」
「初恋の……」
マリエールは表情を少しだけ悲しそうに曇らせると、迷うように瞳を揺らした。
「……あの人がローリエ様に似ていたのは、なんとなくわかりました。ただ、ここにいるということは、あの人は例の序列一位の勇者候補の方だと思うんですが」
「そう、だろうな」
このタイミングでしかも次の試合と言っていた。間違いなく、このあとゼノと戦う序列一位なのだろう。
「そうなると、試合で名乗ったりもすると思うんです。だから、それをまずは聞いてみた方がよいのでは?」
「……そうだな」
ここからでも試合の様子自体はうかがうことができる。だが話し声までは聞こえない。
「悪い。マリー。肩を貸してもらってもいいか?」
「本当はまだ治療しないといけないのですが」
そう言いつつも、マリエールは治療を中断してセルンに肩を貸した。
ゆっくりとだと試合会場に近付いていく。二人のあとを、トアレもついていく。
やがて戦いの舞台となる場所に近付き、向かい合うゼノと先程の少女の姿を見つけることができた。その傍らには、レナスロッテの姿もある。
だが少しだけ様子がおかしい。
レナスロッテがにらむように少女を見ていて、一向に試合を始めようとしない。
近付くにつれ、二人の会話が聞こえてきた。
「ですから、早く引っ込みなさいと言っているのです。決闘のルール上、今のあなたのままで戦いを始めるわけにはいきません」
「そんな面倒な。ルールとか別にいいでしょ?」
「よくありません。守れないというのなら、あなたの不戦敗になります」
「それは困るわ。これに勝てば、次はセルンと戦えるんでしょ?」
「なら早く引っ込んでください」
「わかりましたよーだ。まったく、レナスロッテは相変わらず性格悪いんだから」
少女は肩をすくめ――その直後、びくんと全身を震わせて、急に周囲を見回しだした。
「あ、れ? ここは?」
不安そうな声。眉も下がり、背中も丸まる。
「なんだあれ?」
セルンは顔をしかめた。先程までは間違いなくローリエによく似た気配と存在感を漂わせていたのに、一瞬でそれがなくなってしまった。顔だけは変わらず似ているが、それでも今の彼女を見れば、ローリエとは別人だと断言できた。
少女はおどおどびくびくと自分をにらむレナスロッテや不思議そうな顔をしているゼノを見ると、二人の視線から逃げるように視線を逸らす。
「……ぁ」
その先にいたセルンに気付くと、彼女は頬を赤らめ、それまで以上に挙動不審な態度で視線をあちこちに彷徨わせる。
「なんでしょうか? 先程のあの人とは別人みたいですが」
セルンと同じことを思ったらしいマリエールがそう感想を述べる。トアレも同意するように頷く。
「マスター。あの女、急激にまとっていた神器の気配が弱くなった。どうやらこれまでは神器の解放状態にあったらしいな」
「神器の?」
それが意味することがわからず、とにかくセルンは彼女を見守ることにした。
少女は背中に視線を感じているのか、何度か振り返っては、セルンと視線が合うと前を向く。まるで小動物が飼い主の反応を気にしているかのような仕草だった。
「エルジェラントさん」
「ひゃい!」
そのとき、しびれを切らしたレナスロッテが少女に話しかける。
エルジェラントと呼ばれた彼女は上擦った声をあげると、レナスロッテを怖々と見つめる。
「お、お姫様。私、どうしてここに?」
「今からあなたの試合が始まるからですよ」
「試合? あ、ああ、そうだった。試合しないとなんだった」
「……準備はいいですか?」
「は、はい。大丈夫、です」
エルジェラントはこくこくと頷くと、対戦相手であるゼノと向き直る。
「ゆ、勇者候補序列一位、ローリエ・エルジェラントです。よ、よろしくお願いします」
「え? ああ、俺はゼノ・フランキシス――って、ローリエ・エルジェラント? そいつは先代勇者様の名前だろう? なんで同じなんだ?」
ゼノは、セルンがずばり聞きたかったことをストレートに問い質す。
エルジェラントはゼノの大声に肩を震わせると、困ったようにレナスロッテを見た。
「お、お姫様、言っていい?」
「……やめておいた方がいいでしょう。これから試合なのですから。説明は試合のあとにわたくしから致します」
「そ、そういうことみたいなので」
「……よくわからんがわかった。まずは試合。そういうことだな」
ゼノは疑問を横に置くと、聖痕を掲げる構えを取った。
「お前さんが誰だろうと容赦はしない。俺はセルンと戦いたいんでな」
「セルンと……」
エルジェラントはセルンの方を振り返る。
今度は視線があっても逸らすことなく、しばし視線を交差させたのち、少しだけ表情を引き締めてゼノを見る。
「私も、負けません。全力で戦います。だから、その」
エルジェラントも聖痕を掲げると、不安げにそう告げた。
「殺してしまったらごめんなさい。ローリエみたいに、化けて出ないでくださいね?」
「ではこれより、新しい勇者選抜のルールに基づいて決闘を執り行います」
レナスロッテは二人の間に立つと、お決まりの文句を口にする。
「決闘開始前の神器の解放は認められません」
そこで一度エルジェラントを見る。
エルジェラントがしっかりと頷いたのを見て、レナスロッテは残りの台詞を口にして、試合を始める。
「それではこの戦いを聖戦に捧げる――試合開始ッ!」
「行くぜ! 神器解放――『幻灯の弓』!」
開始と同時にまずゼノが動いた。神器を解放すると、その手に黒塗りの弓を握る。
「序列一位のお手並み拝見だ!」
ゼノが弓の弦を引き絞ると、見えざる矢が番われ、ゼノが手を離すと同時に勢いよく飛んでいく。
あれがゼノの神器だった。視認不可能の風の矢。狙撃武器としては凶悪な能力を誇っている神器だ。一度放たれた最後、回避は至難の業である。
だがそれを成してこそ序列一位。エルジェラントは開始前の弱々しい態度から想像もできない素早い身のこなしで、ゼノの矢を見切って避ける。
「まあ、避けるわな」
ゼノは動揺することなく、次々に矢を放つ。
その一撃一撃がさながら爆撃のようだった。烈風が吹き荒れ、着地点に地面に巨大な穴を開けていく。
エルジェラントは辛うじて攻撃を避けていたが、あまり余裕はなさそうだった。ゼノに接近することさえできずに逃げまどっている。
彼女の戦闘に評価をつけるなら、それなりにやるが、上位の勇者候補としてはお粗末極まりない、であった。
「……わからない。なんなんだあいつは?」
戦いを見守るセルンは、いよいよ彼女の正体についてわからなくなった。
あんな逃げ一辺倒な戦い、ローリエでは決してありえない。別人なのは確定だった。
だが完全な他人と位置づけるには、あまりにも先程の雰囲気が真に迫っていた。彼女を見て思わず涙を流してしまったのは、間違いなくセルンの魂が彼女にローリエの影を見たからだ。
「セルン様。やはり混乱されているようですね」
セルンがかつてないほどに頭を悩ませていると、レナスロッテが近寄ってきた。
「レナスロッテ。あいつはなんだ?」
「そうですね。……本来であれば本人から聞くべきなのでしょうが、彼女の性格では上手く説明することは難しいでしょう。わたくしの方から説明させていただきます」
レナスロッテはその場に集まったセルン、トアレ、マリエールの三人ならば構わないと判断し、審判として戦いを見守りつつ、ローリエ・エルジェラントと名乗った少女の秘密について語り出した。
「最初に明言しておきます。彼女は先代勇者、ローリエ・エルジェラント本人ではありません」
半ばわかっていたことではあるが、セルンのその言葉に安堵と失望を半分ずつ感じた。
レナスロッテはセルンの表情からそれを察しつつも、現実を突きつけるように続ける。
「死者は蘇りません。先代勇者ローリエ・エルジェラントは死にました。死んだのです」
「わかってる。俺がその証人だ」
「はい。彼女は死に、その存在は伝説になりました。歴代最強の勇者だったという伝説に。そしてその輝かしい伝説を知り、ある野望を企てた者たちがいるのです」
「野望?」
「ローリエと同じくらい強い人間を作ることはできないか、という野望です。要は彼女の持っていた最強の力を、戦争などの私利私欲の目的使いたいと思った愚か者たちがいたのです」
レナスロッテは吐き捨てるように告げる。
「そこで彼らはこう考えました。ローリエと似た環境で生まれ、似た環境で育てば、彼女と同じ力を手にする者もいるのではないか、と」
「そんなわけがない。たとえローリエと同じ環境で育っても、ローリエじゃないとあんな風には強くはなれない」
「セルン様の言うとおり、実にくだらない考えです。ローリエは例外中の例外、その存在自体が奇跡のようなもの。他人で再現するなど不可能。ですが、彼らはそれを実行に移した」
その誰かはローリエと直接会ったことがなかったのだろう。でなければ、そんな無駄なことを実行に移すわけがない。
「世界各地からローリエによく似た子供たちを集め、ローリエと同じような環境で育て、そして彼女が倒してきたような強大な敵と戦わせた。結果は無惨でした。そんなことをすれば、出来上がるのは屍の山のみ。ローリエではないものが、ローリエと同じ偉業は果たせない」
レナスロッテは語る。
「それでも彼らは諦めなかった。優れた教育者と洗脳者をかき集め、自分の手で最強の勇者を作ろうとし続けた。子供にお前はローリエ・エルジェラントなのだと言い聞かせ、ローリエ・エルジェラントとして育てた。成長の中で容姿が離れていけば、整形すら施してローリエ・エルジェラントを作ろうとした」
「……酷い」
普通の感性を持つマリエールがそうつぶやく。
セルンは、怒りのあまり言葉すら出なかった。自分の知らないところで、そんなローリエを冒涜するような行為が行われていたことを知り、顔も知らない誰かに殺意を抱く。
同時に、あそこで戦っているローリエに似た少女がどういった境遇にあったのかも把握できた。
「それじゃあ、姫さん。あそこにいるのは、その実験の成功例なのか?」
「違います。最初に言ったとおり、そんな実験が成功するわけがありません。最終的に出来上がったのは、とてもローリエなんて言えない出来損ない。顔だけが似ているだけの別の誰かです」
ゼノに追い詰められている少女を見て、レナスロッテは嘆息する。
「そのときになって、ようやく彼らも知りました。どんなにがんばっても、ローリエ・エルジェラントは作れない。実験は失敗に終わり、チームは解散しました。その後、事態に気付いたわたくしが動き、首謀者は一人をのぞいて処刑され、実験体たちも無事保護されました。ちょうど半年と少し前のことです」
その事件はそこで終わるはずだった。
残酷な実験は多くの少年少女の心に傷だけを作ったが、やがてはそれも癒えるはずだった。
「ですが、誰にとっても予想外のことが起きました。本来は百年後に始まるはずだった聖戦が突如として始まったのです」
聖戦さえ、始まらなければ。
「その実験体の中の一人が勇者候補に選ばれました。そしてその勇者候補は、あまりにも特殊な神器を発現させたのです」
神器は魂から生まれるもの。ローリエ・エルジェラントだと言われ育てられた彼女は、自己をそう認識し、その魂すらも変質させていた。
「神器という人知を超えた力が介在し、その実験は失敗のまま完成してしまった」
レナスロッテが戦いに目を向ける。セルンもそちらに目を向ける。
「神器解放――」
戦いはいつの間にか佳境に入っていた。ゼノに追い詰められたエルジェラントは、恐怖に顔を歪め、苦痛にあえぐように、神器の真名を謳い上げる。
「蘇れ――『機械仕掛けの勇者』」
瞬間、エルジェラントの姿はそのままに、気配が変わる。
圧倒的な覇気をまとい、エルジェラントは口元に自信満々な笑みを浮かべると、右手に紅蓮の剣を召喚して大きく振りあげた。
かつてローリエ・エルジェラントが持っていた神器の同じ響きの、けれど異なるその神器の能力を、レナスロッテが告げる。
「ローリエ・エルジェラントになる――それが彼女の神器『機械仕掛けの勇者』の能力です」
「ローリエに、なる……?」
「おいおい、太陽かってんだ!」
紅の刀身に集う力を感じ取り、ゼノが先んじて渾身の一射を放つ。
それを――
「よっと」
こともあろうに、彼女は空いた左手で軽くつかみ取った。
「馬鹿な!?」
「これくらい勘でなんとかなるわ」
あり得ない絶技にゼノが驚く中、エルジェラントは軽い口調でそう言って、右手の剣を振るった。
そこから迸る紅蓮の奔流。それは先の戦いにおける、ユーゴの氷結世界にも匹敵する規模の破壊をもたらし、周囲一体を焼け野原に変えてしまった。
ゼノは全身を焼き尽くされ、その場に倒れ伏す。
慌てて、マリエールが彼の許に飛んでいくが、セルンは動揺のあまり駆け寄ることができなかった。
「……あの姿、あの威力、間違いなくローリエの神器『機械仕掛けの神』じゃないか」
「そう、彼女の神器はローリエの持っていた神器すら再現するのです。まさに神器を解放した彼女は、ローリエそのものと言っていいでしょう。力も、性格も、記憶も、すべてがローリエそのままなのです」
セルンたちの視線に気付き、エルジェラントはこちらに向かってピースする。
それを見て、すべてを理解した上で、セルンはレナスロッテに聞いた。
「事情はわかった。つまり序列一位は、ローリエになる神器を持ったローリエとは別の誰かなんだな」
「そうです。自分の過去のすべてを取り上げられ、消し去られた哀れな実験体に過ぎません。ローリエ・エルジェラントと名乗っているのも、本名を忘れ、それしか自分の名前と認識できないからです」
謎の序列一位の正体を知り、セルンは納得した。
なんてことはない、彼女はただの被害者だ。同情以外の感情はわかない。
だから、セルンが今なによりも気になるのはその一点だった。
「……神器によって再現されたローリエ。あれはあくまでも、彼女が自分はローリエだと勘違いしているだけなのか? それとも、神器の力によって呼び戻された、俺の知っている本物のローリエなのか?」
「わかりません」
序列一位はローリエではないと断言したレナスロッテは、しかしその質問には首を横に振った。
「わたくしも、最初はただ彼女が自覚なくローリエを演じているのだろうと思いました。神器の力で記憶を読み取り、自分がローリエになったと勘違いしているのだろうと。いくら神器であっても、人の心をあの世から呼び戻すなんてできるはずがない、と。ですが……」
そこでレナスロッテはトアレを見た。
人の姿を取り、人と同じような心を持つ、神器の少女を。
「……わかりません。彼女が本当の、わたくしの知っているあのローリエなのかどうか、わたくしも本当にわからないのです」
「…………」
「それがわかるのは、きっと世界中であなただけです。セルン様」
彼女が本当に、セルンたちの知っている最愛の勇者なのか。
「彼女と戦えば、おのずとわかるでしょう。……それがきっと、セルン様に与えられた宿命なのだと思うのです」
そう言って、レナスロッテはローリエ・エルジェラントの勝利を宣言する。
ここに二つの試合の勝者は出揃い、その勝者同士は視線を交わし合う。
セルン・ベルクルトとローリエ・エルジェラント。
宿命の二人の戦いは、
「急報! 急報です!」
しかし意外な形に変更を余儀なくされることとなる。
そのときレナスロッテの許に、一人の兵士が早馬を走らせてやってくると、彼女に向かって声を張り上げた。
「レナスロッテ様、緊急事態です!」
「何事ですか?」
「ヴェルン公国がモンスターによって滅ぼされました! し、支配者級のモンスターが出現したとのことです!」
兵士はそう叫んだのち、その脅威の名を口にした。
かつてその邪悪な力によって人間たちを大いに殺し回り、最後は最強の勇者によって討伐された三大支配者の一角――いや、勇者でなければ倒せなかった旧支配者の名前を。
「ハスターです! ハスターが出現しました!」
邪悪な風が、世界を覆おうとしていた。
本物の勇者でなければ晴らせないような、邪悪な風が……。




