六の太刀 ”掛け違え”
<前回までのまとめ>
ひょんなことから現代に降り立った居合い抜きの開祖、林崎甚助。
あるとんでもない方法でテニスの大学選手権で優勝した。
また、現代にいた林崎甚助の子孫、林崎甚之助は逆に甚助のいた戦国時代にタイムスリップしていた。
二人はこの先どうなっていくのだろうか?
大会会場を後にして、涼華は甚之助に着替えをさせ、すぐに甚之助のアパートに向かった。
ロッカールーム、服、靴、携帯電話、舗装道路、信号、自動車、電飾。
甚助は見るもの全てが初めてであったため、何度も何度も驚きの声を上げる。
その度、涼華が止めた。
「甚ちゃん、黙って。甚ちゃんは黙って私に付いてくればいいの!!」
「おっ、おう。」
ようやく甚之助のアパートに着いた頃には涼華はヘトヘトになっていた。
涼華が甚之助の前に正座していた。
甚之助も背筋をピンと伸ばした状態で正座をしていた。
正確にはそこに座っているのは甚之助の姿をした居合い抜きの開祖、林崎甚助だった。
その甚助に対して涼華が問いかける。
「本当にあなたは甚ちゃんじゃなくて、林崎甚助さんなの?」
「いかにも。拙者は林崎甚助じゃ。というか、本当にここは京の都なのか?」
「京の都。。。っていうか、京都ね。」
「しっかし、この屋敷、その小さな箱、この明かり、この着物。何から何まで全てが奇妙キテレツじゃて、さっぱり分からん。」
涼華の表情が曇る。
「あなたの言うことが本当ならこの前調べた1561年の林崎甚助さん、つまり甚ちゃんの遠い先祖様が今ここにいるってことでしょ。
じゃあさ、甚之助は?ねえ、甚ちゃんは?甚ちゃんはどこにいるの?」
涼華がそう言いながら泣き出した。
女性の涙に耐性のない甚助が慌てる。
「いや、その拙者にそう言われても困るのじゃが。。。
というか、そのお主の言う甚之助という者は拙者の子孫なのか?」
泣き顔を上げて涼華が言う。
「うん。甚ちゃんから聞いたことがある。
ご先祖の人は居合い抜きの達人で、夢想神なんとかっていう流派を作ったって。」
「おお!その通りじゃ!!夢想神伝流じゃ!
そうか、そうか、達人か!!甚之助とやら、なかなか分かっておるな。」
満更でもない表情の甚助がふと思い付いた。
「そうじゃ!もしやすると永禄四年の拙者と入れ替わっているやもしれぬな。
あの時、拙者は父上の仇を討ったところじゃったゆえ、甚之助は今ごろ出羽の国に戻るところなのかもしれんの。はっはっはっはっ!」
ちらっと甚之助の姿をした甚助が涼華を見た。
涼華が驚いた表情になる。
「え?永禄4年に。。。そうか。そうよね。入れ替わってるのかも。。。
ってことは、永禄4年、1500年代後半って戦国時代なんじゃないの?
織田信長とか、豊臣秀吉とか、徳川家康とか、戦とかもいっぱいあったんじゃ。」
甚助が目を輝かせた。
「おー!そうじゃ!!戦じゃ!
ん?はて?織田は時おり聞いたが、豊臣?徳川?は知らんのー。
まあ、良い。それより、戦じゃろ?
拙者も修行がてら戦にも幾度と出たものじゃ。
拙者の愛刀 ”天の星流れ”はそこいらの鋼よりも丈夫での。相手の刀ごとズバッと斬ってしもうたりの。
それはバッタバッタと活躍したものじゃ!!」
それを聞いて涼華が再び涙を流しはじめた。
「ええ??うそ。そんなとこに行ったら甚ちゃん、死んじゃうじゃないの!?」
甚助は大粒の涙を流す涼華を見て、ふと幼馴染みの涼乃を思い出した。
「あー、心配させることを言うてすまんかったの。
じゃが拙者もこちらに来ようと思うて来たわけではないんじゃ。それだけは分かってくれ。」
「うわーーん。どうするのよ。甚ちゃん、死んじゃったらどうしてくれるのよ!!」
甚助は泣きじゃくる涼華を慰めるように続けた。
「そんなことを申されてもじゃ。。。
そっ、そうじゃ!甚之助は拙者の子孫なのじゃろう?
ならばきっと剣の才能も持ち合わせておろう。
今頃、帰りの道中で活躍をしておるやもしれんぞ。」
「え?そんな、、、そんなわけ、、ない、じゃ。。。」
そう言いながら涼華が思い出した。小学低学年の時、甚之助が習っていた剣道の試合を。
”山形県小中学生剣道大会”
剣道着に身を包む小学低学年の甚之助。
相手は腕に覚えがありそうな中学生。
周囲ではその同級生たちが応援していた。
「そんなガキンチョひと捻りしちゃえよー!!」
試合開始の合図が会場に響く。
「はじめ!!」
すると中学生が勢いに任せて攻撃を何度も仕掛けてきた。
その中学生の竹刀は大人も顔負けの速度だった。
回りの大人がそれに反応した。
「おお!彼は確か昨年中学2年生にして3年生を軒並み倒して優勝した子じゃの。」
それに対して相手は小学低学年。
試合はあっという間に決する、誰もがそう思った。
しかし、甚之助は落ち着いた様子で襲いかかってくる竹刀を何度も何度も見事にいなした。
そして、軽い身のこなしで甚之助は相手から距離を取った。
荒々しく竹刀を振り回していた中学生は肩で息をしていた。
その前にすくっと立つ甚之助。
甚之助が一言。
「これでおしまい?」
「なにをーー!!!」
中学生はその言葉に先程よりも激しく攻撃を繰り出した。
しかし、それもいなす甚之助。
そして次の瞬間、小学低学年ならではの高い声が会場に響いた。
「めーーーーん!!」
甚之助が相手の一瞬の隙を付き、竹刀を高く掲げ、相手の横を過ぎ去った。
会場が静まり返った。
すると中央の主審、そして脇に立っていた副審2人が同時にバッと白い旗を上げた。
「一本!!」
甚之助が一瞬にして試合を決めた。
涼華は甚助の言葉に妙に納得した。
「まあ、そうかもしれない。。。」
甚助が何故か収まる涼華を見て、言葉を追加した。
「なんじゃ、なにやら思い当たる節があるようじゃな。」
にやける甚助に再び沸き立つ涼華。
「そんなのあるわけないでしょ!
っていうか!!それはともかくとして、甚助さん!!
あなたは甚ちゃんが戻ってくるまで甚ちゃんとして生活してもらわないと困るんですからね。
今日は何とか勝てたけど、来週また試合、エントリーしてるんだから!!」
「おお!死合い!!あの黄色い鞠で相手を倒すやつじゃな!!」
「テニスだよ!」
「てにす?というのか。あの黄色い鞠の死合いは!」
「そうだよ。テニスは甚ちゃんの夢なんだから、壊してもらったら困るの!」
「夢とな?甚之助はよく寝ておったのか?夢の中であの死合いをしておったとはな。」
「えっ?いや、寝てみる夢じゃなくて。。。まあ、ともかく。あと来週までにテニスのルールを覚えて、あっ、それもよりも先にここで生活できるように。。。」
「るうるとはなんじゃ?」
「え?ルールはルールじゃないの。。。」
二人の掛け合いは夜遅くまで続いた。
次の日の午後、甚之助(の姿をした甚助)がテニス部員たちが集まるコートに立ち、他の部員の練習風景を見ていた。
その様子をコート横で見ている涼華。
そこにテニス部部長の杉本ソラが来た。
「涼華ちゃん、甚之助はどう?記憶は戻った?」
涼華が杉本を見て首を振った。
「いえ。記憶はないんです。だから一晩かけて、いろいろ話しました。
日本の歴史。産業革命。電気。自動車。飛行機。無線通信。インターネット。もう本当にたくさん、たくさん、たくさん。とりあえず、これからの生活を送れるようにしないとですから。おかげでテニスのルールはほとんどまだで。。。」
少し声の枯れた涼華の返事を聞いて、涼華の身体を心配しつつも、杉本は何か会話が噛み合ってないような気がした。
「涼華ちゃん、声、大丈夫?っていうか、え?甚之助、そんなとこからなん?それ、ホンマに重症やん。」
居合い抜き開祖に徹夜でコンコンと話し続けた涼華がボタンをかけ違えたまま続けた。
「でも甚助さん、甚ちゃんの代わりにテニスをやってくれるって言ってくれました。
”これも何かの縁じゃ。拙者の子孫の甚之助が目指すものがあるならば、今は拙者がそれを引き継ぐ。それが道というもんじゃろう。”
って。」
杉本が涼華の話を聞いて戸惑いながらも返事をした。
「あっ、そう、、なん?それやったら、、、まあ、ええな。」
(ありゃ?涼華ちゃん、甚之助の戯言信じてもうてるがな。。。大丈夫かいな?)
甚助がラリー練習をする部員やボレーストローク練習をする部員を見ていた。
甚助が頷いた。
”そうじゃった!あの黄色い鞠を使って、相手を打ちのめすものじゃったな。さすれば、これは死合いを模した打ち込み稽古であるな!!”
甚助は数日ラリー練習を眺めているだけだった。
そうこうしているうちに数日が経ち、大阪で開催されるITF M15大会予選当日となった。
<次回予告>
ITF国際大会に参加する甚助。
甚助にとっては初めての初めから始めるテニスの試合。
そこにはだかる壁とはいったい?
次回、”死合いじゃろうに!!”
乞うご期待!!




