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侍ウィンブルドン  作者: トミー・フィロソフィー
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2/11

一の太刀 ”ここはどこじゃ!?”

<前話あらすじ>

父親の敵討ちが終わった居合い抜き開祖、林崎甚助。

雨の降りしきる中、父の形見である刀を天に掲げた。

その時!カミナリが彼を襲ったのだった。


<侍ウィンブルドン作品イメージ>


挿絵(By みてみん)

 

 真夏の大学テニスコート。

 コート周辺には人集りができていた。

 小麦色どころかそれ以上に黒く焼けた肌。長い髪が落ちてこないようにバンダナを巻いた髪型。中背の男がベースラインのところでボールをバウンドさせている。

 周囲からは応援の声。

「甚之助!!ここ絶対キープだぞ!!」

 一際(ひときわ)甲高い黄色い声援も。

「甚ちゃん、頑張ってーー!!」

 逆の方に立つ男にも応援の声が掛けられる。

「小次郎先輩!絶対ブレイクっす!!」

「小次郎!1年坊なんか早くひねっちまえよ!!」

 声援がやむ。

 甚之助が自分に言い聞かせるように小声で言った。

「ここ、絶対取る!!」

 甚之助と呼ばれた男がボールをトスし、膝を折り、トロフィーポーズを取った。

 頭の後ろに上げられたボールがラケットに擦り上げられつつ叩き込まれる。

 見事なスピンサーブがセンターラインギリギリをめがめて飛んでいく。

 ボールがセンターラインにタッチし、角度が変わ(キックす)る。

 小次郎と呼ばれた選手も必死にボールを追いかける。だが、キックしたボールが逃げていく。

 何とか小次郎のラケットがボールに届く。

 だが、強く打ち返すことができない。

 山なりの打球が甚之助のコートに戻ってくる。

 甚之助が素早くコート中央のサービスラインを越え、前に出る。そして、頭ほどの高さに返ってきたボールをフォアハンドハイボレーで叩く。

 ボールがキレイにフォアサイドのライン際に決まった。

 甚之助が左手で小さくガッツポーズを取る。

 取られた小次郎が叫ぶ。

「クソがーーー!!」

 ウワーっとコート全体が歓声に包まれる。

 カウントがコールされる。

「ファイナルセット、タイブレーク6-4 林崎リーズ。」

 先ほどコートの外で甚之助を応援していた男子が、同じく甚之助を応援していた女子に言った。

「甚之助、マジで優勝しそうやな。あと1ポイント。来週やろ?ITFの試合って。こりゃ、マジで何回か勝てるんちゃうか。本戦も目じゃないで。」

「そうですね。でも甚ちゃん言ってましたよ。大学の大会くらい、楽勝で勝てないとプロじゃ通用しないって。」

「そっか。甚之助、本気なんやな。今のうち、サインでも貰っとかなやな。」

 男子が笑いながら言った。

 それに女子が笑いながら返した。

「ダメですよ。第一号は幼馴染みの私なんですから。」

 歓声が止み、小次郎と呼ばれた男がアドコート側でサーブを構えていた。

「小次郎、絶対ここキープだぞ!!」

 小次郎が声援を掛けた男の方に目線をやり、コクッと頷いた。

 小次郎がボールをトスする。

 その時、ポツッと雨粒が顔に落ちてきた。小次郎は放り上げたボールを叩かず、地面に落とす。

 小次郎はボールを拾い、一度天を見上げた。

 第2セットあたりからずっと曇っていたが、とうとう雨粒が落ちるほど雨雲が分厚くなっていた。

 だが、”Suspended”(一時中止)に持っていけるほど、天気が急変しそうではないと感じ、小次郎はサーブに集中した。

 そして、小次郎がサーブを打つ。

 相対する甚之助よりも上背のある小次郎は力一杯の見事なフラットサーブを放った。

 甚之助とは対照的にワイドに角度を付けたサーブ。

 ボールがサービスラインよりもかなりネット近く、サイドはシングルスラインより少し内側に落ちる。ボールがバウンドして加速する。

 甚之助はベースラインより1mほど後ろに構えていた。

 甚之助はスプリットステップを決め、斜め前に入るように移動する。移動しつつダブルハンドバックの構え。

 甚之助の身体がギリギリでボールに追い付く。

 ダブルハンドでコンパクトに振り抜く。

 バウンドで加速したため、甚之助のスイングがわずかに振り遅れる。

 だが、それが功を奏してストレート、ダウンザラインぎみに返る。

 小次郎が慌ててストレートに入ったボールを追いかける。

 何とか追い付くものの、ロブしか上げられない。何とか相手コートに返りはするが位置が浅い。

 小次郎応援側からは悲鳴が、甚之助応援側からは歓声がわずかに漏れる。

 甚之助応援の男子が言った。

「いったな!!」

 甚之助がボールの落下地点に移動し、左手を上げ、ラケットを肩に担いだ。まさにスマッシュの体勢にしっかりと入っていた。

 上を向いた甚之助の顔にポタッと雨粒が落ちた。

 甚之助は構わずボールを見た。

 ”絶対ここで決める!決めてプロに行く!!”

 小次郎は諦めず追いかける体勢をわざと大きく見せた。

 甚之助が左手を下ろしつつスマッシュの軌道でラケットを振る。

 次の瞬間!!

 甚之助の見る空が真っ白になった。

 スマッシュしようとしているラケット目掛けて、稲妻が走った。

 甚之助はまるで10トントラックにでもぶつかられたかのような衝撃を受けた。

 甚之助が叫ぶ。

「じごわっとーーーーー!!!!」



 コート全体が大騒動になった。

 雷に打たれた甚之助からわずかに煙がでている。

 ポニーテールの女子が叫びながら慌ててコートの中に駆けていく。

「甚ちゃーーーん!!」

 周囲は驚きと恐怖に包まれていた。

 誰かが呟く。

「あいつ、死んだんじゃねーか?」

 倒れた甚之助の隣に女子が駆けつける。

 一際(ひときわ)甲高い声で甚之助に話しかけていた。

「甚ちゃん、甚ちゃん、大丈夫?大丈夫??」

 女子は泣いていた。

 甚之助を応援していた男子も甚之助のところに走ってきた。

「甚之助、大丈夫か?息、息しとる?止まってんやったらすぐ心肺蘇生せーへんと。」

「あっ、そっか。そうですね。」

 女子はあまりの突然のことで、心肺蘇生前の意識確認や全ての基本動作がすっ飛んでいた。

 女子は慌てて胸に耳を当てる。何か鳴っているような気がした。胸に押し当てた耳が押し返されるのを感じた。

 ”あれ?生きてる?”

 女子がそう思った時、周囲では小声で話がされていた。

「こりゃもう試合できねーわな。あと1ポイントなのにな。」

「そりゃ試合どころじゃねーだろ。雷に打たれたんだぜ。」

 それを聞いて、甚之助が突然目を見開いた。

 そして、甚之助が勢いよく立ち上がった。

「死合いじゃと?いや、拙者は仇をうったはず。」

 そして、甚之助が周囲を見回した。

「なっ、なんじゃ?ここはどこじゃ!?」


<次回、予告>

現代でカミナリに打たれた林崎甚之助。

だが、無事に立ち上がる。

その中身はなんと!

次回、二の太刀 ”負けるわけにはいかぬ!!”

お楽しみに!!


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