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27.並べられた罪

狩猟祭が近づくにつれ、社交界の空気は、目に見えて変わっていった。それは、単なる噂話の域を超え、一つの明確な「像」を結び始めていた。


きっかけは、ある夜会だった。誰が言い出したのかは分からない。だが、私に関するいくつもの出来事が、まるで示し合わせたかのように、次々と語られ始めた。


「エリアーナ嬢は、以前、瀕死の犬を前にして『助かりません。楽にしてやるべきです』と言い放ったそうよ」


「ステラ様のことも、思い出せば妙だわ。倒れる前から異変に気づいていたのに、黙っていたと聞くもの」


「ロヴェル伯爵の件も。あれほど大勢の前で、伯爵の面子を潰すような真似を」


一つ一つは、私にとって既に知られている事実だった。だが、それらが並べて語られたとき、そこに現れるのは、私が知る自分とはまるで違う人間の像だった。冷酷で、身勝手で、他人の名誉など顧みない令嬢。事実の断片は正しい。だが、それを繋ぎ合わせる糸が、悪意によって歪められている。


私は、その像を訂正する術を持たなかった。反論すれば「また事実を突きつけて誰かを傷つける」ことになる。黙っていれば「やはりそうなのだ」と受け取られる。どちらを選んでも、私は敗者だった。


公爵家の中でも、空気は変わっていた。使用人たちの視線が、以前よりも遠くなった。廊下ですれ違う親族たちは、目を合わせようとしない。ある日、私は執事が父に向けて漏らした言葉を、偶然耳にした。


「今回ばかりは、庇いきれますまい」


その一言が、公爵家全体の空気を、正確に言い表していた。これまで私を静観してきた父でさえ、その沈黙の中に、明確な計算が透けて見え始めていた。娘を守るための沈黙から、娘を切り捨てるための沈黙へ。その境界線が、今、静かに動こうとしている。


ユリウスにも、会えなくなっていた。宮廷から彼の部隊に対する締め付けが強まり、彼は近衛としての立場上、私に近づくことすら難しくなっていた。彼から届いた短い手紙には、ただ一言、「すまない」とだけ書かれていた。その一言に込められた無力感が、私の胸を締め付けた。


私は、厩舎の隅で一人、その重圧に耐えていた。バルトスだけが、いつものように無言で傍らにいる。彼の沈黙は、以前よりも重く感じられた。まるで、これから起きることを、彼だけが予感しているかのように。


私は、狩猟祭の招待状を、もう一度手に取った。分厚い羊皮紙の感触は、以前と同じはずなのに、今は氷のように冷たく感じられる。この祭典で、何かが起きる。私に向けられたこの悪評の高まりは、偶然ではない。誰かが、意図的にこの空気を作り上げている。


私は、その「誰か」の顔を、はっきりと思い浮かべることができた。優雅な微笑みの下に、冷たい計算を隠す人物。だが、証拠はない。今の私にあるのは、ただの直感と、積み重ねられた悪意の気配だけだった。


私は、記録の束をもう一度取り出した。母の死、ステラの毒、そして今、私自身に向けられている陰謀。全てが、この家という一つの構造の中で、繋がっているような気がしてならなかった。


狩猟祭まで、あと数日。私は、自分がこの祭典で、断罪される側に立たされることを、はっきりと予感していた。だが、逃げるつもりはなかった。私はただ、目の前に並べられた「罪」の一つ一つを、静かに見つめ返すことしかできなかった。


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