23.誰が
毒物の特定は完了していた。グラナの根。ステラに使われたものと同じ毒で、母オフィーリアもまた、その毒によって命を落としていた。私の心臓は冷たい石のように固まり、確信は強固なものとなった。母は殺されたのだ。そして、その背後にいるのは、あの優雅な笑みを浮かべるメルディナに他ならない。
私は、厩舎の隅で、古い治療記録の数ページを広げていた。バルトスが渡してくれたその記録は、私にとって単なる資料ではなかった。それは、私自身の存在の根源を探るための、冷たい鏡だった。馬たちの死の記録、薬草の出がらしの混入、そして、時系列の緻密な一致。全てが、一つの冷酷な連鎖を形成していた。
馬たちが死んだのは、母が薬草茶を飲んでいた時期と完全に重なる。そして、厩舎の古い習慣――薬草の出がらしを飼葉に混ぜるという、無意識の行為。馬たちは、母が使った毒の副産物を摂取し、その結果、心臓の不整脈を経て、やがて命を落としたのだ。
私は、その事実を突き止めた。馬の死は、母が扱った毒の副産物だった。そして、その記録の筆跡は、母オフィーリア自身のものだった。私の前世の知識が、この世界の冷たい現実を解き明かしていく。母は、自らの手で、その毒の危険性を理解し、治療に当たろうとしていたのだ。
だが、その確信は、次の瞬間、冷たい現実によって打ち砕かれた。
「では、誰が」
その問いは、私自身の思考を停止させた。私は、この仮説を立てた。母が自らの手で毒を扱った。その毒の副産物が馬たちを殺した。そして、その毒の隠蔽に関わったのが、公爵家である。そして、その中心にいるのが、メルディナだ。
私は、その仮説を検証するために、過去の記録をもう一度見つめた。メルディナが、5年前のあの事件に関与したのではないか。彼女が、母の死を隠蔽するために、この馬たちの死を「流行り病」として処理したのではないか。
しかし、調べを進めるうちに、動かしがたい事実に突き当たった。メルディナは、5年前の事件の当事者ではなかった。彼女はまだ公爵家に身を置く以前の、遠方の実家で生活していた。公爵家との接点は一切なく、動機も機会もない。彼女が、母の死の真相を知り、それを隠蔽するために動いたという根拠は、どこにも見当たらない。
私の仮説は、根本から崩れる。
私は、自分が抱いていた「母は殺された」という確信が、単なる憶測に基づいていたことを悟った。それは、私自身の感情、そして前世の知識が作り出した、最も都合の良い物語だったのかもしれない。
私は、この厩舎の冷たい空気の中で、ただ一人、その矛盾に打ちひしがれていた。誰が、この家を、この真実を隠しているのか。その答えは、私には見えない。
私は、ただ、静かに、その重圧に耐えるしかなかった。この沈黙が、私をさらに深く、この世界の闇へと引きずり込んでいくのを感じた。




