表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星嶺高校の氷凪くんは、たぶん恋を知らない。~恋愛偏差値0のアオが、学年1位の美少女とギャルを救い救われる話~  作者: にめ
1学期:紬の悩み

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/35

第8話 嘘の彼氏の余韻

# 第8話 嘘の彼氏の余韻


 翌朝の教室は、いつも通りのざわめきに包まれていた。


 窓から差し込む朝日。


 机を並べる生徒。


 昨日の小テストの話をしているグループや、スマホで動画を見て笑っている男子たち。


 どこにでもある高校の朝だった。


 氷凪青は席に座り、鞄から参考書を取り出していた。


 医学部志望者向けの問題集。


 ページを開こうとした、その時だった。


 机の前に影が落ちる。


 顔を上げると、黒金結愛が腕を組んで立っていた。


「青」


「なんだ」


 青は短く答える。


 結愛は机に手をつき、身を乗り出した。


「ちょっと聞きたいことあるんだけど」


「何」


「彼女いるなんて聞いてないんだけど?」


 その言葉に、近くにいた数人の生徒がぴくっと反応した。


「え、氷凪彼女いんの?」


「マジ?」


「昨日なんかあった?」


 青はまばたきを一つした。


「違う」


 それだけ言う。


 しかし結愛は引かなかった。


「違うって何が?」


「昨日、あの子と手繋いで学校来てたじゃん」


「しかも『彼氏』とか言ってたし」


「どういうこと?」


 矢継ぎ早に質問が飛ぶ。


 青は少しだけため息をついた。


 その時。


「黒金さん、落ち着いて」


 隣の席から声がした。


 雪城凛花だった。


 凛花はペンを置き、二人を見る。


「違うの」


「この前、生徒指導の相談の話をしたでしょう?」


「不登校の子」


 結愛は一瞬考える。


「あ……」


「その子よ」


「椎名紬さん」


「氷凪くんは、その子を助けるために協力したの」


「彼氏のふり」


 結愛は数秒固まった。


 それから、顔を真っ赤にする。


「なーんだ!!」


 教室の何人かがびっくりして振り向いた。


「びっくりしたじゃん!」


 青は無言で参考書を開いた。


 結愛は頭をかきながら言う。


「いやだってさー」


「青ってそういうの興味ないじゃん」


 青はページをめくりながら言う。


「ない」


「即答だね」


「受験勉強で忙しい」


 青は淡々と続ける。


「彼女に割く時間なんてない」


 その言葉に、凛花と結愛は一瞬だけ黙った。


 そして。


「……そっか」


 凛花が小さく言う。


「まあ、そうだよね」


 結愛も笑う。


 しかし二人とも、どこか少しだけ残念そうだった。


 その時。


「おはよー」


 元気な声が教室に響いた。


 葉山颯だった。


 鞄を肩にかけたまま席へ歩いてくる。


「なになに?」


「朝からなんか盛り上がってんじゃん」


 結愛が言う。


「聞いてよ葉山」


「青に彼女できたかと思った」


 葉山が一瞬止まる。


 それから青を見る。


「え?」


「マジ?」


 青は問題集を見たまま答える。


「違う」


 葉山は笑った。


「だよな」


「青がそんな青春イベントするわけない」


 結愛が笑う。


「ほんとそれ」


 葉山は椅子に座りながら言った。


「でもさー」


「青ってイケメンだし」


「もし彼女作る気になったら普通にモテるよな」


 結愛が言う。


「今でもモテてるでしょ」


 青は無言でページをめくる。


 朝の教室は、いつもの空気に戻っていった。


 放課後。


 授業が終わり、生徒が少しずつ帰り始めていた。


 青が鞄をまとめていると、教室の入口に人影が見えた。


 制服姿の少女。


 椎名紬だった。


 廊下で少し緊張したように立っている。


 青は席を立った。


 教室の外へ出る。


「椎名さん」


 声をかける。


 紬は顔を上げた。


 そして、少しだけむっとした顔になる。


「……紬です」


 青は一瞬だけ考える。


「そうか」


 紬はため息をついた。


「もう……青先輩」


「まだ作戦中ですよ?」


 青は少し首をかしげる。


「そうだったな」


 紬は言う。


「今日もありがとうございました」


「クラス、大丈夫でした」


 青は頷く。


「よかった」


 紬は苦笑した。


「でもずっと質問攻めでした」


「氷凪先輩ってどんな人?」とか


「ほんとに付き合ってるの?」とか


「いつから?」とか


 紬は肩を落とす。


「ちょっと疲れました」


 青は言う。


「想定してなかった」


 紬は小さく笑う。


「ですよね」


 その時。


「青?」


 横から声がした。


 結愛だった。


「2年にも有名なの?」


 青は肩をすくめる。


「知らん」


 紬と結愛の目が合う。


 数秒の沈黙。


 先に結愛が笑った。


「はじめまして」


「青と同じクラス」


「黒金結愛」


 紬は慌ててお辞儀する。


「二年の椎名紬です」


 結愛は紬を見て目を丸くした。


「かわいいねー」


 紬は少し照れる。


 結愛の視線が一瞬だけ下へ落ちる。


(……大きい)


(これは強敵)


 結愛は心の中でつぶやく。


 しかし笑顔は崩さない。


 青が言う。


「紬」


「帰るよ」


 結愛が驚く。


「え?」


「もう下の名前!?」


 紬は少し顔を赤くする。


「作戦ですから……」


 青は言う。


「約束した」


 結愛は少し黙った。


 それから笑う。


「そっか」


 どこか複雑な笑顔だった。


 校舎を出て、校門へ向かう。


 夕方の風が涼しかった。


 紬が青の隣を歩く。


 少しして。


 紬はそっと青の腕にくっついた。


 青が止まる。


「どうした」


 紬はいたずらっぽく笑う。


「彼女なんですよ?」


 青は数秒沈黙した。


「……そうだったな」


 紬はさらに腕に体重を預ける。


「青先輩、ちゃんと彼氏っぽくしてください」


「難しい注文だ」


「じゃあ」


 紬は少し甘えるような声で言った。


「頭、撫でてください」


 青は止まった。


「それも作戦か?」


「半分」


 紬は笑う。


 青は少し考えた。


 そして。


 ぽん、と軽く頭を撫でた。


 紬は一瞬固まる。


 それから顔を赤くする。


「……青先輩」


「なんだ」


「思ったより破壊力あります」


 青はよく分かっていない顔をしていた。


 しばらく歩く。


 紬が言う。


「青先輩」


「明日も……迎えに来てくれますか?」


 青は少し考える。


「必要なら」


 紬は嬉しそうに笑った。


「必要です」


 夕方の光の中で、二人の影が並んで伸びていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ