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星嶺高校の氷凪くんは、たぶん恋を知らない。~恋愛偏差値0のアオが、学年1位の美少女とギャルを救い救われる話~  作者: にめ
夏休み

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第40話 真夏のプール(午前)

# 第40話 真夏のプール(午前)


 夏休み最終週のある日。


 朝から容赦のない日差しが地面を焼き、空は雲一つない青に染まっていた。遊園地に併設された巨大な屋外プールは、開園直後だというのにすでに人で溢れている。子どもたちの歓声、スピーカーから流れる軽快な音楽、水面を叩く水しぶき。すべてが「夏」という一文字に凝縮されたような光景だった。


 その入口付近に、氷凪青は一人で立っていた。


 白いTシャツに濃紺のハーフパンツ。無駄のない装いは、彼の性格をそのまま表している。腕には入場用のリストバンド。周囲の浮き立つ空気とは対照的に、彼だけが妙に落ち着いて見えた。


 ――とはいえ、内心が完全に平静というわけでもない。


 女子三人とプールに来るなど、これまでの人生で一度もなかったのだから。


「じゃあ、着替えたら入口でね」


 更衣室前で結愛がそう言い、四人は男女に分かれた。


「ああ、わかった」


 そう答えたものの、一人になると妙に時間が長く感じる。水着姿の人々が次々と通り過ぎる中、青はなるべく視線を泳がせないよう、施設案内図に目を固定していた。


(混雑前にスライダー……そのあと流れるプール。昼は分散して食べた方が効率がいいか)


 合理的に予定を組み立てていると――


 周囲がざわついた。


「なあ、見て……」

「モデル?」

「撮影とかじゃない?」

「真ん中の子、やばくね?」


 男子たちの視線が一方向に集中している。


 青も、無意識にそちらを見た。


 そして言葉を失った。


 三人の少女が並んで歩いてくる。


 雪城凛花、結愛、椎名紬。


 まず目に入るのは結愛だった。


 鮮やかなビキニは健康的な肌によく映え、引き締まった腹部と豊かな胸のラインをはっきりと際立たせている。大胆だが下品ではない。太陽の下でこそ輝く、彼女らしい華やかさだった。歩くたびに揺れる大きな胸は存在感を隠そうともしないが、どこか明るく前向きな印象が勝る。


 次に凛花。


 落ち着いた色の上品なデザイン。露出は控えめだが、長い手足と整った体のラインがかえって際立つ。胸元の曲線は主張しすぎず、それでいて確かな存在感がある。背筋を伸ばして立つ姿は、まるでファッション誌の一ページのように凛としていた。


 そして紬。


 可愛らしい色合いのセパレート水着。しかし最大の特徴は――圧倒的な胸の大きさだった。


 しっかりした生地で覆われているにもかかわらず、今にも支えきれなくなりそうなほどのボリューム。歩くたびに柔らかく上下に揺れ、周囲の視線を容赦なく引き寄せる。それでも本人はいつも通りのおっとりした笑顔で、まったく気にしていない様子だった。


 三人が並ぶと、まるで別世界の住人のようだった。


 青はただ立ち尽くす。


 見惚れているという自覚すらないまま、視線を外せない。


「おーい、青ー?」


 結愛が手をひらひら振る。


「待った?」


「……いや」


「どう?」


 くるりとその場で一回転。


 青は一瞬言葉を探した。


「……似合ってる」


 それだけ言うのが精一杯だった。自分でもわかるほど顔が熱い。


「今日のために買ったんだー」


「そうか」


「“そうか”だけ!?」


 結愛が頬を膨らませる。


「もっとこう、あるでしょ。可愛いとか」


「……似合ってる」


「二回目!」


 近くにいた男子が思わず吹き出していた。


「わたしもです!」


 紬が元気よく手を上げた。その動きに合わせて胸が大きく揺れる。


「紬ちゃん、そんなに跳ねるとずれるわよ」


「え、そうなんですか?」


 紬は慌てて胸元を押さえる。その仕草が逆に危うい。


「……大丈夫そうです」


「よかったね」


 結愛が苦笑する。


 凛花は軽くため息をつきながら姿勢を正した。


「まず何からする?」


 モデルのように凛とした立ち姿だった。


 結愛がにやっとする。


「凛花ちゃんも回って見せなよ」


「必要ないわ」


「青、見たいよね?」


 突然振られ、青が固まる。


「……どちらでも」


「どっちでもって何よ」


 結愛は笑いながら凛花の肩を軽く押した。


「ほらほら」


 凛花は一瞬ためらったが、小さく息をついて、ゆっくりとその場で回った。


 風に揺れる髪、しなやかな曲線、上品な佇まい。


 周囲の視線がさらに集まる。


 青は言葉を失っていた。


「……どう?」


 凛花が静かに尋ねる。


「……似合ってる」


「三回目!」


 結愛が即座に突っ込む。


 紬はくすくす笑っていた。


     ◇


 四人はウォータースライダーへ向かった。


「二人一組でお願いしまーす」


「どうする?」


「ぐーぱーにしましょう」


 結果――


 結愛と紬。

 青と凛花。


「ええー!」

「うそー!」


 結愛と紬が同時に不満を漏らす。


「凛花、どっちが前になる?」


「……私、怖いから後ろがいい」


「わかった」


 浮き具に乗り込む。


 前に青、後ろに凛花。


 座った瞬間、距離の近さに二人とも息をのんだ。


 青の後頭部が凛花の腹部付近に触れ、凛花の脚が青の両脇に沿う形になる。密着、と呼ぶしかない距離。


(近い……)


 青は冷静を保とうとするが、顔の熱はどうにもならない。


 背後の凛花も全身が硬直していた。


(落ち着いて……落ち着いて……)


 スタート。


 急降下。


「きゃっ……!」


 凛花が反射的に青にしがみつく。


 胸の感触が背中に当たり、青の思考が一瞬止まった。


 水しぶき、スピード、連続するカーブ。


 着水。


 二人は顔を見合わせる。


 どちらも真っ赤だった。


「……大丈夫か」


「だ、大丈夫……」


 凛花は視線を逸らしたまま答える。


     ◇


 流れるプールへ移動。


「青先輩、今度は私と乗ってください」


 紬が腕を引く。


「あ、ずるい」


「早い者勝ちでーす」


 凛花はまだ頬が赤いまま、静かに浮き輪につかまった。


 四人は寄り添うように流れていく。


 太陽の光、涼しい水、遠くの歓声。


「気持ちいいですねー」


「……そうだな」


 結愛が水を弾く。


「ねえ青、今どこ見てる?」


「前方」


「ほんとかなあ」


 紬が覗き込む。


「顔赤いですよ?」


「気のせいだ」


「絶対気のせいじゃないです」


 結愛が笑う。


「慣れてないんだよねー」


「慣れる必要はない」


「あるでしょ」


 凛花は何も言わないが、ちらりと青を見る。


 そしてすぐに視線を逸らした。


 やがて紬が言った。


「そろそろ、お腹空きましたねー」


 時計は昼近い。


「お昼にしますか?」


「そうね」

「賛成」


 四人はプールサイドに上がる。


 濡れた体に日差しが当たり、一気に体温が戻る。


 売店から漂う焼きそばやポテトの匂いが食欲を刺激した。


 結愛が伸びをする。


「はー、もう楽しい」


「まだ午前だぞ」


「え、うそ」


「本当だ」


「今日長くない!?」


 青は小さく息をつく。


 まだ半日ある。


 非日常の密度が高すぎる。


 この先、さらに騒がしくなる予感しかしなかった。


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