表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星嶺高校の氷凪くんは、たぶん恋を知らない。~恋愛偏差値0のアオが、学年1位の美少女とギャルを救い救われる話~  作者: にめ
夏休み

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
47/80

第33話 約束の花火大会(1)


# 第33話 約束の花火大会


 笑い声の余韻が、まだ病室の中に残っていた。


 窓の外では、八月の夕方の光がゆっくりと色を変え始めている。昼間の強い日差しは少しずつ和らぎ、白いカーテンの端がオレンジ色に染まっていた。


 さっきまで陽葵は、結愛の話に大笑いしていた。

 紬の持ってきた本をぱらぱらと眺めて、凛花の花を何度も見て、そのたびに嬉しそうに目を細めていた。


 そんな時間も、もう終わりに近づいている。


 青は壁の時計を見上げた。


「陽葵」


 呼びかけると、ベッドの上の陽葵がすぐにこちらを見た。


「ん?」


「じゃあ、そろそろ俺たちは帰る」


 その言葉に、陽葵の表情がほんの少しだけ止まった。


 笑っていた口元が、わずかにしぼむ。


「……うん」


 短い返事だった。


 声は明るさを保っていたが、さっきまでの弾みはない。


 青はその違いに気づいた。


 本当なら、もっと話していたいのだろう。

 もっと一緒にいたいのだろう。


 だが、長居はさせられない。陽葵は楽しそうにしていても、疲れないわけではない。病院には病院の時間がある。


 それはわかっている。

 わかっているが、その少し寂しそうな返事を聞くと、胸の奥が小さく重くなった。


 病室の空気が、ほんの少し静かになった。


 その空気を変えたのは、やはり結愛だった。


「じゃあ次は、花火大会かね!」


 ぱん、と手を打つような明るい声。


 陽葵が顔を上げる。

 紬も「おお」と小さく声を漏らし、凛花が目を瞬かせた。


 そして青だけが、少し遅れて反応した。


「……花火大会?」


「そう」


 結愛が、いかにも当然という顔で頷く。


「さっきみんなで話してたじゃん。ねー、陽葵ちゃん」


「うん!」


 陽葵は一気に表情を明るくした。


「さっき約束したの。今度、花火大会行こうって」


「約束?」


 青は眉をわずかに寄せる。


 そんな約束は聞いていない。


 その顔を見て、紬が少し肩をすくめた。


「えへへ……お話してたら、そういう流れになっちゃって」


「勝手だったかしら」


 凛花が静かに言う。少し気にしているようだった。


 だが陽葵は、そんなことは気にもしていない様子で続ける。


「ほんとはね、海にも行ってみたいんだけど」


 そこまで言ってから、陽葵はちらっと青を見た。


「お兄ちゃん、絶対反対すると思って」


「当然だ」


 即答だった。


 一秒の迷いもなかった。


 結愛が目を丸くする。


「うわ、即答」


 紬も苦笑する。


「迷いがないですね……」


 凛花は小さく息をついた。


「予想はしていたけれど、本当に早いわね」


 陽葵は半分呆れたように頬を膨らませた。


「ほらね」


 青は平然とした顔で言う。


「海は日差しが強い。人も多いし、体力も使う。今の陽葵には負担が大きい」


「う……」


「それに暑い」


「それは花火大会も暑いよ?」


「海ほどではない」


 理屈としてはもっともだった。

 少なくとも、兄としての判断としては。


 だが、青はそこで一瞬だけ言いよどんだ。


「それに……」


「それに?」


 陽葵が首を傾げる。

 結愛がにやにやしながら先を待っている。


 青はごくわずかに視線を逸らした。


「水着を着ないといけないし」


 病室の空気が止まった。


 一拍。


 二拍。


 最初に吹き出したのは結愛だった。


「なにそれ!」


 腹を抱えるように笑いながら、結愛が青を見る。


「陽葵ちゃんの水着姿、他の男に見せたくないとか?」


「えーっ!?」


 陽葵が目を丸くする。


「お兄ちゃん、そういう感じなの!?」


「違う」


 青は即答した。


 だが、今度の即答はさっきほど切れがよくなかった。


 紬がふわっと笑う。


「青先輩、わかりやすいです」


「わかりやすくない」


「そうですか?」


 紬はきょとんとしながらも、どこか楽しそうだった。


 凛花も口元を隠して小さく笑う。


「少なくとも、海に反対する最後の理由としては、ずいぶん個人的ね」


「個人的じゃない。一般論だ」


「どこの一般論よ」


 結愛がすかさずツッコむ。


「いやー、でもこれは重症だわ」


「重症?」


 陽葵が問うと、結愛は大きく頷いた。


「うん。シスコン」


「違う」


 また青が言い切る。


「違わないと思います」


 今度は紬が、穏やかな笑顔で追撃した。


「青先輩、かなりシスコン寄りですよ」


「寄りってなんだ」


「かなりはかなりです」


「意味がわからない」


「お兄ちゃん、シスコンなの?」


 陽葵が興味津々で身を乗り出す。


「違う」


「じゃあ、なんでそんなに海ダメなの?」


「危ないからだ」


「あと水着?」


「……それも含む」


「含むんだ」


 結愛が楽しそうに笑う。


「やっぱ相当じゃん」


 青はため息をついた。


「お前ら、面白がりすぎだろ」


「だって面白いし」


「面白いですね」


「ええ、とても」


 結愛、紬、凛花の三人が見事に足並みを揃えた。


 青はわずかにこめかみを押さえる。


 陽葵はそのやり取りを見て、くすくすと笑っていた。

 寂しそうな表情は、もうどこにもない。


 それならそれでいい。


 青がそう思いかけたところで、紬がまた悪気のない顔で口を開いた。


「じゃあ、青先輩は年下好きなんですか?」


 結愛がぴくっと反応する。


「ちょ、紬ちゃん、その質問は……」


 だが、すでに遅かった。


 陽葵の目がきらりと輝く。


「たしかに! お兄ちゃん、どうなの?」


「どうってなんだ」


「だから、年下が好きなの?」


 青は反射的に否定しようとした。


 さっきからシスコンだの何だの好き勝手言われている。変な方向に話が転がる前に、きっぱり違うと言っておきたかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ