第27話 借り物競走の答え
# 第27話 借り物競走の答え
体育祭は終盤に差しかかっていた。
午前から続く競技で、校庭の熱気は最高潮に近い。
グラウンドには歓声が絶えず響き、どのクラスも優勝を目指して最後の追い込みに入っていた。
三年A組のテントでも、生徒たちの視線は次の競技に集中している。
スピーカーから実況の声が流れた。
「続いての競技は――借り物競走です!」
観客席から歓声が上がる。
三年A組のテントでもざわめきが広がった。
「青、頼んだよ!」
黒金結愛が両手を口に当てて叫ぶ。
氷凪青は軽くうなずいた。
「わかった」
本来この競技は雪城凛花が出場する予定だった。
しかし女子騎馬戦で足を捻挫してしまい、急遽青が代わりに出ることになったのだ。
凛花はテントの椅子に座り、包帯を巻いた足を少し上げながらグラウンドを見つめている。
(青……)
少しだけ不安そうに呟く。
結愛が肩を叩いた。
「大丈夫だって。青だし」
凛花は小さく微笑む。
「ええ……そうね」
しかしその視線は、ずっと青を追っていた。
スタートラインでは各クラスの代表が並んでいる。
葉山颯が青の背中を叩く。
「青、A組の命運はお前にかかってる!」
「大げさだ」
青は淡々と答える。
「優勝したらジュース奢る!」
「それは魅力的だ」
「だから本気出せ!」
実況の声が響いた。
「位置について――」
選手たちが構える。
校庭が静まり返る。
笛が鳴った。
一斉に走り出す。
中央に置かれた箱から紙を取る。
青も一枚引いた。
紙を開く。
「……」
ほんの一瞬、動きが止まる。
観客席から声が上がる。
「どうした?」
「氷凪止まってるぞ!」
しかし次の瞬間、青は走り出した。
向かった先は――教員テント。
観客席がざわめく。
「え?」
「先生のとこ行ってる?」
教員テントでは、如月雫が椅子に座り競技を見ていた。
「氷凪くん?」
青は彼女の前で止まる。
「如月先生」
「一緒に来てください」
「え?」
如月は目を丸くする。
「わ、わたし?」
青は真剣な顔でうなずいた。
「お願いします」
「ちょっと待って、借り物競走で先生ってありなの?」
「問題ありません」
「本当に?」
青はすでに如月の手を取っていた。
「ちょ、ちょっと氷凪くん!」
「急ぎます」
「急ぐって……走るの!?」
青はそのまま走り出す。
如月も引っ張られるように走った。
「ちょっと!先生だって急に走らされるの!?」
「気をつけてください」
「それあなたが言うの!?」
観客席がどよめく。
「先生連れてる!」
「なにあれ!」
「氷凪やばい!」
二人はゴールへ向かって一直線に走る。
如月は息を弾ませながら笑った。
「氷凪くん……あなた大胆ね」
「合理的判断です」
「それ合理的って言う?」
そしてそのまま――
一位でゴールした。
校庭がざわつく。
実況が興奮した声を上げる。
「おおっと!氷凪くん、如月先生を連れて一位ゴール!」
「さて、借り物競走の答え合わせです!」
青は紙を実況に渡す。
実況が紙を開いた。
「お題は――」
一瞬の間。
『大人っぽい美女』
校庭がどっと沸いた。
「おおおおお!!」
「なるほどー!」
「確かに!」
実況が笑う。
「これはもう如月先生で間違いないでしょう!」
「A組に加点です!」
如月は呆れたように笑った。
「大人っぽい美女?」
青は真顔で答える。
「はい」
「俺の中で、大人で美人な女性は」
「如月先生しか思いつきませんでした」
如月は一瞬言葉を失う。
「……」
そして少し頬を赤くした。
「氷凪くん……」
「それ、先生をからかってるの?」
「本心です」
「余計に困るわ」
近くの教師たちが笑っている。
「如月先生人気者ー!」
「生徒に口説かれてるぞー!」
「違います!」
如月は慌てて否定した。
A組のテントでは別の意味で大騒ぎだった。
「なんで先生なのよ!」
結愛が叫ぶ。
真凛も腕を組む。
「普通クラスの女子だろ!」
凛花は少し頬を膨らませていた。
(……私じゃないの?)
観客席では紬がその様子を見ている。
「青くん……すごい……」
そして小さく呟いた。
「なんか、青くんらしい……」
青がテントに戻る。
結愛がすぐに詰め寄った。
「青!」
「なんで先生なの!」
青は首をかしげる。
「条件に合っていた」
「私だって美女じゃん!」
青は少し考える。
「……」
「ギャルは違う」
「はあ!?」
クラスが爆笑する。
凛花が静かに声をかけた。
「青」
「ん?」
「……大人っぽい美女?」
青はうなずく。
「そうだ」
凛花は少し視線を落とす。
青は続けた。
「凛花は」
「綺麗な人だ、それにその足では危ない」
凛花の顔が一瞬で赤くなる。
「……え」
その瞬間、結愛が振り向いた。
「ちょっと青!」
「それ私には言わないの!?」
青は真面目な顔で答える。
「結愛は」
「可愛い」
結愛が固まる。
「……え?」
真凛が吹き出す。
「結愛、顔真っ赤!」
「う、うるさい!」
そのとき実況の声が響いた。
「続いての競技は――」
「クラス対抗全員リレーです!」
葉山が立ち上がる。
「きたーーー!」
「青アンカーな!」
「了解」
結愛が拳を上げる。
「A組、いくよ!」
クラス全員が声を合わせた。
「おーーー!!」
体育祭はいよいよクライマックスへ向かっていく。




