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星嶺高校の氷凪くんは、たぶん恋を知らない。~恋愛偏差値0のアオが、学年1位の美少女とギャルを救い救われる話~  作者: にめ
1学期:体育祭

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第25話 ひとりの三者面談

# 第25話 ひとりの三者面談


次の日の放課後。


星嶺高校の三年生の教室では、順番に三者面談が行われていた。


普段はにぎやかな廊下も、この日ばかりは少しだけ空気が違う。


保護者の姿があちこちにあり、生徒たちもどこか緊張した顔をしている。


三年A組の教室では、ちょうど雪城凛花の三者面談が行われていた。


教室の机を挟んで座るのは、担任の如月雫。


そして、凛花の母親。


凛花は背筋をまっすぐに伸ばして座っていた。


姿勢は普段と変わらないが、どこか少しだけよそ行きの空気がある。


如月が資料をめくりながら口を開いた。


「では、雪城さんの状況ですが……」


「成績はご覧の通り、学年一位を維持しています」


凛花の母は資料に目を通し、穏やかにうなずく。


「いつもありがとうございます」


「学校でも、ちゃんとやれているようで安心しました」


如月は少し笑った。


「ちゃんとどころではありませんよ」


「生徒会長も務めていますし、授業態度も非常に真面目です」


「教師側としては、むしろ頼りにしているくらいです」


凛花の母は娘の方を見る。


「凛花さん、頑張っているのね」


凛花は小さくうなずく。


「はい、お母様」


短いやり取りだが、どこか上品な雰囲気がある。


如月は続けた。


「志望校についても、現在の成績なら問題ありません」


「むしろ余裕があるくらいですね」


「ただ……」


凛花の母が少しだけ首をかしげる。


「ただ?」


如月は穏やかに言った。


「少し頑張りすぎるところがあります」


凛花は静かに如月を見る。


如月は苦笑した。


「生徒会の仕事も全部抱え込んでしまうタイプですから」


「もう少し周りを頼ってもいいんですよ」


凛花の母はくすっと笑った。


「昔からそういう子なんです」


「なんでも自分でやろうとするんですよ」


凛花は少しだけ視線を逸らした。


「……気をつけます」


如月は優しく言う。


「無理をする必要はありません」


「雪城さんはもう十分頑張っています」


面談はそれほど長くは続かなかった。


やがて如月が言う。


「では、このまま志望校に向けて頑張っていきましょう」


「なにか相談があれば、いつでも言ってください」


凛花の母が立ち上がる。


「ありがとうございました」


凛花も軽く頭を下げた。


「ありがとうございました」


二人は教室を出る。


廊下には、まだ数人の生徒が順番を待っていた。


その中に、見慣れた姿があった。


氷凪青。


青は廊下の椅子に一人で座っていた。


背筋を伸ばし、静かに順番を待っている。


しかし、その隣の席は空いている。


凛花は一瞬、足を止めた。


(……あれ?)


三者面談は普通、保護者と一緒に来る。


それが当たり前の光景だった。


しかし青の隣には、誰もいない。


(青……ひとり?)


(ご両親は……?)


そのとき、教室の扉が開いた。


「氷凪くん」


如月の声。


「どうぞ」


青は静かに立ち上がる。


「はい」


短く答え、教室に入っていった。


凛花はその背中を見送る。


胸の奥に、小さな違和感が残った。


青が教室の椅子に座る。


向かいには如月。


そして、もう一つの椅子。


保護者用の席は空いたままだった。


如月は少し柔らかい声で言う。


「氷凪くん」


「叔父さんは?」


青は答えない。


数秒の沈黙。


青は視線を少し落としている。


如月は小さく息をついた。


「……いいわ」


「あなたの家の事情は分かってるから」


青は小さく言う。


「すみません……」


「謝らないの」


如月の声は優しかった。


「あなたは悪くないから」


青は少しだけ顔を上げる。


「……はい」


如月は資料を閉じた。


「では、進路の話をしましょう」


青は迷いなく答える。


「志望校は変わりません」


「東都大学医学部です」


如月は静かにうなずく。


「あなたの成績なら、このままいけば十分狙えます」


「むしろ合格の可能性は高い方でしょう」


少し間を置く。


「ただ、氷凪くん」


青は顔を上げた。


「はい」


「本当にそれでいいの?」


青は少しだけ首をかしげる。


「……?」


如月は続ける。


「医学部は簡単な道じゃない」


「大学に入ってからも、かなり大変よ」


「それでも、本当にあなたのやりたいこと?」


青は視線を落とした。


しばらく沈黙が続く。


やがて、青は小さく言った。


「いいんです」


「俺のやりたいことなんて」


少し苦い言葉だった。


如月は静かに青を見る。


「氷凪くん」


「あなたは、誰かのために無理をするタイプね」


青は何も言わない。


如月は続けた。


「でも、あなた自身の人生でもあるのよ」


「忘れないで」


青は小さくうなずく。


「……はい」


面談はそれからもしばらく続いた。


模試の結果。


志望校の判定。


勉強時間の確認。


いくつかの具体的なアドバイス。


そして最後に、如月が静かに聞いた。


「妹さんは元気?」


青は一瞬だけ目を伏せた。


「はい」


「今のところは」


短い返事。


だが、その言葉には少しだけ不安が混じっていた。


如月は優しくうなずく。


「そう」


「よかった」


やがて面談は終わった。


青は席を立ち、軽く頭を下げる。


「ありがとうございました」


「こちらこそ」


青は教室を出た。


廊下に出ると、凛花がまだそこにいた。


青は少し驚く。


「……凛花?」


凛花は青を見る。


「面談、終わったの?」


「ああ」


短い返事。


少し沈黙が流れる。


凛花は少し迷ってから聞いた。


「青は……」


「お一人だったの?」


青は一瞬だけ止まる。


しかし、すぐに答えた。


「事情がある」


それ以上は言わない。


凛花も、それ以上は聞かなかった。


けれど。


青のことを、もっと知りたい。


そう思ってしまう。


そのとき、外から声が聞こえた。


「おーい!青ー!」


校庭からだった。


窓の外を見ると、葉山たちがグラウンドで走っている。


体育祭のリレー練習らしい。


葉山が大きく手を振る。


「アンカー来たぞー!」


結愛もいた。


「青ー!ちょうどよかった!」


「リレー練習してる!」


凛花も窓の外を見る。


クラスメイトが集まっている。


葉山が叫ぶ。


「青!走れ!」


青は少しだけ肩をすくめた。


「……わかった」


青は校庭へ向かう。


凛花も、少し離れて見ていた。


スタートライン。


葉山がバトンを持っている。


「青、アンカーな!」


「わかった」


結愛が言う。


「青ってほんとに速いの?」


葉山が笑う。


「速いってレベルじゃねーよ」


「こいつ元陸上部」


結愛が驚く。


「え!?」


「しかも高校でもやってた」


「マジ!?」


青は淡々と言う。


「もうやめてる」


「なんで?」


結愛が聞く。


青は短く答えた。


「事情がある」


それ以上は言わない。


葉山が叫ぶ。


「いくぞー!」


リレーが始まる。


バトンが次々に渡る。


最後に青。


青は走り出した。


一瞬で加速する。


「速っ!!」


「え、なにあれ!」


「やば!!」


クラスがざわめく。


葉山が笑う。


「だから言っただろ!」


結愛が目を輝かせる。


「優勝いけるじゃん!」


青はゴールラインを駆け抜けた。


夕焼けの校庭。


凛花はそれを見ていた。


青の走りは、まるで風みたいだった。


勉強ばかりしている人の走りではない。


ずっと走ってきた人の走り。


(青……)


(あなたはどんな人なの?)


体育祭へ向けた日々が、少しずつ動き始めていた。


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