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星嶺高校の氷凪くんは、たぶん恋を知らない。~恋愛偏差値0のアオが、学年1位の美少女とギャルを救い救われる話~  作者: にめ
1学期:凛花の悩み

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第23話 サボりの朝

# 第23話 サボりの朝


駅のホームのベンチ。


通勤ラッシュの喧騒から少し離れた場所で、雪城凛花は小さく肩を震わせながら座っていた。


さっきまでの出来事が、まだ体の中に残っている。


電車の中。


押し込まれる人の波。


背後から触れてきた手。


思い出しただけで、胸が締めつけられた。


凛花は自分の膝の上で手をぎゅっと握る。


(怖かった……)


そう思った瞬間、視界の端に青い缶が差し出された。


「凛花、温かいココア」


氷凪青だった。


手には自販機で買ってきたココア。


まだ温かい。


凛花は少し驚いた顔でそれを受け取った。


「ありがと……」


両手で缶を包む。


指先に伝わる温かさ。


凛花はそっと一口飲んだ。


甘い。


そして温かい。


体の奥まで、じんわりと温度が広がっていく。


凛花は小さく息を吐いた。


「……落ち着いたわ」


青は隣に座った。


「よかった」


少し間。


青は凛花の顔をちらっと見る。


「でも無理するなよ」


「こういうの、あとから来ることある」


凛花は少し驚いた。


「詳しいのね」


青は肩をすくめる。


「ニュースとかで見る」


「精神的に来るって」


凛花は少し笑った。


「そうね」


ココアをもう一口飲む。


さっきまで震えていた指が、少し落ち着いてきた。


青はさりげなく言う。


「甘いの嫌いじゃないよな」


凛花

「え?」


「クレープとか」


凛花

「覚えてるの?」


「この前、文化祭の屋台の話してた」


凛花は少し嬉しそうに笑った。


「意外と覚えてるのね」


「合理的に覚えてる」


凛花

「それ便利すぎる言葉よね」


二人は少し笑う。


少し沈黙。


駅のアナウンスが流れる。


電車がホームに入る音。


やがて凛花が言う。


「さて……」


「高校行かなきゃね」


青は少し考えてから言った。


「それなんだけど」


凛花

「?」


「ちょっとサボらないか?」


凛花の思考が止まる。


「え?」


完全に予想外だった。


「青が?」


「サボるって言うの?」


青は平然としている。


「気分転換」


「今すぐ学校行っても集中できないだろ」


凛花

「……」


確かに。


まだ少し怖さは残っている。


でも。


「だからって学校サボるの?」


青は立ち上がった。


そして凛花の手を軽く引いた。


「行くぞ」


凛花

「ちょ、ちょっと!」


慌てて立つ。


「青!」


「待ちなさいよ!」


青は振り向かない。


「合理的判断」


凛花

「その言葉万能すぎない!?」


結局。


凛花は文句を言いながらついて行った。


---


駅から少し離れた小さな公園。


朝の光。


まだ人は少ない。


ベンチに座る二人。


制服姿のまま。


手にはクレープ。


凛花はクレープをじっと見ている。


「……」


「食べないのか」


凛花

「朝からクレープなんて初めてよ」


「普通に売ってた」


凛花

「そういう問題じゃないの」


一口。


もぐ。


凛花の目が少し丸くなる。


「美味しい……」


「それはよかった」


凛花

「青は食べないの?」


「食べる」


青は自分の手元を少し持ち上げた。


青の手にも、別のクレープがある。


凛花

「青がクレープ食べてるの、ちょっと意外」


「朝だから軽いやつにした」


凛花は自分のクレープと、青のクレープを見比べた。


「私はいちごで、青はチョコなのね」


「無難なの選んだ」


凛花

「絶対、私のいちごの方が美味しいわよ」


「そうなのか?」


凛花

「そうよ。ほら」


凛花は少しだけクレープを青の方へ差し出した。


青は一瞬だけ迷ったが、自然に身を寄せて一口食べる。


「……確かに」


凛花

「でしょ?」


少し得意そうな顔になる。


青は自分のクレープを見てから、凛花に差し出した。


「じゃあ、凛花も食べるか?」


凛花

「え?」


「交換ってほどじゃないけど」


「一口なら」


凛花の頬が少し赤くなる。


「ちょ、ちょっと……それって……」


「嫌だったか?」


凛花

「い、嫌じゃないけど……」


凛花は少し視線を逸らしながら、青のクレープを小さく一口食べた。


凛花

「……こっちも美味しい」


「よかった」


凛花は手に持ったクレープを見つめる。


(これ、ほとんど間接キスじゃない……?)


そう思った瞬間、急に顔が熱くなった。


青は特に気にした様子もなく、普通にクレープを食べている。


凛花

「青って、そういうの全然気にしないのね」


「何がだ?」


凛花

「……なんでもない」


少し沈黙。


青が言う。


「1限サボったな」


凛花

「青が連れてきたんだからね」


「私は知らないわよ」


青は少し考える。


「俺のせいか」


そして肩をすくめる。


「そういうことにしとく」


凛花

「どういうことよ」


「先生に怒られたら」


「俺のせいにしとけ」


凛花

「青が怒られるじゃない」


「別にいい」


「合理的判断」


凛花

「またそれ!」


凛花は笑う。


「青って意外と悪いことするのね」


「さっきのは必要だった」


凛花

「必要?」


「凛花、まだ顔固い」


凛花

「……」


少し黙る。


そして小さく笑った。


「ほんとだ」


空を見上げる。


青空。


風が少し吹く。


凛花

「学校サボったのなんて……」


「初めてよ」


「そうなのか」


凛花

「ええ」


「ずっと勉強一筋だったから」


「俺もかな」


「勉強ばっか」


凛花

「青は」


「どうしてそんなに勉強頑張ってるの?」


青は少しだけ考えた。


「助けたい人がいる」


凛花

「助ける?」


「それで勉強?」


「頭が良くないとできないことがある」


「資格がないとできないこともある」


凛花

「なるほどね」


「凛花は?」


凛花は少し迷う。


「その……」


「笑わない?」


「笑わない」


凛花は少し照れた顔になる。


「親の教育方針でもあるけど……」


「私としては……」


少し間。


「振り向いてほしい人がいるの」


青は驚いた。


「凛花にそんな人が?」


凛花

「なによその言い方」


「いや」


「なんかいいなって思って」


凛花の頬が少し赤くなる。


「それで」


「振り向いてもらえた?」


凛花

「……」


少し笑う。


「もうちょっとかな」


「そっか」


「応援してる」


凛花は小さく呟いた。


「……あんたのことだよ」


「ん?」


凛花

「ばか」


「え?」


凛花はすぐ笑顔になる。


「なんでもなーい」


「ありがとう」


その瞬間。


青の胸が少しだけドキッとした。


凛花の笑顔。


それが妙に眩しく見えた。


凛花が立ち上がる。


「そろそろ学校行こう」


「勉強したい」


青も立つ。


「そうだな」


「サボりはここまでだな」


二人は並んで歩き出した。


---


しばらくして。


星嶺高校。


教室のドアを開ける。


ガラッ。


クラスの視線が集まる。


葉山颯がニヤニヤしていた。


「おお?」


「二人して朝帰り?」


「違う」


「トラブル」


「ほんとにー?」


その時。


黒金結愛が手を振った。


「二人とも遅いよー」


凛花

「ごめん」


少し間。


凛花

「あと……」


「ありがとう」


結愛は一瞬きょとんとする。


そしてすぐ笑った。


「うん!」


いつもの明るい笑顔。


しかしその笑顔の奥で。


結愛の胸の中には、少しだけ複雑な感情が揺れていた。


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