表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星嶺高校の氷凪くんは、たぶん恋を知らない。~恋愛偏差値0のアオが、学年1位の美少女とギャルを救い救われる話~  作者: にめ
1学期:結愛の悩み

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
21/84

第14話 恋人のフリ(1)

# 第14話 恋人のフリ


 放課後。


 結愛との話を終えたあと、氷凪青は一度、生徒会室へ戻ってきていた。


 廊下には、すでに下校する生徒たちの足音がまばらに響いている。窓の外では、運動部の掛け声が遠く聞こえ、夕方の光が校舎の白い壁を薄く染めていた。


 青は生徒会室の扉の前で一瞬だけ立ち止まり、軽くノックしてから中へ入る。


 生徒会室の中は静かだった。


 数分前まで青と凛花が一緒に作業していた机の上には、まだ書類が広がっている。コピー用紙の端を押さえる透明な文鎮、開いたままのファイル、整然と並べられたペン。生徒会長らしい几帳面な空気が、そのまま部屋の中に残っていた。


 雪城凛花は机に向かっていたが、扉の音で顔を上げた。


「……氷凪くん?」


 予想していなかったのだろう。ほんの少しだけ目を見開く。


 青は短く言った。


「雪城さん。すみません、急用ができました。今日は先に帰ります」


 凛花は一瞬だけ視線を揺らした。


「急用、ですか」


「はい」


 青の返答は簡潔だった。だが、いつもの簡潔さの中に、今日は少しだけ急ぎの気配がある。


 凛花はすぐにそれを感じ取った。


「……わかりました」


「すみません」


「いえ」


 青は軽く頭を下げ、そのまま踵を返す。


 けれど、扉に手をかける直前で、ふと動きを止めた。


「……あ」


 振り返る。


 凛花が書類を持ったまま首を傾げた。


「どうしましたか?」


 青はわずかに間を置いてから言った。


「雪城さん、相談があると言っていましたよね」


 その言葉に、凛花の肩がほんの少し揺れた。


「……ええ」


「急ぎですか」


 凛花は言葉に詰まる。


 本当を言えば、急ぎではない。


 けれど、先延ばしにしたい相談でもなかった。


 中間試験の順位発表のあと、ようやく作れた二人きりの時間。そこでも結局言い出せず、今日こそはと思っていた。


 それでも——今の青に呼び止めるようなことはしたくなかった。


 青は今、明らかに誰かのために動こうとしている。その表情を見ればわかる。


「……明日でも大丈夫です」


 凛花はそう言った。


 言ってから、ほんの少しだけ胸が痛んだ。


 青は静かに頷く。


「すみません。では、明日。必ず」


「はい」


 青はもう一度軽く頭を下げ、生徒会室を出ていった。


 扉が閉まり、部屋の中に静寂が戻る。


 紙をめくる音も、ペンを走らせる音も、しばらく生まれなかった。


 凛花は立ったまま、閉じた扉を見つめる。


「……急用」


 ぽつりと呟く。


 思い出すのは、少し前の光景だった。


 黒金結愛が、生徒会室に顔を出したこと。


 そして、青がそのまま彼女と一緒に出ていったこと。


 黒金結愛。


 明るくて、誰とでも距離が近くて、教室の中心にいるような女の子。


 自分とは正反対のタイプ。


 凛花は自分でも気づかないうちに、書類の端を少し強く掴んでいた。


(……あんなに急いで)


(黒金さんと何かあったのかしら)


 数秒、沈黙。


 脳裏に浮かんだ言葉に、自分で驚く。


(……まさか)


(デート?)


「……っ」


 凛花ははっとして、小さく息を呑んだ。


 自分で考えて、自分で動揺する。


「……私は何を考えているの」


 低く呟き、視線を逸らす。


 そんなはずはない。


 氷凪青は、そういう人ではない。


 それに、黒金結愛の相談かもしれない。急ぎの事情なのかもしれない。そう考える方が自然だ。


 頭ではそう理解している。


 けれど、胸の奥のざわめきは、理屈だけでは収まらなかった。


 凛花はゆっくり椅子に腰を下ろす。


 開いたままの書類に目を落としたが、文字が頭に入ってこない。


 青が「明日。必ず」と言った声だけが、妙にはっきり耳に残っていた。


「……必ず、か」


 そう呟いて、凛花はそっと書類を閉じた。


 今日はもう、これ以上集中できそうになかった。


 ◇◇◇


 校門の前では、結愛がスマートフォンを見ながら立っていた。


 だが、画面に映るメッセージを本当に読んでいるわけではない。視線はしょっちゅう校舎の方へ向き、またスマホに戻る。それを何度も繰り返している。


(まだかな……)


 さっきは勢いで平気な顔をして別れたけれど、実際のところ、少し心細かった。


 相談したことで少し楽にはなった。


 けれど、ストーカーかもしれない相手が今もどこかで見ているかもしれない、という事実は消えない。


 そんな状態で一人で校門に立っていると、どうしても周囲の視線が気になる。


 誰かが通るたびに反応してしまいそうになる自分が、少し嫌だった。


 その時。


「待たせた」


 後ろから、聞き慣れた低い声がした。


 結愛は勢いよく振り返る。


「青」


 顔を見た瞬間、胸の奥の緊張が少しだけほどけた。


「ごめん、待った?」


「いや」


 青はいつもの表情のまま首を横に振る。


「生徒会室に戻っていただけだ」


「そっか」


 結愛は笑ってみせた。


「ううん、今来たとこ」


 ありがちな返しだな、と自分で思ったが、青は特に気にした様子もない。


「そうか」


 それだけ言って、自然に歩き出す。


 結愛もその隣に並んだ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ