第12話 相談
# 第12話 相談
中間試験が終わって数日後。
星嶺高校の廊下は、朝から妙にざわついていた。
理由はひとつ。
**中間試験の順位発表。**
三年生の廊下の掲示板の前には、すでに人だかりができていた。
「もう出てる!」
「今回の順位!」
「見える?上位!」
「雪城また一位かな?」
そんな声が飛び交っている。
掲示板の前では、生徒たちが背伸びをしたり、肩越しに順位を覗き込んだりしていた。
少し離れた場所で。
葉山颯が腕を組み、深刻な顔をして立っていた。
「……見たくない」
隣にいた黒金結愛が呆れたように言う。
「今さら逃げても意味ないでしょ」
「ある!」
葉山は真剣だった。
「精神的ダメージを回避するという意味では大いにある!」
「ないない」
結愛は肩をすくめる。
「結果はもう決まってるんだから」
その横で、氷凪青は特に気にする様子もなく掲示板の方へ歩いていった。
人だかりの隙間に入り、順位表を見る。
白い紙に、学年順位が上から順に並んでいた。
そして最上段。
**1位 雪城凛花**
そのすぐ下。
**2位 氷凪青**
青は特に表情を変えない。
(予想通りだな)
それだけだった。
後ろから葉山が恐る恐る近づいてくる。
「……どうだった?」
青は短く答えた。
「いつも通りだ」
「え?」
葉山が掲示板を見る。
「うわ、ほんとだ」
「また雪城一位か」
「で、青が二位」
結愛も横から覗き込む。
「安定すぎでしょ、この二人」
「もはや固定席だよね」
葉山は苦笑した。
「この二人だけ別のリーグにいる感じだな」
青は淡々と言う。
「順位は結果だ」
「過程の方が重要だろ」
葉山が呆れる。
「いや普通結果気にするだろ」
「気にしても変わらない」
結愛が笑う。
「はいはい、合理主義」
葉山は自分の順位を探し始めた。
「えーっと……俺どこだ……」
「……あった」
「……終わった」
結愛
「何位?」
葉山
「聞くな」
青
「努力不足だ」
葉山
「冷たい!!」
その少し離れた場所。
雪城凛花も掲示板を見ていた。
銀髪の長い髪が、廊下の光を受けて静かに揺れている。
周囲の生徒が小声で話していた。
「また雪城一位だ」
「すごいよな」
「ずっとトップじゃん」
「氷凪もすごいけどな」
凛花は特に反応しない。
ただ静かに順位表を見ていた。
そして、すぐ下の名前を見る。
**氷凪青**
(今回も……二位)
ほんの一瞬だけ視線が揺れる。
(やっぱり近い)
凛花は少しだけ息を吐いた。
青はいつも二位。
だが点数差はわずかなことが多い。
(いつか……追い越されるかもしれない)
そんな考えが一瞬よぎる。
だがすぐに表情を戻した。
凛花は静かに掲示板から離れる。
――――――――――
その日の放課後。
生徒会室。
窓から夕方の光が差し込んでいる。
部屋の中には二人だけだった。
雪城凛花と、氷凪青。
机の上には書類の束。
文化祭準備の資料。
部活動の申請書。
学校行事の報告書。
生徒会の仕事は意外と多い。
青は書類を一枚ずつ確認していた。
「この予算案」
凛花が顔を上げる。
「なに?」
青は紙を指で示す。
「ここ」
「合計が合ってない」
凛花は書類を覗き込んだ。
「……ほんとね」
計算をし直す。
「数字が一桁ずれてる」
青
「提出前でよかったな」
凛花
「ええ」
「ありがとう」
青は特に気にした様子もなく次の書類を見る。
部屋の中は静かだった。
紙をめくる音。
ペンの音。
窓の外から聞こえる運動部の掛け声。
しばらくして。
凛花が口を開いた。
「氷凪くん」
青は書類を見たまま答える。
「なんだ」
凛花は少し言葉を探していた。
「あとで……ちょっと相談があるんだけど」
青は書類を置いた。
「めずらしいな」
「進路相談か?」
凛花は一瞬沈黙する。
それから小さく首を振った。
「……後で話すわ」
青
「わかった」
それ以上は聞かない。
凛花の表情が少し曇っていることには気づいていたが、理由までは追及しなかった。
その時。
コンコン。
生徒会室の扉が軽く叩かれた。
「青、いる?」
ドアの隙間から顔を覗かせたのは、黒金結愛だった。
青は振り向く。
「結愛、どうした」
凛花の手が止まった。
(……結愛?)
(下の名前?)
凛花の視線が二人に向く。
結愛は少し困ったような表情をしていた。
「ちょっと……相談があるんだけど」
青は椅子から立ち上がる。
「ここでいいか?」
結愛は首を横に振る。
「いや……」
「ここだとちょっと話しにくいというか……」
青は頷いた。
「わかった」
それから凛花を見る。
「雪城さん、少し席外します」
凛花は静かに答える。
「ええ、わかったわ」
青と結愛は生徒会室を出ていった。
扉が閉まる。
静寂。
凛花はしばらく書類を見ていた。
だが手は止まっている。
(なんで……)
小さく息を吐く。
(なんで私には敬語なのよ)
(しかも苗字で……)
(あの二人……)
凛花は窓の外を見る。
夕焼けが校庭を赤く染めていた。
――――――――――
一方。
廊下。
青と結愛は窓際に立っていた。
青が聞く。
「相談ってなんだ」
結愛は少しだけ視線を逸らした。
「……うーん」
「ちょっとさ」
「ここじゃ全部話しにくいんだけど」
青
「?」
結愛は頭をかく。
「今ちょっとだけ時間いい?」
「ここじゃなくて、少し外で話したいんだけど」
青
「今でも構わないが」
結愛
「いや、今日はちょっと準備してから話したいというか……」
青は少し考える。
「急ぎじゃないのか」
結愛
「うん」
「ただ……青に聞いてほしいだけ」
青
「わかった」
結愛は少し安心したように笑った。
「ありがと」
「またちゃんと話す」
青
「了解した」
――――――――――
生徒会室。
凛花はまだ一人で座っていた。
書類は開いたまま。
(結愛……)
(氷凪くん……)
少し胸の奥がざわつく。
(私の相談……)
(まだ話してない……)
やがて。
扉が開く。
青が戻ってきた。
凛花はすぐに表情を整える。
「相談は終わったの?」
青
「ああ」
凛花は少し迷った。
青が戻ってきたのを見て、声をかけようとする。
だが。
廊下の方から、生徒たちの声が聞こえてきた。
生徒会の仕事もまだ残っている。
凛花は一度言葉を飲み込んだ。
(……今じゃないわね)
そう小さく思い、再び書類に視線を落とした。




