用賀
昭和16年10月26日日曜日、用賀、東條自邸。
東條首相と山口親子が用談するのは、日曜日朝、用賀の東條私邸と決まりつつあった。
今日は、吾朗が満洲出張中で、志郎だけだ。
「吾朗君から連絡があったそうだ」
「そうですか。で、どうです?」
「うまくいってるらしい」
「それはよかった」
「これは肝だからな」
「連絡会議は?」
「まずは半年後に持っていく」
「これをずるずると」
「いきなり×は総スカンだが、条件付き×を」
「徐々に△に持っていき」
「角をとって○にする」
「日本人は熱しやすく冷めやすい」
「議会もそれでいきますか?」
「饅頭も爆弾も用意した」
「早く辛抱強い日本人に戻したいですね」
「内政の方ですが、そろそろ発行限度額です」
「うむ。蔵相は心配するなと言ってるが」
「しかし、この時点での信用崩壊は」
「あれを前倒しするか?」
「微妙ですねぇ」
「やはり、御前会議が終わらないと動き辛い」
「東條さんは、軍人ですからね」
「やはりお上の一声は欲しい。思った以上だよ」
「律儀ですね」
「規則は守らねばいかん」
「かまいません。それを想定して、わたしや吾朗がいます」
「すまん。あと数日だ。辛抱してくれ、としか言えん」
「ご心配なく。ちゃんとやりますよ」
「それに、甘粕さんや鮎川さんもいる」
「わかった。御前会議が終わり次第、やる」
「御前会議のあとは、親任状授与」
「議会があります」
「らむぜいの方は」
「憲兵隊情報を内務省にわたした」
「水増し分と一緒にね」
「あちらは動きにくくなるでしょう」
「海軍をどうするか」
「吾朗もまだ接触できてない」
「陸軍の要人たちはほぼ終わってます」
「海軍については、必ずという訳でもない」
「技術開発と生産は統合したいのです」
「陸軍だけでもやれる結論だったと思うが」
「そうですが。海軍工廠が使えると捗ります」
「何も日本乗っ取りを企ててるわけではない」
「はい。誘導と促進が目的です」
「後回しでもいいのではないか?」
「前面に出てこない限り、許容できますが」
「内務省の密偵は継続させる」
「う~ん。そうしますか」
「吾朗君は切り札だ。ここぞの時しか出せないよ」
「ま、予定も詰まってますし」
「米国、満州、蘭印・・・」
「あと特務機関を一通り」
「今年いっぱいは、錨は無視しよう」
「その吾朗ですが、船で行きたいと言ってました」
「ほう。空路が早いと思うが」
「客船に乗ってみたいと。それに、船は人が多いですし」
「たしかに飛行艇では人が少なすぎる」
「ただ、この時期に便船があるかな?」
「それがお願いです。碧素が仕上がり次第」
「わかった。段取りしよう」
「米国はどう出るかな」
「今頃、マジックが激減して疑心暗鬼でしょう」
 




