国策検討会議 第三日
昭和16年10月25日土曜日、午前9時、宮城
2つの大項目を抱えた第61回大本営政府連絡会議は、午前9時にはじまった。
「2番。対米交渉を打ち切りし場合の、内外の情勢如何!」
「米国の帝国への宣戦または攻撃はある得るか。英蘭は」
「あり得ませんな」
「蔵相。それは早急というものだ。わからんよ」
「そうだな。あるかもしれん」
「来たらざるを恃む勿れ。えへん」
「では、あるないはわからんということで、次!」
「「ええー」」
「支那事変への米英蘭の軍事介入はあり得るか。その規模と影響」
「間違いなくあるでしょう。というか、すでにやっている」
「さよう。蘭はともかく、米英はしっかりと支援している」
「支那の海岸線と仏印は閉じたが、まだビルマが開いている」
「軍事介入としてはどうかな?」
「比島は近い。航空兵力は増強されている節がある」
「独逸の支援も続いているらしい」
「それは穏やかではない」
「ソ連も当然、やっているでしょうな」
「共産党にはやっているでしょう。国民党へもやっていておかしくない」
「もともと国共合作はソ連の工作です」
「では、帝国は四面楚歌ということで、次!」
「「はー」」
「欧州戦局は如何に帝国に影響を及ぼすか、独蘇戦、独英戦および独米戦」
「よもや、独逸は勝てんでしょう」
「ソ連に攻め込む前に言ってくれれば、帝国も」
「いや、昨年の対英戦の時でもやりようはあった、帝国も」
「本当に同盟国なのですかね」
「米国が参戦しなければ、独逸はまだ粘れる」
「それでも、早いうちに英ソのどちらかを落とさないと」
「モスクワはもうすぐ冬でしょう?」
「今年の冬は早いらしい」
「「・・・」」
「一昨年の波蘭侵入が間違いなのですよ。まさか、英仏が参戦するとは」
「それはヒ総統も心外だったらしい」
「そうなのですか、外相」
「ソ連とは話がついていたが、英仏との根回しをさぼっていた」
「帝国との根回しも、な」
「たしかに、英仏参戦直後に香港・シンガポールへ進撃すれば」
「外相も言うねぇ」
「いやいや、同盟とはそういうものでしょう」
「今の状況では、所詮は三国同盟は次善の策です」
「そうかも知れん」
「帝国は後追いです。主導権は独逸にだけある」
「むぅ。引っ張りまわされてるだけか」
「英ソ共に米国の支援物資がある限りは、全面敗北はあり得ません」
「多少の戦線の移動はあるでしょうが」
「独逸の占領地軍政もうまくない」
「ですから、独逸の占領地が増えても、同盟国は増えないのです」
「あれでは傀儡も立てようがないからな」
「つまりは、欧州戦局は帝国に影響を及ばさないでしょう」
「向こう数年はそうだと思う」
「独逸またはソ連の敗戦が確定しない限り、な」
「米国はどうだ?」
「米国は今、英ソ豪に軍需物資を送りつつ、自軍の軍備を急いでいます」
「恐慌の前を思えば、米国は国力をまだ半分も出していない」
「すると?」
「米国は、英ソの支援と対独戦争、それに対日戦争を同時に遂行できます」
「むむ。米国に不足はないのか?」
「ゴムぐらいでしょうね。帝国が南方を抑えたとして」
「ゴムに代わる人造樹脂を開発中と聞く」
「「ああ~」」
「次です。支那事変の見透しと所要物資・年限・予算・損害」
「総長、いいですね?」
「ああ」
「陸軍としては、これ以上の打つ手はない」
「政府としても、よほどの賠償を取れても、許容できません」
「聖戦完遂はどうした?」
「軍令部長。重慶爆撃には海軍も参加したろう」
「わかった」
「国力の全部を回しても、降参するかどうかは重慶政府次第です」
「邦人引き揚げに合わせて、戦線縮小ですね」
「国力回復には陸軍の3割縮小と復員が欲しい」
「考慮するよ、蔵相」
「右、民需、民間企業、国民の動静見透し」
「国力回復は、さきほど申し上げた」
「国民はどうだろう」
「大政翼賛会はうまくいってない。却って国民を刺激しているな」
「御曹司の負の遺産か」
「むしろ昔の政党の方が、国民の不満を吸収していたのでは?」
「政府はやり難かったが、国民の方から見ると、そうだろうな」
「以上を持ちまして、国策再検討の要項をすべて討議終わりました」
「明後日、月曜日に決定を行い、御前会議にはかります」
「いやー、昨日と違って捗りますな~」
「今日は統帥事項が少ないですから」
「気のせいか、話も合っているような」
「同じ日本人ですから」




