国策検討会議 第四日 その1
昭和16年10月27日月曜日、宮城
第62回大本営政府連絡会議が始まった。
「今日は和戦の決定を行います」
「その前に、これまでの検討をまとめてみました」
全員が、配られたガリ版刷りの冊子をめくる。
「どうも歯切れの悪い文言ですな」
「それに文章・語句も揃っていない」
「吉とは、なんだ」
「幹事も時間がなかったもので、推敲していない」
「まあ、分からんでもないが」
『1.対米戦争の勝算如何。
決定的な勝利の途なし。
米白人兵60万ないし120万の死傷者をもって講和可と見込む。
開戦1年にて不敗の体制が確立でき、4年以上の継続を見込む。
作戦計画にあたっては、政府は左記を考慮するよう統帥部に求む。
イ 宣戦布告を実施し、正々堂々の開戦を行うこと、
ロ 国際法を順守すること、
ハ 70隻の海防艦を商船護衛のため、開戦前に整備すること
ニ 第2列島線を進出限界とすること。
2.対米交渉を打ち切りし場合の、内外の情勢如何。
米英蘭の帝国に対する宣戦布告ないし武力攻撃の可能性は小さい。
しかし、支那への支援および軍事介入は可能性が大。ソも同様。
欧州戦局は、独逸敗北かソ連敗北が確定するまでは、帝国への影響は小。
支那事変の完遂はいまだ可能なりも、国力に対する影響が顕在しつつあり。
民間、国民の動揺は見られないが、戦意維持の為の方策をさらに要する。
3.対米交渉妥結の条件如何。
10月2日日米覚書を全的受容の場合、国際的地位の低下は免れない。
また、右は米英蘭に肯定的、独伊に否定的印象を与え得る。
日米妥結を図る場合、三国同盟脱退、仏印支那撤兵、何れも早いが吉。
右、仏印支那撤兵は帝国勢力圏に大いに影響を与う。特に満洲、朝鮮。
右、影響を最小化するためには、国力向上・国威発揚の施策が必要。
日米通商貿易が復活の場合、1年以内に国力・民間・国民に好影響を見込む。
右、限定・段階的な復活の場合、優先項目の選定が重要』
「では、帝国国策の決定を行いたい」
「首相として申し上げる」
「内閣の統一見解は、勝てない戦には反対。以上です」
「統帥部は、勝てる戦は今しかできない。以上」
「「「えええーっ」」」
「即時開戦なのか。明日にでも」
「さすがにそれはない。1カ月後とする」
「ほんとに勝てるのか?」
「今なら勝てる」
「60万人殺すのですな?」
「あ、いや、うん。殺します」
「連合艦隊を4回沈めるのですな?」
「なにを!」
「いや、ほれ。聯合艦隊4個分の米軍艦艇を沈めるのですな?」
「「お、おう」」
「70隻の海防艦は?」
「駆潜艇を50隻、開戦後3ヶ月で揃えて見せる」
「「このー」」
「「なんだー」」
「議長、決をとれ」
「いや、その前に質問があります。1つだけです」
「わたしも質問が1つあります」
「「なに」」
「いいでしょう、まず蔵相からどうぞ」
「今しか、とはどんな意味でしょうか?」
「統帥事項だが、なんぼか教えてやろう」
「ありがたい」
「天文気象、以上だ」
「上陸戦の為の波高、天候、それに奇襲の為の霧ですな」
「蔵相。なぜわかる」
「敵地は海の向こう。であれば、上陸か着陸」
「ま、そんなものだ。それに宣戦布告後だからな」
「それだけなら、まだ先に延ばせるでしょう」
「うむ、まあ」
「いけません、総長」
「他に何が?」
「石油だ。海軍の石油が不足する。こっちが大きい」
「どれくらい猶予があります」
「詳しくは教えられんが、来春には決戦4回どころか、3回も危うくなる」
「戦機は後に来ぬ」
「ありがとうございました」
「おう」




