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ごほうびは、仕事帰りのドーナツで〜恋愛経験ゼロのドライフルーツ系女子は、イケオジ店長に口説かれる〜  作者: 架け橋 なな


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9/11

イケオジ、塩対応する

 ――夜、閉店の一時間半前。


 やるべき作業を早めに終わらせた私は、厨房でずっとそわそわしていた。なぜなら今日は『コンちゃん』と呼ばれるお客さんが来る予定の日なのだ。


 佐倉さんの「いらっしゃいませ!」という言葉を聞くたび、私はレジ近くまで歩き、店内をこっそり見渡している。最初からカウンターに出ていればいい話なのだが、人気がない時に表に居たら佐倉さんが不審に思うに違いないので、それは出来ない。



 今日も一週間前と同じく、多めにドーナツを作ってしまった。色んな種類が置いてあった方が、きっとあの人は喜んでくれる。そう考えたら自然と手が動いていた。


 絶対来るという確証もないのに、我ながら早まったことをしたものだ。いい歳した男がこんなに浮かれているなど、極力周りに気付かれたくはない。


 誰に見られているわけでもないのに、私はポーカーフェイスで耳を澄ませ続けていた。



 佐倉さんの元気な挨拶の声が聞こえ、私はまた店の中を確認しに行く。


 するとショーケースの前に、たった一人だけお客さんが居るのが見えた。長身で黒いコートを着ている男だ。


「店員さーん。すいません。ちょっと店長さんを呼んできてくれませんか?」


 男の声を聞き、ある確信を抱いた私はすぐ厨房を出た。佐倉さんが呼ぶより早く、ショーケースの前に到着する。そこには厄介な客がニヤリと笑って立っていた。


「よう。頑張ってるか、幸太郎」


「帰れ」


「え。俺、今来たばっかりなんだけど?」


 わざとらしく目を見開いた男へ、私はため息を返した。このオシャレパーマの色男――深井 理彦(ふかい りひこ)は私の同級生で昔からの友人だ。


 彼は小学校から高校まで同じで、何の因果かプレジール近くの大手企業に勤めている。


 私のことを良く知る人物ゆえ、今日このタイミングで店に来てほしくなかった。あの人と話しているところを見られるのは絶対に避けたい。



 うん。さっさと追い返そう。


 私は即断し、冷たい顔で腕を組んだ。



「何しに来たんだ、理彦」


「仕事終わりにお前に会いに来てやったんだよ。俺と喋りたいだろう?」


「私はまだ仕事中なんだが。用がないなら帰ってくれるか?」


「そう邪険にするなって。妻と子供たちにドーナツを買って帰るんだからさ」


 仕方ないな、早くしろと態度で示す。理彦は色んな種類のドーナツを八個、トレーに載せた。私はそれを受け取ってレジへ行き、持ち帰り用の箱に手早く詰める。その向かいで理彦は支払いを済ませ、おもむろに話を切り出した。


「なあ、幸太郎。ちょっとお前に頼みがあるんだけど」


「何だ?」


「会社の女の子たちがさ、お前を紹介してくれってうるさいんだよ。一回お試しで会ってみてくれないか?」


「またか。さてはそれが本題だな?」


「ばれたか。さすが、分かってるな」


「何年、君と友人をやってると思ってるんだ。その人たちには申し訳ないが丁重に断ってくれ。私は今それどころじゃないんだ」


 なにせもうすでに気になる人が居るんだからな。



「はぁ。何だよ、つれないな。お前、友達の顔を立ててやろうって気はないのか」


「君の面目など丸潰れになってしまえばいい」


「酷い」


「ぷふっ」


 視界の端で佐倉さんが噴き出しているが、気にしてはいけない。この男を一刻も早くここから追い出さなくては。私は「お買い上げありがとうございました」とすげなく言ってドーナツの箱を差し出した。


 受け取った理彦は、眉間にシワを寄せて真面目な調子で話した。



「あのな、幸太郎。余計なお世話かもしれないけど、俺はお前を心配してるんだぞ? 十五年前に離婚してからお前はずっと独り身だからさ。俺としては、お前に幸せになってほしいんだよ」


「そうか。でも女の子とは会わないからな」


「くそ。情に訴えてもだめか」


「じゃあ奥さんと子供たちによろしく」


「おいおい、もう少しゆっくりさせてくれよ」


 長居されては困るんだ。悠長に話していては、あの人が来てしまうかもしれないじゃないか。



 表情には出さずにいたが、内心すごく焦っていた。と、その時、自動扉が開いたのが見える。


「いらっしゃいませー!」


 佐倉さんのひときわ明るい挨拶が飛んだ。彼女の視線の先をたどると、スーツ姿のあの人が、可愛らしい笑顔で佐倉さんに会釈をしていた。

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― 新着の感想 ―
ななさ~ん(*^▽^*) 塩対応、誰に!? って思ったら、腐れ縁。いいですよね。こういう関係。 そしてやはりモテている……。守りは固いですが、ちなっちゃん! ライバルいそうですよ! 早く行動起こさなき…
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