表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ごほうびは、仕事帰りのドーナツで〜恋愛経験ゼロのドライフルーツ系女子は、イケオジ店長に口説かれる〜  作者: 架け橋 なな


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
10/11

イケオジ、動揺する

 今日もあの人が来てくれた。


 嬉しさで舞い上がりそうになるが、目の前の男のせいで素直に喜べない。



 私は出来るだけ平然を装い、彼女に近づいてショーケース越しに頭を下げた。


「いらっしゃいませ、こんばんは。今日もお仕事、お疲れ様です」


「こ、こんばんは! 店長さんもお疲れ様です!」


 彼女はトレーを両手に持ってぴんと背筋を伸ばし一礼した。この間も思ったが、とても元気で礼儀正しい人だ。会えるのを心待ちにしていたせいか、少し言葉を交わすだけで、頬が緩んでしまう。



 彼女は私を見上げ、ちょっと早口で話を切り出した。


「あの、この前買ったドーナツ、三つともすごく美味しかったです。紅茶と一緒にいただきました」


「そうですか。気に入っていただけて何よりです。今日も色んなドーナツを用意しておきましたよ」


 あなたのために、とは伝えられないので心の中で言うに留める。彼女はショーケースを眺めて歓声を上げた。


「わぁ、本当ですね! 今日は何にしようかなぁ」


「どうぞ心ゆくまでお選びください。何か聞きたいことがあれば、気軽に声をかけてくださいね」


「はい。分かりました。ありがとうございます」


 彼女はふわりと微笑み、ショーケースの中を覗き込む。何か世間話などしたいところだが、あまり話しかけたら困るだろうか。そんなことを考えていたら、レジの方から嫌な視線を感じた。


 振り向くと、理彦がドーナツの箱を片手に、私の様子をうかがっていた。なかなか丁寧に接客してるじゃないか、と揶揄するような目をしている。非常に仕事がやりづらい。



 ううむ。彼女ともっと話をしたいが、理彦が邪魔だな。


 私は彼を凝視して「早く帰れ」と目線で合図する。すると「ん? 何だ?」みたいな顔で首を傾げてきた。


 あいつめ。絶対に分かっていて気付かないふりをしてるな?


 いっそ強引につまみ出してやろうかと思ったが、あの人が居る前でなるべく手荒なことはしたくない。私は後で覚えておけよと理彦に念を送り、お嬢さんに向き直った。



 さて、彼女はドーナツを決められただろうか?


 何やらとても静かなので、気になって確認すると、彼女はキラキラした瞳でドーナツを見つめていた。今日も迷っているようで、ショーケースの前を行ったり来たりしている。わくわくした顔、幸せそうな顔、困った顔。表情が忙しく変わっていき、目が離せない。私は前回同様、彼女にときめいてしまっていた。


 ふう〜〜〜〜〜。可愛い。可愛いがすぎるな。子供のように無邪気な姿だ。佐倉さんが癒されると言っていたのも頷ける。ずっと見ていられるぞ。



 いつしか動物ドーナツと彼女のにらめっこが始まった。微笑ましいことこの上ない。『可愛い』に『可愛い』が掛け算されて、『とんでもなく可愛い』になっている。



 ⋯⋯待て待て。あまりじっと見たら失礼だな。落ち着くんだ、私。平常心だ、平常心。



 私は営業用の笑みを貼り付け、置き物のようにじっとしていた。


 しばらくすると、何を思ったのか、理彦がレジからこちらに向かって歩いてきた。そして彼女の隣へ来て、優しい声色を発した。


「こんばんは。君、ちょっといいかな?」


「! はい。何ですか?」


「さっきからとても迷っているようだけど、ねことくまといぬ、欲しいなら三つとも買って帰ったらいいんじゃないかな」


 なんとこの男、初対面なのにお嬢さんへ親しげに話しかけた。彼女は驚いた様子で固まっている。


「おい、理彦」


 彼女がじっくり選んでいるのに口を出すな。


 そう言おうとしたら、お嬢さんが納得したように理彦へ返事をした。


「そうですね! 悩んでたけど、今日は動物ドーナツの日にします! ありがとうございます!」


「どういたしまして。この店のドーナツ、うまいよね。俺もここのドーナツのファンなんだよ」


「え!? そうなんですか!? 私もそうなんです!」


「君は何味のドーナツが一番好きなの?」


「チョコ味のドーナツが一番好きだと思ってたんですけど、生クリームも美味しかったんですよね」


「分かる。俺は生クリーム、あんまり好きじゃなかったんだけど、ここのは食えるんだよなぁ」


 いやいやいや! なぜ君が彼女と仲良くなってるんだ!? 私は慎重に距離を縮めようとしているのに!


 このままでは、お嬢さんが理彦を好きになってしまうかもしれない。危険だ。追い出そう。



「おい理彦。奥さんと子供が心配するぞ。もう帰った方がいい」


「はいはい、分かったよ。じゃ、さっきの話、考えといてくれよ?」


「理彦。私は会わないと言ったはずだ。あまりしつこいと出禁にするぞ?」


 作り笑顔に怒りと殺気を込める。その瞬間、理彦はにやついた顔を引っ込め、肩を落とした。


「⋯⋯仕方ない。女の子たちに謝るか」



 トボトボと理彦が出ていき、私は安堵した。やっとお嬢さんと気兼ねなく話せる。


 少し雑談をしてから、彼女は動物ドーナツの会計を済ませ、自動扉を見た。


「さっきの方、店長さんのお友達だったんですね」


「ええ。昔からの悪友ですよ」


「仲良しって感じでいいですね」


「そうでしょうか」


「⋯⋯」


「どうされました?」


「いえ。何でもありません」


 首を横に振ったお嬢さんが、なぜか切なげな瞳をしていて、胸がざわつく。一体どうしたんだろう。



「今日もありがとうございました。ドーナツ、食べるの楽しみです」


「こちらこそ、ありがとうございました。また来てくださいね」



 自動扉を出て見送ると、彼女はペコリと頭を下げ、肌寒い夜の闇に向かって歩いていく。


 私は言い知れぬ不安にかられたが、その背中を追いかけ理由を尋ねることは出来なかったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ななさ~ん(/・ω・)/ 親友の気兼ねない距離感。なんか思うところのあるちなっちゃん。 可愛いアンドほほえましいで、なんて幸せな空間なんでしょう。 理彦のコミュ力の高さ。これは、仕事のできる人ですね!…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ