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ごほうびは、仕事帰りのドーナツで〜恋愛経験ゼロのドライフルーツ系女子は、イケオジ店長に口説かれる〜  作者: 架け橋 なな


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6/11

イケオジ、ロックオンする

 それから五日ほど経った平日の夕方。


 厨房で作業していた私は、倉庫へ材料を取りに行く際、バックヤード内の休憩スペース近くを通りかかった。


 賑やかな話し声がしたので、足を止めそちらに視線を送ると、バイトの女の子三人の姿が確認できた。これからレジと調理補助に入ってくれる子たちだ。


 どうやら就業時間よりも早めに来て、ここでのんびりしているらしい。小さなテーブルにペットボトルの飲み物を置き、椅子に座って雑談をしている。



 三人の中でひときわ目立っているのは佐倉(さくら) りいむさん。プレジールからほど近い、桃山高校に通う女子高生だ。


 ミルクティーベージュの真っ直ぐな長髪にピンクのインナーカラーを入れている。目尻より長く引かれたアイラインとカールしたまつげ、涙袋が、彼女の目の大きさを強調している。見た目はとても派手で、気が強そうで――


「ほんっと、コンちゃんマジかわよね。ウチのバ代で全ドー、コンプさせたげたいわー!」


 時々、私には分からない用語を使うが、勤務態度は真面目でしっかりした子だ。



「それな」「分かるー! 思わず買ってあげたくなるよね!」とうなずき合う三人。何やらおおいに盛り上がっている。私は彼女たちに近づいて、にこやかに尋ねてみた。


「お疲れ様です。皆さん楽しそうですね。いったい何の話をしているんですか?」


 三人がすぐさま私を見上げる。その中で佐倉さんが、一番早く頭を下げ挨拶をした。


「あ、店長! お疲れ様でーす! 今、みんなと推しのお客さんのこと話してたんですよ!」


「推し、ですか?」


 最近よく聞く言葉である。俳優やアニメキャラ、作品を応援している、という感じの意味だったような。


「そう。ウチらその人のこと『コンちゃん』って呼んでるんですけど、もうめっっちゃ可愛いんですよ! いつも紺色のスーツ着てるお姉さんなんですけど、ドーナツを選ぶ姿がね、小さい子みたいで癒されるんですー」


「紺のスーツ?」



 一瞬、頭によぎったのは、この間お礼も言えなかった、あの女性の顔。私はもしやと思って、佐倉さんにすぐ確認してみた。


「その方は、紺色のパンツスーツを着て、背は160ぐらい。焦げ茶の長い髪をお団子にしている、タレ目で優しそうな女性ですか?」


「うーん。たぶんその人のことだと思うんですけど、店長、何でそんな詳しく知ってるんですか?」


 それはまあ気になっている人のことですから、とはさすがに恥ずかしくて言えない。私は笑ってさらりと誤魔化した。


「いやぁ、そのお客さんらしき人を、この前見かけまして」


「ふーん。店長ってば記憶力いいですね」


「そのスーツの方が、ねこイチゴドーナツを褒めてくれてたんでね。嬉しくて印象に残ってたんですよ」


「そうだったんですね! コンちゃんはたぶん、うちの店のガチファンだと思いますよ! 来るたび色んな味のドーナツを買っていきますから! それに期間限定が好きで、新しいのが出ると絶対買いにくるんですよ! この前は珍しく来なかったけど」


「そうなんですか」


「はい。コンちゃん絶対買いに来ると思ってたんだけどなー。くまカスタードーナツ」


「仕事が終わんなかったんじゃない? コンちゃんだいたい遅い時間に来るじゃん」


「そだねー。会うのひそかに楽しみにしてたんだけどなぁ。つら」



 佐倉さんたちの会話を聞いていたら、先月末の夜に、店まで走って来てくれたお客さんが居たことを思い出す。よくよく思い返してみれば、あの人も仕事帰りで紺のスーツ姿だった。


 そうか。だからどこかで会った気がしていたんだ。


 あの日、ドーナツの袋を抱えて笑ったお嬢さんは、可愛らしいだけでなく、芯の通った勇気ある女性だった。私はもう一度、あの人に会いたい。話がしてみたい。



「佐倉さん」


「何ですか、店長? そんな真剣な顔して」


「その推しの『コンちゃん』ですが、よくうちの店に来ますか?」


「はい。週一くらいで来てますかね」


「思ったより多いんですね。どうして今まで会わなかったんだろう⋯⋯」


「コンちゃんはウチの居る時間帯に来ることが多いんです。店長は平日ずっと厨房にこもってるし、会わなくて当然ですよ」


「ははぁ。なるほど、そういうことですか」


 私は腕を組んで、うんうんと頷いた。確かに平日はバイトの子たちにレジと接客を任せていて、お客さんと顔を合わせる機会がない。カウンターに出るのは、お客さんが一気に増える土日のおやつ時くらいだ。


 佐倉さんがシフトに入っている時、ということは平日の夕方、またあの人に会うチャンスがあるんだな。これは良いことを聞いたぞ。


 忙しい時間帯でなければ、彼女に話しかけることが出来るかもしれない。仲良くなれる可能性があるかもしれない。



「んん? 店長。何でそんなニッコニコしてるんですか?」


「えっ? ⋯⋯ははは。何でもありませんよ。私のことは気にしないでください。今日もお仕事よろしくお願いしますね」


 佐倉さんに思わぬ指摘をされ、ハッとした。どうやら私は嬉しさを隠しきれていなかったらしい。佐倉さんたちは揃って怪訝な目つきをしている。彼女たちは勘が鋭いから、私の恋心などすぐにばれてしまいそうだ。


 これ以上詮索されては大変と、私は急いで休憩スペースを離れ、倉庫の中へと引っ込んだ。

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― 新着の感想 ―
ふふ、思わず口元が緩みます。おじさま、積極的。大人の感じがたまりませんね。せっせと可愛いドーナッツを作るおじさま。厨房を見ていたいです! バイトの子たちにも人気なの嬉しいですね。そして、推しのお客様と…
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