言い放題の友人
──「へぇえ、素敵。気遣いのできるいい男じゃん。そりゃ好きになっちゃうのも分かるわー。……けどさ、その人、大丈夫なの?」
一通り話を聞いてから実果がぶしつけに聞いてくる。あの日の幸せな余韻に浸っていた私は、急に現実へ引き戻され、ムッとした。
「大丈夫って何よ?」
「あのねぇ、千名月。冷静になって良く考えてみな? そんな優しくて見た目もイケてるおじさまを、そこらの女子がほっとくと思う? その人、結婚してるんじゃないの?」
「う。……そうなんだよね。結婚指輪はたぶんしてなかった気がするんだけど」
「仕事で外してるだけかもよ? 飲食店で働いてるツレもそうだし」
「ああ。だよね。衛生面に配慮して付けないもんね」
「そもそも結婚してなかったとしても、恋人は確実に居るでしょ。イケオジにお似合いの超絶美人がさ」
「……ねぇ、実果。あんた、私をどん底まで落ち込ませたいの?」
「ん? そうじゃないけど。ただ事実を言ってるだけよ」
くそう! 言いたい放題だな、こいつ! 少しは私を応援してやろうという気はないのか。こっちは恋愛経験ゼロで、どうしたらいいか見当もつかないのに。
励ませ、そして助言をくれ!
目を三角にして心の中で叫んではみたものの、実はそこまで腹は立っていない。実果は昔からこういうハッキリした物言いをする子なのだ。
仲間意識の強い女子からは煙たがられてたけど、本人は全く気にしないしマイペース。一匹狼といった感じで誰ともつるまなかった。
高一の時、グループに入り損ねてぼっち飯をしていた私は、中庭で彼女と出会い、フルーツサンドを分けてあげた。実果はそれが最高に美味しかったらしく、瞳をキラキラさせて頬張っていた。その頃から実果はちょくちょく話しかけてくるようになり、高校を卒業した後もこうやって時々一緒に出かけたりしている。
「はぁ……やっぱり付き合える可能性、低いかなぁ」
うつむいた私は、肩を落として独り言をぽつりと吐く。すると実果は首をかしげ笑いながら言った。
「あれ? もう諦めんの? まだ何もしてないのに、根性ないなぁ。せっかく好きになったんなら、全力で当たって粉砕すればいいじゃない」
「ちょっと! 砕ける前提やめて! しかも私、粉々になってる!」
「それぐらい積極的に押せってことよ。千名月はまだそのイケオジに顔すら覚えられてないんでしょ? ならまずは友達になれるよう、お店に通って出来る限り話しかけてみたら? 人気の少ない時間帯だったら声をかけやすいでしょ。それで適当に口実作って連絡先とか教えてもらうといいよ。やり取りが増えると、仲良くなれる確率も上がると思うし、結婚してるかどうかも探れるじゃん?」
さっきまで私をイジっていたのに、突然すらすらアドバイスをし始めた。さすがは恋愛上級者。好きになった人は必ず落とすと豪語しているだけのことはある。
……確かに実果の言う通り。プレジールは人気でいつもたくさんお客さんで賑わってる。私はその大勢の中の一人に過ぎない。しかもそんなにしょっちゅう買いに行けてないから、店長さんと出会える機会も少ない。とりあえず彼に私のことを認識してもらわないと、これ以上の進展は難しいだろう。
私は納得してうなずき、素直に感謝した。
「そうだね。緊張して上手く話せるか分からないけど、ともかくやってみるわ。ありがと」
「ふっ。まあ、頑張りなよ。応援してるからさ、また経過報告、頼むね」
実果は軽く笑ってコーヒーを口につける。ちょっと意地悪で楽しそうな顔だ。
これ、絶対面白がってるな。憎たらしい奴め。
「あ、そうそう。恋愛相談のお礼は今日のお茶代でいいからね」
「えぇ……。まぁ別にいいけどさ。また困ったら相談乗ってよね」
「オッケー! そんじゃ、飲み物とデザートもう一個追加で頼もーっと」
「ちゃっかりしてるな、おい」
私は恨めしい目をして、いつの間にか残り少なくなっていたガトーショコラをフォークで突き刺し、ぱくりと一口で食べた。




