イケオジと休日の来訪者
――『しばらくお店に行けないかもしれません』
突然、そう千名月さんに告げられてから、私たちのやり取りは途切れた。
『どうしましたか?』と尋ねたメッセージは夜に既読となったが、いくら待っても彼女からの答えは返ってこなかった。
『お仕事が大変なのでしょうか? また時間に余裕ができましたら、ご連絡ください』
三日後。千名月さんからの返事を待ちかねて、私はメッセージを送った。しかしやはり通知は来ないまま、時間だけが虚しく過ぎていく。
あまりしつこくメッセージを送っては迷惑かと思い、それ以上連絡を取ることはしなかったが、不安と淋しさで私の心は押し潰されそうだった。
千名月さんは今、どうしてるんだろう。あの人の声が聞きたい。早く会って、あの可愛らしい笑顔が見たい。せめて連絡が来ない理由が分かれば、この感情に折り合いがつけられるのに。いつまでこんな状態が続くんだろう⋯⋯。
暗い気持ちを抱えながら、さらに二日が過ぎた。
何もする気が起きず、ぼんやり過ごしていた休日の午後、佐倉さんが後輩らしき女子高生を連れて店にやって来た。昨日RAINで『店長に会わせたい子がいる』と言っていたのは、このお嬢さんのことだろう。
「店長。休みの日にすみません。たぶん店長も知ってると思うんですけど、ちょっと前、呟きでプレジールの悪口が書かれてたんです」
「ええ。その件なら把握しています。プレジールの評判は時々チェックしていますから」
そしてその呟きが炎上しているのも分かっていた。投稿主が沈黙したことで勢いはなくなったものの、心ない書き込みはいまだに続けられている。こちらにとっては迷惑としか言いようがない。
「それでですね。ウチ、店を悪く言われたのが許せなくて、一人でその書き込みした子を探し出してきたんです」
「え?」
まさか。呟きの投稿主を特定したのか?
「ほら、あいな。自分でちゃんと説明しなよ」
佐倉さんは女子高生の背中を優しく叩いて促した。長い黒髪の女子高生は私の前に立ち、固い声で話し始める。
「店長さん、初めまして。矢須 あいなです。あの、呟きにこの店の悪口を書いて、炎上させたのはあたしです。こんなに大ごとになるなんて思ってなくて、迷惑をかけてしまってごめんなさい」
そうか。どこかで見た顔だと思ったら、この子は以前、千名月さんに注意されていた女子高生だ。
矢須さんは頭を下げてから、緊張した面持ちで私を見つめている。叱られることを覚悟しているんだろう、肩を萎縮させて待っていた。
私は彼女に怒りを感じず、むしろ少し気の毒に思えた。ことの発端はこの子であることに違いない。しかし騒ぎが大きくなったのは、それを面白がって煽った者たちがたくさん居たせいである。
私は微笑み、矢須さんに穏やかな声で語りかけた。
「勇気を出して謝りに来てくれたんですね。あなたの謝罪と反省の気持ち、確かに受け取りました。ネットは思わぬトラブルが起こることもありますので、これからはお店で嫌なことがあったら、プレジールのホームページか店長である私に直接お伝えください」
「分かりました。そうします」
「それと、もしあの呟きをどうするかで悩んでいるならば、相談に乗りますよ。私の友人は顔が広いので、ネットトラブルの対応に詳しそうな人を紹介してもらいます」
「そんな⋯⋯迷惑かけたのにそこまでしてもらえるなんて⋯⋯。ありがとうございます。ほんとに、酷いことして、ごめんなさい」
矢須さんは声を詰まらせながら謝り、ぽろぽろ泣き出してしまった。私はポケットに入れていたハンカチを渡し、彼女が泣き止むまでそっと見守った。
――あの呟きに気付いてから、ことの成り行きを静観していたが、まさか本人自ら謝罪に来るとは思わなかった。実害が出ない限りこちらから動くつもりはなかったが、この子が困っているなら手を打たなければならない。
理彦もこのことを把握しているから、私が頼めばすぐに動いてくれるだろう。適切な対応をすれば炎上もいずれ落ち着くはずだ。
あと私が今やるべきことは、と考える。私は矢須さんの後ろに控えている佐倉さんに視線を向けた。彼女には、きちんと言っておかなければならないことがある。




