JKギャル、お仕置きする
──「あんたが『あいぴ』だよね? ちょっと顔貸してくんない? サシで話したいんだけど」
次の日、三時間授業が終わった後。呟きの投稿主の学年とクラス、名前を特定したウチは、桃山高校の一年C組に乗り込んでいた。
首を傾け見下ろす相手は、矢須 あいな。肩下まである黒髪を緩く巻いた可愛い系の女子だ。机に座って友達とおしゃべりしていたけど、ウチが声をかけたことにより顔を強張らせている。
「え? 何? 呼び出し?」
「あれ、三年の佐倉先輩じゃん。柔道で県大会に行った人」
「威圧感すごいけど、あの子、何やらかしたんだろ?」
「さあ。何か先輩に目をつけられるようなことしたんじゃない?」
興味本位のひそひそ話と視線を背中に感じる。うっとうしいわ黙れと、そいつらに眼力を飛ばせば、一瞬で静かになった。やったね快適。
改めてあいなの方を向くと、びくりと肩を震わせ怯えたような表情をした。ウチがここへ来た理由に勘付いているんだろうか。
「佐倉先輩、何の用ですか? 別に二人きりにならなくても、話ならここで聞きますよ。というか、あたしたち今初めて喋りますよね? 人違いとかじゃないですか?」
「いいや。ウチは間違いなくあんたに用があんの。いいから黙って付いてきなよ。その方があんたのためだと思うし」
クラスのみんなが居る前で、呟きの裏アカのことをバラしたら、さすがに可哀想だろう。
ウチはプレジールの悪口投稿したことに落とし前をつけさせたいだけで、別にあいなを大勢の前で断罪したいわけじゃないんだ。
このまま教室に居ては込み入った話が出来ない。ウチは「早く来な」と言って、ためらうあいなの左腕を引っ張って机から下ろし、駆け足で人気のない体育館裏まで連れてった。
「あの、佐倉先輩。あたし、何か先輩の気に障るようなことしてしまったんですか?」
腕を離すと、あいなは眉を下げ恐る恐る聞いてきた。ウチは周りに誰も居ないのを確認して、制服のポケットからスマホを取り出した。
「聞きたいことがあんの」
スマホをタップし、あの画面を見せつける。『冷』の呟き投稿だ。
「プレジールの悪口。これ書いたの、あんたっしょ?」
あいなは目を大きく開いて画面を食い入るように見つめた。そして明らかに視線を泳がせ唇をきゅっと結んだ。
ふふん、図星だね。超分かりやすい子だわ。
ウチは腕組みをしてあいなを睨み、重々しく尋ねた。
「困るんだよね。ウチの大事なバ先の評判を落とされちゃ。あんた何でそんなことしたわけ? 詳しい事情を説明してよ」
「いいえ違います。それあたしじゃありません。そんな呟きしてないですし、そのドーナツ屋にも行ったことないです」
ふーん。そうやってしらばっくれようってわけ。でも言い逃れなんてさせねーから。
「じゃあ聞くけどさ、あんた別アカでも呟きやってるよね? 『あいぴ』って名前で」
「え。 は、はい」
「ウチはそのアカの投稿も隅々まで調べたんだ。そこにはあんたの写真も、プレジールとねこイチゴドーナツの写真もちゃんと載ってた。それはどう説明すんの?」
「えっと、それはその、あたしにも良く分からないっていうか⋯⋯」
下を向いてゴニョゴニョと口ごもるあいな。どうにかごまかそうとしてるのが丸分かりだ。曖昧な態度にウチはイライラしてきて、大声で詰め寄った。
「はあ? 何言ってんのか全然分かんねーよ! 言いたいことがあんなら、目ぇ合わせてハッキリ言えや!」
「ヒッ……! あたし何も知りません! 関係ないんです!」
真っ青になったあいなは身を翻し、走り出した。
逃がすか! とウチはすぐに追いかけ、行く手を阻む。それでもまだ逃げようとするので、あいなの両肩をがっちり掴んだ。
「やっ! ごめんなさい! 謝りますから、もう勘弁してください! 離して⋯⋯!」
叫んだあいなは涙声で、もう全てを認めているようなものだった。でもウチは手を離さず、あいなを見据え強く諭した。
「自分のしたことから逃げんな。謝るくらいなら何もかも正直に話してよ。ウチは嘘の話が聞きたいんじゃない。あんたの口からほんとのことが聞きたいんだよ」
しんとする体育館裏。冷たい風の音を聞きながら、ウチはあいなの返答を待った。しばらく泣いていたあいなだったけど、もう逃げようとはせず、ぽつりぽつりと話し始めた。
「あたし、呟きに載せるために可愛いドーナツを買ったんです。ピンク色のねこのドーナツ⋯⋯苦手なイチゴ味だから自分で食べるつもりなかったけど、それがとびきり映えそうだと思って」
「可愛いドーナツ載せて、目立ちたかったんだ」
「はい。けどその時お客さんに『作ってくれた人に失礼だし、食べないなら買わないで』って注意されたんです。あたし、何で知らない人から説教されなきゃいけないのってすごくむかついて、どこかに吐き出したくて、悪口を書いちゃったんです」
「ふーん、なるほどね。そういう経緯があったんだ。ちなみにそのねこいちごドーナツはどうしたの? 食べずに捨てたの?」
「ええと、その。結局、家に帰ってから食べました」
「あっそう。食べたんだ。……あれ、めっちゃ美味しかったっしょ?」
「はい。イチゴ味、美味しいって思ったの初めてで、びっくりしました。それなのにあたし、お店のことネットで悪く言って、ケンカして。あたしが書き込みをやめても、あたしやプレジールに対する暴言がどんどん増えていって。どうしたらいいか分からなくなって、怖くて。⋯⋯ほんとにほんとに、ごめんなさい。もう二度とあんなことしません」
あいなは鼻をすすりながら深く頭を下げてくる。ウチはあいなの肩から手を離し、ため息をついた。
もしこの子がウチらの作ったドーナツを捨ててたら、きつく叱りつけてやろうと思ったけど、ちゃんと食べたんならまだ許せる。
それに悪口を言ったこの子も、ネットで攻撃されて傷ついたんだと分かった。反省も誠意も、今のあいなからは十分感じ取れる。あとはやってしまったことへの責任を取らせるだけだ。
「ねぇ。あいなさぁ、自分のしたこと、ちゃんと悪いって分かってんだよね?」
「はい」
「じゃあこの呟き、どうにかしなきゃいけないね。それと、プレジールの店長に直接謝りに行きな。ウチも付いてってあげるからさ」
あいなは驚いた顔をしてから、無言で大きくうなずいた。
よし。これで一件落着かな? ウチって探偵や刑事の才能もあるかも。店長に褒めてもらわなくちゃね。ごほうびにくまカスタードーナツおごってもらお!
そんなことを思いながら、ウチはお仕置きとしてあいなの整えられた前髪を撫でてぐしゃぐしゃにしてやったのだった。
「もう二度と、つまんない真似すんなよ!」




