JKギャル、マジギレする
――十一月も残りわずかとなった、ある日の放課後。
桃山高校、三年A組の教室――その一番後ろの席にウチ(佐倉 りいむ)は眠い顔で座っていた。
魔のテスト期間が終わり、無事に赤点も回避したので、だいぶ気が緩んでいる。冬休みに入るまで、毎日授業は午前中までしかなく、六時間授業の時と比べてかなり楽だ。そのぶん、たった三時間のためだけに学校へ行くのが、だるすぎるんだけど。
ふわぁああ、と大きなあくびをしてから、リュックを手に席から立ち上がると、ウチのギャル友三人(柚・真白・持田)が走ってきて、聞いた。
「佐倉ー。今日は帰り、どっか寄る?」
「お昼一緒に食べよ〜!」
「あー、みんなごめん。ウチはパスで。昼からバイト入れちゃったからさ。また誘ってよ」
「え〜、そうなんだぁ。残念」
ツインテールで小柄な真白が、留守番を言い渡された子犬みたいな顔をした。心が痛むわーと思っていたら、金髪ギャルの柚が真白の頭を撫でて慰めた。
「佐倉のバ先ってプレジールだよね? 駅前のドーナツ屋の」
「そうだよ。レジしたりドリンク作ったり、職人みたくドーナツをデコったりしてんの。カッコいいっしょ?」
自慢気に言うと、柚がにたりと笑って腕組みした。
「へー! いいじゃん! 仕事してる佐倉、ちょっと興味あるわ。あんたが働いてるとこ、みんなで覗きに行っちゃおっかなー」
「え、やだ! 冷やかしとか、絶対だめだかんね! 真面目に働いてんだから! 来るならドーナツ十個ずつ買ってよ?」
「あはは。ガチたくさん買わせようとするじゃん。さすがに一人じゃ十個も食べれんわ」
「誰が一人で食べろって言ったの。家族に買って帰れって言ってるんだよ。お土産に持って帰れば、とても喜ばれますよー? 素朴なプレーンドーナツや甘酸っぱい苺、ほろ苦い抹茶など色んな味がありますので、ぜひお試しください」
とびきりの笑顔で、いつもお客さんへするみたいに丁寧かつ元気よく言った。ウチの変貌ぶりに、真白と柚がマスカラを盛ったまつげをバサバサ上下させている。
「え、すご。めっちゃ勧め慣れてるじゃん。超ウケる〜」
「これは買いたくなっちゃうわー。やるね佐倉。にしても最近ガンガン働いてるね。金欠なの?」
「まあね。この前コスメ買いすぎちゃって、財布ん中やばいんだ。それにこの頃、ウチのバ先の店長が元気なくてさ。なるべく行って仕事手伝ってあげなきゃと思って。ほら、ウチって頼りにされてるから」
「ふーん。用心棒的な意味で?」
ポニーテールの持田がクールに尋ねてきた。
何だ用心棒って。穏やかじゃないな。
「違うわ。普通に接客とか調理の手伝いとかでだよ」
「そうなんだ。てっきりあんたがカスハラ客をぶっ倒すのかと思った」
「何でそう思ったの?」
「だって佐倉、昔から柔道で鍛えてたし、ゴリラ並みに強いし」
「誰がゴリラやねん。廊下まで投げ飛ばすよ?」
「そういうとこがゴリラなんだよ。それに佐倉のバ先って治安悪いらしいじゃん」
「え? 何それ、どこ情報?」
プレジールは店長も優しいし、お客さんもいい人ばっかだし、治安めっちゃいいけど。なんなら学校より平和で優しい世界なんだけど。
首を傾げると、持田は困ったように眉をひそめた。
「佐倉はバ先の評判、調べたりしないの?」
「しないよ。良いに決まってるし」
「揺るぎない自信だな。ま、細かいこと気にしないのが、佐倉の長所でもあるけど。⋯⋯ちょっと前ね、プレジールの『客』のレベルが低いって、呟きで騒いでたんだよ。あたしは『店員』の間違いかと思ったけど」
「失礼な。ウチの接客レベルは最高だっつーの。それプレジールのことじゃないっしょ?」
「ちょっと待ちなよ。⋯⋯ほら見て。これに書いてる」
持田にスマホを差し出され、ウチは半信半疑で画面を見た。
「はあ? 何これ、マジ?」
思わずスマホを奪い取り、ガン見する。怒りでスマホを持つ手がプルプルした。こんなに頭に血が上ったの、久しぶりだ。
スマホの画面には『プレジール』の名前。『ここの店の客、レベル低すぎ。ウザ絡みされてほんと迷惑。もう二度と行かない』だって。しかも投稿した奴がコメントした奴と大喧嘩して炎上までしていた。
信じらんない。誰だよこんなことしたの! ウチの大事なバ先よ? 店の評判落とすんじゃねーわ!
「あ、そっか! だから店長、最近しょんぼりしてたんだ!」
「びっくりした〜」
「佐倉、独り言でかいよ」
「この野郎⋯⋯! 誰だか知らんが、マジで許さん!」
「あーあ。話、聞いてねーな」
呆れるギャル友たちの声は耳に届いていたが、それに応える余裕もない。ウチはひたすらスマホ画面の悪口投稿を睨んでいた。
ムカつく! ムカつく! 何でウチの店がこんな言い方されなきゃなんないの? 苦情なら直接、店に言いに来たらいいじゃん! コソコソしやがって!
これを書いた奴を今すぐぶん殴りたい気持ちになったけど、ネットだし匿名だから、誰が犯人が分からない。悔しいけど、このまま黙って見過ごすしかないんだろうか?
……こいつを見過ごす? は? 冗談じゃねーし!
こんなふざけたことされて、黙ってらんないわ。落とし前つけさせてやる! 見とけよ匿名クソ野郎が! ウチの底力でオメーを必ず探し出してやるかんな!!




