蒼白する女子、震える
良くない書き込み⋯⋯?
「え。そうなんですか?」
「うん。新道さん、呟きとか見てない?」
「はい。私、RAINとか検索とか、スマホを最低限しか使ってないんで」
「あら。若いのに今どき珍しいわね」
「それで、良くない書き込みっていったい何のことですか?」
「ああ。悪口よ〜。それでコメント欄が荒れてたとか娘が言ってたわ。本当に不思議よね。何でいちいちネットで悪口言っちゃうのかしら。嫌なら行かなきゃいいだけなのに」
「……それって今でも見られますか?」
「うん。いいわよ。見せてあげようか?」
頷くと、栗原さんがスマホを操作して渡してくれた。私は何となく嫌な予感がしながら、スマホを両手に持って覗き込んだ。
【11月◯日15:57 駅前のプレジールまじ最悪。ドーナツの写真撮ってただけなのに文句言われた。ここの店の客レベル低すぎ。ウザ絡みされてほんと迷惑。あんな店もう二度と行かない】
さぁっと全身の血の気が引いて、動悸がしてくる。
まさか、あの時のこと?
呟きが書き込まれた日を確認すると、私が女子高生と揉めた日と同じだった。
その呟きにはコメントがたくさんついている。私は強張る指で画面をスクロールし読み進めていった。
『客ガチャ外れたんだ。災難おつ』
『どんまい。気にすんな。他にもドーナツ屋はいっぱいある』
『最悪だね。プレジールのドーナツうまいけど、客やばいの?』
『あそこのドーナツ可愛い。味はそこそこだけど』
『写真とるだけで文句いうやつ、何様?』
『そんな客いるんだー。そいつスマホ持ってないだろ』
『プレジール気になってたのに、行く気失せる』
『低レベルよく言うwここで悪口書いてる呟き主も同レベルだろwww』
このコメントの後、呟きの投稿主がすぐやって来て返事を書いていた。
【同レベルじゃないし。部外者は引っ込んでろよks】
『怒ってすぐネットに晒すとか幼稚。わざわざここに愚痴書かんで良くないか?』
【は? うるさ。私の勝手でしょ。正義面きもいんだよ。ネットでしかイキれない陰キャが。さっさときえろ】
『ちょっと言いすぎじゃない?』
『呟き主、口悪いねw』
『店側もこんな奴きて迷惑だろ。来なくなるなら、かえって良かったんじゃね』
『反論されたらすぐキレる主。堪え性ないな』
【キレてないし。言い返しただけじゃん。ちゃんと文読めよ。日本語ちゃんと読めないの?】
『呟き主が顔、真っ赤にしとるwお前がきえろよ性格ブス』
時間が経つほど攻撃的なコメントが増えていく。読んでいたら背中が冷たくなった。これが炎上、というやつなんだろうか。何も解決されないまま、悪意のコメントだけが増えていく。プレジールの悪口まで言い出す人も居た。
この呟き主はたぶんあの時の女子高生だ。そして彼女がこれを投稿した原因は私。確証はないけれど、この『ウザ絡みをした客』が自分という可能性は高い。こんな大ごとになるなんて、思いもよらなかった。取り返しのつかないことをしてしまった。
幸太郎さんのドーナツが好きだから、食べもせず、見た目だけを自慢したいだけの人が嫌だった。あの日、女子高生に間違ったことは言ってなかったと思う。
でも結果的に幸太郎さんへ迷惑をかけてしまった。
幸太郎さんはこの書き込みのことを知ってるのかな? 私のせいで、プレジールのお客さんが減ったらどうしよう。心ない言葉で幸太郎さんが傷付いてたらどうしよう。
あの人の穏やかな笑顔と眼差しが頭によぎる。スマホを栗原さんに返した私は、襲いかかる恐怖にぎゅっと目をつぶり、両の拳を握ったのだった。




