表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ごほうびは、仕事帰りのドーナツで〜恋愛経験ゼロのドライフルーツ系女子は、イケオジ店長に口説かれる〜  作者: 架け橋 なな


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
13/19

喜ぶ女子、逃げる

「連絡先を――」


 私と店長さんの声と言葉が重なり、途切れた。



 しんとなる店内。


 同じことを言おうとしたと気づき、驚いた私は黙ったまま彼を見つめた。店長さんは大きく瞬きをしてから、目尻を下げて言った。



「私とRAIN(レイン)交換をしてくれませんか? お嬢さんとたくさんお話がしたいです」


「私とですか?」


「はい。もちろん、無理にとは言いません。気が進まないなら、遠慮なく断ってくださって構いませんので」


「いえ! 私も店長さんともっとゆっくりお話がしたいと思ってました! ぜひとも交換してください!」


「そうなんですか。そう思っていただけて嬉しいです。ちょっとスマホを取って来ますね。少々お待ちください」


 店長さんは会釈して、颯爽とカウンターの奥に消えていった。それを見届けた私は、一人でショーケースの前に立ち尽くしている。パニック寸前の頭を落ち着かせようと、深く深く息を吐いた。



 良かった。私、ちゃんと言えた。これでプレジールに行けない時でも、店長さんとやり取りが出来る。


 それにしても、店長さんも私と話したいと思ってくれてたなんて、ほんと信じられない。こんな嬉しいことってある?


 動悸がなかなか収まらなくて、私の心臓、大丈夫だろうかと不安になる。ともかく三種類のチョコドーナツをトレーに載せ、レジ前で店長さんが戻ってくるのを、そわそわしながら待った。



「お待たせしました。先にドーナツのお会計をいたしますね」



 店長さんは三つのドーナツを紙袋に入れ、レジカウンターの真ん中へそっと置いた。その後、エプロンのポケットからスマホを取り出し、操作してから画面を私に見せた。


「読み込みお願いします」


 私もかばんからスマホを出して、店長さんのスマホのQRコードを読み取る。名前が表示され、私はそれを読み上げた。


天見(あまみ) 幸太郎(こうたろう)さん、ですね。登録しました」


「ありがとうございます。確認します」


 店長さん――もとい幸太郎さんは、スマホの画面をスワイプして見ている。その間に私は自分のスマホをかばんに戻し、紙袋を抱えた。



新道(しんどう)さん、ですね。下のお名前は何とお読みしますか?」


千名月(ちなつ)といいます」


「千の名月と書くのですね」


「はい。珍しい名前って良く言われます」


「綺麗なお名前ですね。あなたに合っていてとても素敵だと思います」


「っ! ありがとうございます」


 そんなこと、初めて言われた。



「これからは下のお名前でお呼びしても?」


「はい! 喜んで!」


「ありがとうございます。では『千名月さん』。私もぜひ下の名前で呼んでください」


「じゃあ『幸太郎さん』とお呼びします」


「はい。どうぞよろしくお願いします」


「こちらこそ、よろしくお願いします!」


 二人で丁寧に礼をして、お互いの顔を見た。幸太郎さんの柔らかな笑顔が、私の心をわし掴みにする。ドキッとした瞬間、胸に抱えた紙袋を押し潰すところだった。良かったドーナツぺちゃんこ事件が起きなくて。



 私が帰ろうとすると、幸太郎さんは当然のように、外まで見送りに来てくれた。紳士の見本のような方だ。


 幸太郎さんと離れるのは名残惜しかったが、これ以上長居しては迷惑だと思い、笑顔を作った。



「今日もありがとうございました。チョコドーナツ食べて、明日も仕事、頑張ります」


「ええ。ですがくれぐれも頑張りすぎないように」


「はい。()()()()にしておきます」


「ふふ。どうか気をつけてお帰りください。⋯⋯もし千名月さんがよろしければ、夜道も暗いので、ご自宅近くまで送っていきましょうか? 店はもう閉めますから」



 幸太郎さんはそろりと私の隣に立ち、瞳を真っ直ぐ覗き込んできた。月明かりと街灯が、彼の憂い顔を照らしている。私をすごく心配してくれているのが分かる。


 やかましく鳴る心音。今夜はとても寒いのに、私の体温は急激に上昇していく。


 幸太郎さんと、このまま一緒に帰る? 夜道を二人で歩くの? 嬉しいけど、いったい何を話したらいい!?



「いえ、結構です! 私、走って帰りますのでご心配なく! それでは失礼します!」 



 勢いよく礼をして、私はその場から逃げるように走り去った。もうドキドキしすぎて限界だ。今日はヒールのない靴を履いていて助かった。これなら家にすぐ着きそうだ。



 わあああ! すごいすごい! 連絡先も、名前も、聞けちゃった! やったああああ!!



 暗い歩道を走りながら心の中で思い切り叫んで、万歳していた。興奮とニヤニヤ顔が止められない。期待に胸が膨らんで、抑えられない。



 幸太郎さんに恋人が居ないと分かったこともそうだが、名前を褒めてもらったことも、めちゃくちゃ嬉しかった。


 名付けてくれた両親には申し訳ないけど、『千名月』という名前は、昔からあまり好きじゃなかった。昔、同級生に「変わった名前」とイジられることもあったし、ずっと名前に私自身が負けてると感じてた。もっと地味で平凡な名前なら良かったのにって、何度考えたことか。


 でも幸太郎さんに『綺麗』と言ってもらって、不思議と自分の名前が悪くないのかもって思えた。我ながら単純すぎるかもしれないけど。恋のパワーって凄まじい。



「帰ったらすぐ、RAIN(レイン)しよう!」


 幸太郎さんとのやり取りに想いを馳せ、いつの間にか私は、小学生ぶりにスキップをしてしまうのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
わぁ! 更新されてた~!! え、え、名前呼びだなんて、急接近じゃないですか! おうちまで送ろうとするとは積極的! ちなっちゃん、ドライフルーツでしたものね。 逃げちゃって……。鐘を鳴らそうとしました…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ