79、ペストに勝ちました。
いかに人同士の接触を避けながら、経済活動を続けるか。
まずは生活必需品の配給。
市民が買い物のための外出で感染を起こさないようにするため、生活必需品である、食料品、衣類、石鹸、紙、水、その他必要なものは、専用の配達員が各家の玄関に置く形式にした。
まずは必要なものを紙に書いて貰い、玄関先の専用箱に入れておいてもらう。
そして専門の配達員がその品物を用意し、翌日を目安に、各家に配達する。
かかる費用は、一世帯三人までにつき、一ヶ月700フランカ(約77000円)までは国で負担し、一人増えるにつき、70フランカ(7700円)ずつ増やした額までを国費負担とした。
商店は配達のみの営業とし、作業する店員にはお互いに離れて作業をすること、マスクと消毒液で感染対策を徹底すること、一日に出勤する店員の数を4平米につき二人までと規定した。
また、バーやカフェは、宅配のみ営業を許可し、イートインは全て禁止し、仕事のなくなった人の中で希望者を、専門の配達員の手伝いとして雇用した。
各家の庭やアパルトマンの屋上を整備し、各自そこでの密集をしない状態での運動、また各家庭内での運動を推奨した。
公園での運動は、各地域時間ごとに使える地域と日時と時間を持ち回りで決め、一度に多くの人が公園に集まらないように工夫をし、遊具の利用は不可として、管理員に常に公園を巡回させた。
それぞれが家庭内で行える内職を国が率先して与え、マスクや加工品など、家庭内で作れるものはどんどん作り、国で一括で購入してから、希望者に販売をした。
沢山の国民が家族ごと室内で一日の大半を過ごすことにより、虐待や家庭内暴力、または健康状態の悪化などが起きないように、国が派遣した役人が、定期的に各家を巡回し、異変を感じたり、隔離が必要と判断した時には、即座に国の用意したホテル等での保護、そして医師の診察を受けられるようにした。
そして、それでも入ってくるペスト菌に、不幸ながら感染してしまった人達には、医師と聖堂にいる神官達が、いち早く対応した。
現在ペストをも治せる浄化の力を持つのは、聖女シルヴィ一人しかいなかったため、シルヴィはほぼ休みなく働き続けていた。
彼女の努力のおかげで、特効薬のないこの現状でも、死者数を大幅に抑えることができていた。
清潔、健康、巣籠もりを徹底しながら、私はひたすらペストが収束するのを見守っていた。
国民一人一人の努力と協力のおかげで、フランセイズ国内におけるペストは、半年程度でその姿を消した。
けれども、国交を閉じていても他国からふいに入ってくることもあり、発生を完全に抑えるまでには、一年の時を要した。
経済活動は段階的に緩和し、他国でもペストが消え、生活が元に戻るまでには、三年の時が経っていた。
ついに周辺国でもペストの患者が皆快癒し、新しい患者発生が見られなくなったという話を聞いた時、フランセイズ国内におけるペストの感染者と患者は、最も少ない数で抑えることに成功していたのだった。
長い戦いだった。
もう駄目かもしれないと、何度も挫けそうになった。
そのたびに、シャルマーニュ王太子が、聖女シルヴィが、そして国民皆が助けてくれた。
今になって思えば、私がこれだけの施策を即座に打ち出していけたのは、全て私が王太子妃という立場にあったからだった。
改めて私を妃に選んでくれたシャルマーニュ王太子にも、そして私の施策を全て通してくれたフランセイズ国王の寛容さにも、いくら感謝してもしきれなかった。
そして周辺国各国の国王も、私のような者の言葉を聞いて、感染終息に向けて、本当に努力をして貰えていた。
ペストの終息は、皆が一丸となって努力したすべての国民の力で、ようやく勝ち取った勝利だった。
周辺国も含めた各国でのペスト終息を祝って、各国同時に祭が開かれた。
まだ感染の恐怖が残っている国民達は、以前のように抱き合って集まって大人数でもみくちゃになるようなことはしなかったけれど、皆が屋上や庭に出て、同時に空を見上げた。
空には大輪の花火がいくつも上げられた。
人々は、それぞれが用意していたグラスを持ち、同時に乾杯をした。
ペストという恐ろしい疫病との戦いに、ついに今回私達は勝利することができたのだと、皆が同時に祝杯をあげた。
完全なる勝利とは言えないかもしれない。犠牲にしたものも多くある。
けれど、恐ろしく小さく見えないからこそ強大である、病原菌という未知のものに対して、ここまで戦えたことは、誇って良いことだった。
聖女だ、と誰かが言った。
我が国には、二人の聖女がいる、と。
二人の聖女の尽力で、この国はペストの脅威に打ち勝ったのだと。
けれど、私から見れば、この疫病に打ち勝ったのは、私一人の力ではなかった。
この疫病に勝つために、戦い、努力し、働き、自粛し、必死に頑張った国民一人一人、全ての人が聖者であり、聖女である、と。
私は聖者であり聖女である、全ての人を心から誇らしいと感じていたのだった。




