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73、王太子にショコラを贈りました。


 皆には、作ったデュール・ショコラをはじめとしたショコラ・スイーツの詰め合わせを、ラ・サンヴァロンタンの当日に届くように、配送をお願いしておいた。


 今回は、フレーズ卿はじめ、屋敷に仕えてくれている侍女にもショコラが行き渡るように、沢山用意している。


 これは、こんな私に今まで仕えてくれた皆への、私からの感謝の気持ちだった。


 恋人達のお祭りとは趣旨が違っていることは百も承知だけれど、今日を逃しては、皆にプレゼントを渡せる口実がなくなってしまうのだから仕方ない。


 けれど、シャルマーニュ王太子にだけは、本当の意味で、気持ちのこもったデュール・ショコラを渡したいと思っていた。


 正式に婚約者になってから数ヶ月、シャルマーニュ王太子は、私のやりたいことを全面的に支援してくれた。


 あんなにも私を理解して、協力してくれるような人は、他に誰もいないかもしれない。


 私が死ぬ予定の日まで、あと一週間足らず。本当に死んでしまうのかどうかは分からない。けれど、言わずに後悔するよりも、言えるうちに全ての感謝と、そして気持ちを伝えておきたかった。


 私は、きちんと身支度を整えると、久しぶりに王太子のいる宮殿へと訪ねることにした。


 シャルマーニュ王太子も日々忙しくしているので、邪魔してはいけないとは思ったのだけど、今日訪ねる旨を伝えると、快く迎えてくれた。


「カミーユ、来てくれて嬉しいよ。」


 部屋に入ってすぐ、シャルマーニュ王太子は私を抱き締めてくれた。


「お、王太子様っ…!」


 あまりに熱烈な歓迎に、恥ずかしさでいたたまれなくなる。


「最近忙しそうで、なかなかゆっくり会えなくて残念だったよ、今日はもう大丈夫かな?」


「は、はい。ご無沙汰して申し訳ありません。」


 この頃私が最後の確認のために、街中を飛び回っていたのを、王太子は時に手助けしてくれながら、優しく見守ってくれていた。


「でも、今日この時間を、あなたが私のために空けてくれたことが、私は本当に嬉しい。」


「王太子様…。」


 手放しに喜ばれて、私の心もほっこりとする。


「お約束のデュール・ショコラ、お持ちしました。」


 私は手元の、ショコラを詰め合わせた箱を、王太子に差し出した。


「ああ、本当に俺が貰えるんだねっ…!」


 私からのショコラを手にして、王太子は本当に嬉しそうに子供のような笑顔を見せてくれた。


「はい、王太子殿下には、特別に気持ちを込めてショコラを作らせていただきました。」


「特別なのかい?」


「はい、皆様にもショコラはお配りしていますが

、王太子殿下には特別の本命チョコです。」


「本命チョコ?」


「一番大切な、本当に好きな方にだけ差し上げるデュール・ショコラ、という意味です。」


「そうなんだ。…ありがとう。」


 義理チョコも、本命チョコも、この世界にはまだその概念はないけれど、少しでも気持ちが伝われば嬉しいと思った。


「食べても良い?」


「もちろんです。」


 チョコに合いそうなカフェオレを入れて、王太子がショコラの箱を開けるのを見る。


「すごいっ…!なんて美味しそうなんだっ…!」


 王太子の瞳は驚きと喜びでキラキラ輝いていた。


「お気に召していただけて嬉しいです。」


 ショコラ・マカロンに、ショコラ・ラング・ド・シャ、トリュフに、ショコラ・クッキー、ショコラ・マドレーヌ、ナッツ・ショコラ…、数々の、今私が作れるチョコレート菓子の真ん中には、赤い食紅で一筆紅を差し、金粉を添えてハート型にした、心を込めたクール・ショコラを置いた。


「これは…。」


「私の気持ちを込めた、クール・ショコラです。」


 改めて伝えると、頬が熱くなった。


「ああ……。」


 シャルマーニュ王太子の目頭も赤く染まる。


「あなたも、私を愛してくれていると、そう思って構わないだろうか…?」


「もちろんです。お慕いしております、シャルマーニュ王太子殿下…。」


「私も、愛している…、誰よりもあなたを…、カミーユ…。」


 王太子に抱き締められ、その温かく広い胸に、私はうっとりした。


「王太子殿下、カフェオレが冷めないうちに、召し上がってください。」


 できればこのまま抱き締められていたかったけれど、味の感想も欲しくて、私は王太子を急かした。

 と言うよりも、あまり長い時間抱き締められていては心臓が持たないから、という理由もあったけれど。


「そうだな、せっかくカミーユが淹れてくれたカフェオレと、手作りのショコラだ。温かいうちにいただかなくては。」


 王太子も名残惜しそうに私から離れると、改めてテーブルに付いた。


「あなたの気持ちを、いただきます。」


 王太子はまず最初に、真ん中に置いたハート型のショコラから手に取った。


「は、はい……。」


 王太子の色気のある言い回しに、離れてもなお、私の心臓はバクバクと早鐘を打たされてしまっていたのだった。

 


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