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74、王太子とデートの約束をしました。


「すごい!どれもすごく美味しい!斬新で、でもすごく馴染みのある感じもして、いくらでも食べられるっ…!」


 シャルマーニュ王太子は、私の作ったチョコ菓子を次々と口に運びながら、目をキラキラと輝かせていた。


 どれも前世ではフランス菓子としてかなり有名で、レシピも確立している菓子であったけれど、この世界でいきなり作ったら、革新的だと思って貰えるだろう。


「私が今回作った菓子は、全てレシピを紙に書いて残しておきましたので、もしも私がいなくなっても、菓子職人の皆に広めて作って貰えれば、きっとこのフランセイズの主要産業の一つになるのではないかと思います。」


「あなたが、…いなくなっても?」


 私の言葉に、シャルマーニュ王太子の食べる手は止まった。


「確かに、この菓子の作り方を広めて、宮廷、街中問わずに菓子職人に作らせれば、フランセイズは素早いショコラティエの権威として、その名を世界に轟かすことになるだろう。」


「では…。」


「学校を作るのも良い。ショコラティエ養成専門の学校だ。そうすれば、ぜひあなたに初代講師、及び校長をして貰えればと思う。」


「それは……。」


 王太子の提案に、私は眉を寄せた。


「………明日死ぬかもしれないのに、そんな先の約束はできないか?」


「…………はい。」


その会話で、先ほどまで浮き立っていた部屋の空気は一変した。


「あなたが魔女と呼ばれる要素は、まるでない。むしろ聖女だ。それでも神は、予言通りあなたを殺すのだろうか?」


「わかりません…、生きられたら良いとは思っています。でも、生きられると断言できる確信はありません…。」


「うん……。」


 明日を生きている確信がないのは、誰でも同じかもしれない。


 例えば王太子だって、急に明日後ろから刺されたり、階段から落ちて死ぬかもしれない。


 けれど私の気持ちとしては、余命宣告されている患者と似ていた。


 死なないかもしれない。でも、私は死ぬ未来を見てしまっている。


「あなたは最後まで、自分が死ぬかもしれないという時にも、国のことばかり考えているのだな。」


「申し訳ありません…、その方が落ち着くのです。」


「そうか……。」


 王太子は、私の頭を優しく撫でてくれた。抑えていた涙が、ホロリとこぼれた。


 私は本当は、自分の死と向き合いたくないのだ。死ぬかもしれないと思うことはとても怖い。


 だから、少しでも他のことを考えて、気を紛らわしているのだ。


「私は、そんなに強くはないのです…。」


「うん……。」


 王太子は、私を黙って、ただ優しく抱き締めてくれた。


 私は王太子の胸で泣いてばかりいるな、と今更気づいた。


 けれど王太子の胸は温かくて、私の唯一心をほどける場所だった。


 初めて記憶が戻った時、王太子が愛するのは別の女性だと知った時、絶望して、王太子のことはなるべく考えないようにしようとしていた。


 それなのに、今では王太子は誰よりも私のことを理解しようとしてくれていて、こんなにも支えてくれている。


 この世界の物語は、小説の内容とはもはやまったく別のものになっている。


「あなたの国を思う姿勢は、何より尊いものだと思う。けれどどうか、この後しばらくの時間を、国ではなく、私のために使ってはくれないだろうか…?」


「王太子様のために…?」


「ランデヴーをしよう。あなたが綺麗にした街を歩き、あなたが綺麗にしたセイネ川を船で楽しみ、カフェであなたが考案したショコラ・ジェラートを食べよう、きっと楽しい。」


「それは素敵ですね。」


 王太子と二人でデートをするというのは、そういえば、今までしていなかったと、今になって気付いた。


 温泉にも、リ・コーズ王国にも一緒に行ったけれど、そのどれもが、他の誰かも一緒だったのだ。


「私も、シャルマーニュ王太子殿下とランデヴーしたいです。」


「その、シャルマーニュ王太子殿下というのは、呼び名が長いな。シャルルで良い。」


「そんな、殿下をそんな略称でお呼びするなんて…。」


「では、シャルマーニュで良い。」


「かしこまりました、シャルマーニュ様…。」


「そうだ、その方が良い、可愛いカミーユ。」


「はわ。」


 突然恥ずかしい呼び方をされて、私は思わず真っ赤になって変な声が出てしまった。


「そ、そんな言い方なさらないでください!」


「ん?愛しいカミーユ、我が心の天使、などと言ってはいけないのか?」


「勘弁してください!」


 突然の歯の浮くような言葉の数々に、私は思わず逃げ出したくなった。


「でも、口に出さないだけで、いつも心の中では思っている……。」


「シャルマーニュ様…。」


 シャルマーニュ王太子の真剣な瞳に、私は何も言えなくなった。


 こんなにも真剣に私のことを想ってくれる人に対して、将来の約束を安心してできないなんて、本当に申し訳ないと思う。


「私も、シャルマーニュ様と、ずっと一緒にいたいです…。」


 それが私の正直な気持ちだった。


 明日死ぬかもしれない。

 けれど、死にたくないと思えるほどに、今を大切に思えるのは、とても幸せなことだと思った。


 


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