7、王太子に褒められました。
シャルマーニュ・プランス・ロワイヤル。
シャルマーニュ王太子。
金の髪に、青く輝く宝石のような瞳。鼻筋の通った美しい顔に、薔薇の蕾のような唇は、少しも綻ぶことがない。
まるで凍れる薔薇のように、愛想のない、冷たい美少年。
シャルマーニュ王太子は、別名、氷の薔薇とも呼ばれるほどに、誰に対しても冷たい態度を取る人間だった。
だからこそ私は、自分に対して常に冷たい王太子を見ても腹を立てることはなかった。
王太子は、誰に対しても、分け隔てなく冷たかったので。
だからこそ、聖女を相手に初めて打ち解けた様子の王子を見た時に、嫉妬に狂ったのである。
何故、彼に優しくされるのが、ずっと彼を愛していた自分ではなかったのかと。
そう、私はずっとシャルマーニュ王太子を愛していた。
愛して返して貰えないのが、耐え難いほど悲しいくらいに。
けれど、前世の記憶と一緒に小説の内容も、自分の未来も全て見た今となっては、全ての執着は消えていた。
私を火炙りの刑に処した人。
何の感情もないままに、私のことを殺した人。
そんな相手を、ずっと愛していられるほど、私の心は図太くなかった。
つまり私は、私を殺した王太子に、根本的な恐怖をすら感じていたのだった。
記憶が戻ってから、今まで王太子を避けていたのは、他にやりたいことがあるというのは言い訳で、その実はただただ怖かったからだけであったのかもしれない。
「ようやく、お会いできた!カミーユ令嬢。」
だから、分からなかった。
「え……?」
私に向かって、目を輝かせて駆け寄ってくる相手が誰であるのか、本当に分からなかった。
「ずっと、あなたにお会いしたいと思っていた。」
顔は、確かにシャルマーニュ王太子と同じだった。
けれどシャルマーニュ王太子は、私に向かってそんな風に親しげに話し掛けてきたことなど、今までただの一度もなかったのだ。
「ご無沙汰をしており、誠に申し訳ございませんでした。」
わけも分からないまま、私はひとまず、シャルマーニュ王太子と思われる相手に挨拶をした。
「堅苦しい挨拶はいらない。今日はとにかく話したいのだ!」
シャルマーニュ王太子は、私の目の前に立つと、あろうことか、私の両手を握り込んだ。
「えっ…!?」
突然の接触に、私の顔は一気に赤くなる。
「カミーユ令嬢、私はあなたを尊敬する!」
そして、両手を握られたまま、至近距離で薔薇のような笑顔にそう言われて、私はすっかり混乱していた。
「お、王太子殿下…、いったいどうされたのですか…?」
何か悪いものでも食べたのだろうか?興奮を促す毒キノコでも食べたんじゃないかと心配になるほど、その王太子は、氷の薔薇らしからぬはしゃぎようをしていた。
「どうしたもこうしたもない、やっとあなたに会えたのだ!」
私の手を更に強く握る王太子に、私はますます戸惑った。
「帝都の現状、あの悪臭と不衛生を、いったいどうすれば改善できるのだろうかと、私は長年考えていた。けれどほとんど何もできずにいたのだ。」
私の手を握りながら、王太子は語り始めた。
「それをあなたは、たった3ヶ月足らずで、あそこまで美しく清潔に変身させたのだ!一体どのような魔法を使ったのだ?神の御技だとしか思えない!」
そう語る王太子は、本当に嬉しそうだった。
そこでようやく、私は合点がいった。
以前は王太子との恋と、貴族である家族や友人、自分の立場のことしか考えていなかった私と違って、
王太子は以前からずっと、王太子として国民のためを一番に思い、生活していたのだ、と。
であるから、王太子は、以前の私にはまるで興味がなかったのだ。
だからこそ、今こうして国民のためを思い、尽くし、そして成果を上げている私を見て、こんなにも喜んでいるのだろう。
王太子殿下は、良くも悪くも、国民のことを一番に考えていただけなのだと、遅ればせながら、私は今ようやく気がついたのだった。
「魔法でも、神の力でもありませんわ、シャルマーニュ王太子。私はただ、金の力を多少使っただけでございます。」
「金…、なのか…?」
「はい、街にはお金がなく、困っている人が溢れていました。その方々に、綺麗にしていただく代わりに、多少のお金をお渡ししただけなのです。まさかそれだけで、ここまで綺麗にしていただけるなんて、想定以上でした。」
「おお…!」
私の言葉に、王太子はますます目を輝かせた。
「些少の金子で、上手に人心を導いたのだな!素晴らしいっ…!そのような手腕、私には思いもよらないものだったっ…!」
「そんな、そこまで褒めていただけるものでは…。」
「いいえ、あなたの功績は、正当に評価されるべきものだ。どうかもっと胸を張って欲しい!」
今まで冷たい顔しか見たことのなかった王太子に、想定外の褒め言葉の雨を降らされて、私は顔も頭も沸騰してしまいそうな気持ちにさせられていたのだった。




