6、国王夫妻とお話ししました。
数えてみると、王室主催のパーティーに参加するのは、実に3ヶ月振りとなっていた。
3ヶ月前は、毎週のように王宮であるヴェルシイス宮殿に顔を出しては、王太子殿下にご挨拶をしたり、貴族仲間と交流を深めたりしていたのに、変われば変わるものである。
「カミーユ・オルレアンでございます。ご無沙汰をしており、誠に申し訳ありませんでした。」
私は久しぶりに、フランセイズ国王と王妃の前で淑女の挨拶をした。
「会いたかったぞ、カミーユ令嬢。元気にしておったか?」
フランセイズ国王は、おおらかに話し掛けてきてくださった。
国王は以前から、私のことを未来の王太子妃候補として、とても可愛がってくださっていた。
「おかげさまで、健やかに過ごしております。」
「会えない間、寂しかったのですよ?」
王妃様も、優しい笑顔で話し掛けてくださった。
そこで私は、おや?と思った。
王妃様は、確かに今までもお優しい方ではあったけれども、あまり私に対して親しげに微笑まれることなどはしない方だった。
今までは、むしろ息子の嫁として相応しくないと思われている感じさえしていたのだ。
「不義理をいたしまして、大変申し訳なく思います…。」
「謝る必要はないのよ、ただ、今後もう少したくさんお話できたら嬉しいと思うだけだから。」
「ありがとうございます。」
まるではしゃぐ少女のように、王妃様は私に楽しげに話し続けてくださった。
「時に、カミーユ令嬢、そなた、神からの啓示を受けたと聞いたが、誠のことか?」
なおも話そうとする王妃をやんわりと止め、国王が私に尋ねてきた。
「はい。」
ついにこれから、話は核心に入る。私は緊張して答える。
「聖女シルヴィ様の宣誓の儀式の折り、はばかりながら、私も畏れ多くも、神のご意志に触れることが叶いましてございます。」
私は深々とお辞儀をしながら、けれど落ち着いた声で答えた。
「聖女を助け、フランセイズを救え。たとえその身が滅びるとも、と。」
私の言葉に、国王も王妃も、次の言葉を失っていた。
「ご報告より先に、行動を取りました非礼、深くお詫びを申し上げます。けれど神の啓示の通りとなるならば、私にはあまりにも時間が足りなかったのです。」
「そなたは、死ぬのか?」
「今から2年9ヶ月の後、魔女の濡れ衣を着せられ、火刑に処せられると、神は私に教えてくださいました。」
「ひっ…!」
私の言葉に、王妃の顔が青ざめた。火刑だなどと、誰が聞いても恐れて当然の仕打ちだった。
「それは、私がその刑を言い渡さなければ済む話ではないのか?」
「私も、そうなることを願ってやみません。」
今、先に手の内を見せることで、最悪のシナリオを回避する。本当にそう上手くことが運ぶのであれば、それ以上嬉しいことはなかった。
けれど今大切なのは、そこではなかった。
「神は言いました。今から3年と少しの後、この街に大規模な疫病が蔓延する、と。」
「ああ……。」
私の話す恐ろしい未来に、王妃はその場にへたり込んでしまった。
「疫病は、聖女様のお力により鎮静化いたします。けれど、その前に何十万という民と、そして貴族も犠牲になります。」
「ふむ…。」
国王は、真剣に私の話を聞いてくれていた。
「その罪もなく死にゆく方々を憐れんで、神は私にチャンスをくださったのです。」
私はしっかりと、国王の目を見て言い切った。
「行い正しければ、罪なき人々を助けていただける、と。」
「…………。」
「なるほど…。」
沈黙の後、国王は重い溜め息を吐いた。
「その正しき行いとは、街の清浄であったのだな。」
「清さは心のみならず、街も同じでなくてはなりません。汚物は必ずや、何より恐ろしい疫病の温床となりましょう。」
私は国王に、熱っぽく語りかけた。
街の美化は、まだまだ改善しなくてはいけない所だらけだった。
ここで国王の協力を得られるかどうかが、この先の感染症対策の大きな鍵となるはずだった。
私は、熱の籠った目で国王を見つめ続けた。
私の思いと裏腹に、国王の表情はかんばしくなかった。
国王が口を開く。
「しかし……」
出てきたのは、否定的な内容を連想させる言葉。
私は一瞬血の気が引いた。
その時。
「カミーユ令嬢!」
遠くから名を呼ぶ声が聞こえた。
私も、国王も王妃も、声のした方へ振り向いた。
そこにいたのは、シャルマーニュ王太子。
私の未来の夫になる予定だった人。
聖女を愛し、私を火炙りにした張本人である、シャルマーニュ王太子殿下が、そこには立っていたのだった。




