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63、王太子と薔薇園に行きました。


 国王陛下にそこまで言っていただけることは、心から嬉しいし、本当にありがたいことだった。


 けれど、と思う。


「ありがとうございます、国王陛下、私のような者に、本当に身に余るお言葉です…。」


 私は言葉を詰まらせた。国王陛下に、こんなにも再三言っていただけるのは、本当に言葉にできないくらい嬉しいのだ。


「けれど…………。」


「そなたが返事を悩むのは、神から、そなたが近い未来に死ぬという啓示を受けたことが理由か?」


「……………はい。」


 いかに自分を小説のキャラではなく、一人の人間だと思おうとしても、小説に書かれていた私が死ぬ未来の描写は、あまりにも重かった。


「もしも私が、啓示通り死ぬのだとしたら、今王太子殿下の伴侶として名乗りを上げるのは、あまりにも無責任であり、王太子殿下に対し失礼かと存じます…。」


 死ぬかもしれないのに、将来の約束だけをするなんて、やはり私にはできなかった。


「確か、そなたは魔女の汚名を着せられ、火炙りにされる予定だと、そう言っていたかな?」


「その通りでございます。」


 小説の中では、一年半後に迫った未来。改めて聞くと、恐ろしい話だった。


「今のそなたを魔女呼ばわりするような不届き者は、この国にはいないだろう。もしもそんな輩が出たとしたら、国王の力を持って、そなたを守ってやる。」


「国王陛下…。」


 あまりにもありがたい言葉に、私は涙ぐみそうになった。


「それでもなお、死の予言をされていることがどうしても気になると言うのなら、婚約はしなくても良い。」


「………………?」


「婚約せずに、すぐに結婚してしまえば良い。」


「国王陛下!?」


 一瞬意味が分からなくて黙ってしまったけれど、続く国王陛下の提案は、あまりに予想外のものだった。


「将来の結婚の約束をするのが不安だと言うなら、約束なぞをする前に、先に結婚してしまえば良いだろう。過去に婚約せずにすぐに結婚をした例はいくつもある。」


「え?…いえ、…ええ!?」


 国王陛下の発想の転換に付いて行けずに、私は何度も聞き返してしまった。


「例え本当にあと一年少しで死んでしまうのだとしたら、むしろ結婚を一日でも早くにするべきだろう。それならば、一日でも長くそなたが王太子妃となれるのだから。」


「いやでも…、え…?」


 国王陛下の言葉には、不思議な説得力があり、私はおかしいと感じながらも、段々丸め込まれそうになっていた。


「父上、そこから先は私に言わせてください、ご心配申し訳ありません。」


 戸惑っていた私に、後ろからシャルマーニュ王太子が現れた。


「シャルマーニュ王太子殿下…。」


「息子よ、申し訳ない、いささかでしゃばり過ぎたかな?」


 きっと心配で見に来たらしいシャルマーニュ王太子に、国王陛下は嬉しそうに笑った。


「いいえ、父上のお気遣いには感謝いたします。ただ、父上の話術で最後まで纏めていただきたくはないのです。」


「ふむ。」


「ご無礼お許しください。」


 シャルマーニュ王太子は、そう国王陛下に前置きをすると、私の手を取った。


「行こう。」


「え?」


 シャルマーニュ王太子は、私を立たせると、そのまま走り出した。


「あ、殿下!?」


 当然、手を繋がれている私も、一緒に走らなくてはならない。


「カミーユはお借りします!」


 シャルマーニュ王太子はそう言うと、国王陛下の前から私を拐って行った。


 目の前から話し相手を奪う非礼に、国王陛下は怒ることなく、笑顔で手を振っていた。



「ここで良いかな?」


 シャルマーニュ王太子が私を連れて逃げた先は、王宮一美しいと自慢の薔薇園だった。


 薔薇園は、王宮付きの庭師の中でも、特に薔薇守と呼ばれる特別な人が手入れをしている、広い薔薇の庭だった。


 四季咲きの薔薇が常に目を楽しませてくれるけれど、今は初夏のちょうど薔薇の時期ということもあり、薔薇園は色とりどりの薔薇の花で溢れ反っていた。


「素晴らしいですね…。」


 薔薇の渦と、むせかえるような薔薇の芳しい香りに、迷い込みそうになる。


「今が一番豪華な時期だ。この薔薇を、あなたと二人で見たいと思っていた。」


「ありがとうございます。」


 私の手を繋いだまま、シャルマーニュ王太子は、白い蔓薔薇のアーチがかかったベンチへと、私を誘った。


「父が強引なことを言って申し訳なかった。」


ベンチに座った王太子は、まずは国王のことを詫びた。


「いいえ、国王陛下にあそこまで言っていただけることは、何より光栄に感じております。」


「そう思って貰えるなら、嬉しい。」


 シャルマーニュ王太子の金の髪の後ろに、白い薔薇の花と緑の葉が見えて、驚くほど美しかった。


「どうした?」


 王太子の美しさに、つい見惚れてぼんやりとしてしまった私に、王太子が不思議そうにする。


「いえ、シャルマーニュ王太子殿下は、白薔薇がとてもお似合いになるな、と…。」


 言ってしまってから、自分の発言が恥ずかしくなって、私は赤い顔を隠そうと俯いた。


 シャルマーニュ王太子は、少し腰を浮かすと、近くにあった美しい紅薔薇を一輪摘んだ。


「そう言うあなたには、紅薔薇がとてもよく似合う。」


 そう言って、シャルマーニュ王太子は、私の髪に紅薔薇を挿してくれた。


 シャルマーニュ王太子の、宝石のように輝く青い瞳が近付き、私は吸い込まれそうに、その瞳から目が離せないでいた。


 シャルマーニュ王太子の天使のように美しい顔が近付き、唇に温かく柔らかいものが触れた時、私は何だか分からないまま、瞳を閉じた。


 シャルマーニュ王太子に口付けをされたのだと、気が付いたのは、その美しい顔が離れた後だった。



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