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61、自分の気持ちを見つめてみました。


 私は今まで、シルヴィのどこを見ていたのだろうかと思う。


 小説に出てくる聖女で、王太子と恋に落ち、将来国民を疫病から救い、王妃となる人。


 浄化と回復の魔法が使えて、疫病の拡散防止と治療に尽力してくれる、優しい人。


 そんなキャラクターの人物紹介のようなものばかりを信じて、彼女自身が血の通った人間であると気が付かないでいた。


 彼女がどうして私に好意を持ってくれたのか。


 故郷から出てきたばかりのシルヴィが、どれだけ心細い思いをしていたのかなんて、私は少しも分かっていなかった。


 そんな中で、私が出した手紙を、そこまで喜んでくれていたなんて、思ってもみなかった。


 そして、自分のことも。


 一年半後に死ぬ、悪役令嬢。


 その前提を元に、誰からの感情も、そして自分の感情にも鈍感に過ごしていた。


 もしも私が、一年半後に死ななかったとしたら。

 もしも私が、悪役令嬢ではなく、普通の令嬢として周りに認識して貰えているのであれば、その上で、私自身が望んでいるものは何なのだろうか、と。


 そう考えることは、とても怖いことでもあった。


 温泉に浸かりながら、私の胸で泣いていたシルヴィは、次第に落ち着いてきていた。


「ごめんなさい、シルヴィ、私、考えが足りなかったわ。」


 シルヴィが言葉の通り、私のことを心から慕ってくれているのだとしたら、目の前で二回も死にかけた私を見て、どれほど辛い気持ちになっただろうかと思う。


 その上、小説のあらすじに囚われて、この先に死なない約束さえしないなんて、シルヴィへの思いやりに、あまりにも欠けていた。 


「私こそ、泣いてしまって申し訳ありません…。」


 赤くなってしまった瞳を擦るシルヴィは、本当に守ってあげたくなる可愛さだった。


「ところで、シルヴィはシャルマーニュ王太子殿下のことは、どう思っているの?」


 私はこの機会に、ずっと気になっていた、シルヴィとシャルマーニュ王太子の間のことも聞いてしまうことにした。


 小説のあらすじで言えば、シルヴィとシャルマーニュ王太子が出会ってから一年以上が経過した今頃では、二人の仲はだいぶ進展しているはずだった。


「シャルマーニュ王太子様のことを、ですか?」


 私の質問に、シルヴィは不思議そうな顔をした。何故今ここでそんなことを聞かれるのか、まったく分からないと顔に描いてあった。


「そうですね…、私、カミーユ様のこと、この世で一番お慕いしていると自負しておりました。でも、シャルマーニュ王太子様のカミーユ様への想いも、私に引けを取らない強いものだと、認めて差し上げても良いと思っていますわ。」


「ん……?」


 なんだか、返事になっているのいないのか分からないような不思議な言葉が返ってきた。


「つまりシルヴィは、王太子殿下のことは何とも思っていないの?」


「何ともと言うか、良いライバルだと、そう思っています。」


「うーん……。」


 清々しいくらいに、シルヴィの王太子への感情には、恋愛要素はまったく感じられなかった。


 そして同時に、シルヴィのその返事が、シルヴィが小説に出てくる聖女とまったく同じあらすじをたどってはいないのだと、私に教えてくれた。


 小説通りであるのなら、シルヴィは今頃王太子をかなり好きになっているはずなのである。


 シルヴィは確かに小説に出てくる聖女と、まったく同じ名前で、同じ力を持っているけれど、感情に限っては、小説と違い、独自の考えで動いているのだ。


「カミーユ様は、シャルマーニュ王太子のことをどう思ってらっしゃるのですか?」


「うーん……?」


 シルヴィの質問は、答えるのにとても難しいものだった。


 私に、常に力を貸してくださる、優しい王太子。


 豪華な金の髪に、青い瞳の、この上もなく美しい顔をした、絶世の美青年。


 シャルマーニュ王太子は、全てにおいて完璧だった。


 けれど、そんなシャルマーニュ王太子を、私がどう思っているのかは、よく分からなかった。


 シルヴィを愛するキャラクターだから。


 私はもうすぐ死ぬ人間だから。


 小説で読んだそれらの知識は、私の気持ちにも蓋をしてしまっていた。


 王太子に好意を伝えて貰った今、その好意に応え、完全に王太子の婚約者となってしまった方が、疫病対策を立てる上では断然有利である。


 でも、だからこそ、そんな理由でシャルマーニュ王太子の気持ちを利用するのは、王太子に失礼だという気がしていた。

 

 そして同時に、もしも一年半後に私が死んでしまうのだとしたら、先の約束もできないのに、安易に王太子の気持ちに応えるのは、ひどく無責任にも感じた。


 逆に、それだけの障害があれば諦めてしまえる程度に、私のシャルマーニュ王太子への想いは、激しさのない、ぬるいものだという風に考えることもできるのだろうと、私は自分の気持ちを初めて分析し始めていたのだった。



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