53、カニかまを思いつきました。
カレーズの夕食は、地元で採れた魚がふんだんに使われた料理だった。
フランセイズ国は、全国的な小麦の不作により、食卓が乏しくなっていたが、カレーズは豊富な海のおかげで、潤っているようだった。
やはり凶作が続くと、最初に都市部がダメージを受けるのは仕方のないことだろう。
そして、プリエをはじめ、フランセイズ内陸部には、魚を食べる習慣があまりない。
新鮮な魚を新鮮なまま輸送するにはお金がかかるので、値段が上がるためだ。
しかし、この港町の魚を上手に都市部に輸送できるようになれば、都市の食料事情は飛躍的に改善されるだろう。
現在も、塩漬けのサバを燻製にしたものなどはあるけれど、作るのにも食べるのにも手間がかかることもあり、あまり流通してはいなかった。
もっと手軽に食べられて、流通しやすい加工品があれば、きっとカレーズももっと潤うし、何より都市部の食料難を解決できるはずだった。
「カニかま…、かまぼこ…、さつま揚げ…、魚肉ソーセージ…、シーチキンっ…!」
この世界にはまだないけれど、作ればきっと受け入れて貰えるという食品は、思ったよりもたくさんあった。
「この世界にはまだ缶詰はないけど、瓶詰めで作ればシーチキンに限らず、色々な調理魚だって輸送、販売できるわ!鮭の水煮、イワシの煮物、オイルサーディン…。」
考えれば考えるほど、私は楽しくなってきた。この街は宝の山だった。
「鱈でかまぼこを作って、それを一度細切りにしてから、また束にして蒸し直して、パプリカ色素で赤い色を端に付ければ…、カニかまだってできるわっ…!」
前世で、確か日本のカニかまが、フランスで大人気というニュースを見たことがあった。
フランスが元になっているように見える、ここフランセイズでも、カニかまを作ったらヒットするに違いなかった。
「ああ、やりたいことが多すぎるわっ…!」
もしもカレーズに長期滞在するのなら、カニかまを作って売りさばくのに、と、すぐに移動しなければならないことが悔やまれる。
「でも、このアイデアだけでも、誰かに伝えることができれば…。」
私は、しばらく考えると、カニかまの詳しい製法と、出来上がりの図を手紙に書いて、カレーズの領主である、フィリップ・ペタン・カレーズ伯爵に届けて貰うことにした。
もしもカレーズ伯爵がカニかま製造に興味を示さなかったとしたら、マルセイル伯爵や、他にも漁業が盛んな地方に話を持って行っても良い。
できれば各地方一つ、これだ!と言える特産を持てると強いのだけど、と思った。
こうして考えると、フランセイズを豊かにするためのアイデアは、どんどんと湧いてきた。
前世の記憶があるというのは、実に便利なものだった。
私は、本当に二年後に死んでしまうのだろうか?と疑問に思う。
できれば、死にたくない。まだこの国のためにできることが、探せばたくさんあるように思えた。
でも、明日にでも死ぬかもしれない。
人の命は儚くて、予想もしない事故や病気でも簡単に死ぬ。
でも、死があるからこそ、生が尊い。
明日死ぬかもしれないから、今日を精一杯生きる。
そうして生きれば、きっと後悔の少ない人生にできると思った。
私はかまぼこや笹かまなど、思い付く限りのレシピを書き留めると、手帳を閉じた。
もしも私が志半ばで倒れたなら、この手帳はシルヴィの手に渡るように、最初のページに記してある。
なんでもかんでもシルヴィばかりを頼ってしまって申し訳ないとも思うけれど、同時に、頼れる人がいるということも嬉しかった。
その夜、ベッドの中で私は、寄せては返す波の音を聞いていた。
この世界に生まれてから、海を見たのも初めてだったし、寝ながら波の音を聞くのも、当然初めてだった。
前世では、中学生の時の臨海学校で、初めて波の音がベッドでも聞こえた時に、とてもワクワクしたのを覚えている。
コレラ感染が拡大しているリ・コーズ王国への旅は、修学旅行のように気楽なものではなかったけれど、それでも波の音は気持ち良かった。
不安もあったし、考えなくてはならないことも多かったけれど、規則的な波の音は、私を穏やかな眠りへと誘ってくれた。
翌朝は、船出に最適な、風も穏やかな晴天だった。
朝日にきらめく海面は、昨夜見た夜の海とはガラッと表情を変え、どこまでも美しく清々しい。
昨夜のうちに運べなかった荷物を、大きな船に積み込むと、ああ、これから船に乗るんだ、という気持ちが高まってきた。
見送りには、カレーズの領主であるカレーズ伯爵が見送りに来てくれた。
「せっかく来てくださったのに、きちんとおもてなしもできずに申し訳ありません。」
カレーズ伯爵は、ペコリとお辞儀をすると、あたりを見回した。
誰を探しているのかと思っているうちに、カレーズ伯爵は私の方を見て、瞳をかがやかせたのだった。




