50、救援隊が出発しました。
血清注射をした五人は、翌日になっても、体調を崩した人は無事に一人も出なかった。
翌日、宮殿に、救援隊参加者二十二名が集結した。
集まった参加者のリストを見ると、
まずは、王国からは
シャルマーニュ王太子
ウィリアム・マーシャル騎士(王太子の警護)
ベルトラン・ゲクラン騎士(シルヴィの警護)
アラン・フレーズ騎士隊長(カミーユの警護)
以上四名。
サン・ソーヴル大聖堂からは、
シルヴィ・アルトー子爵令嬢(聖女)
ピエール・ラ・パリュ司祭
ウリエル・アロシュ助祭
オーギュスト・ベルニエ副助祭
以上四名。
オルレアン公爵領からは、
カミーユ・オルレアン公爵令嬢(主人公)
ギィ・ド・ショリアック外科医
ミシェル・プーヴァル内科医
レオン・デュリー医師
以上四名
ブルゴーニュ公爵領からは、医師、司祭、騎士等十名。(各自名称割愛)
以上の二十二名が、今回の第一段リ・コーズ王国救援隊の参加者となった。
私は集まってくれた皆に、昨日医師達にしたのと同じように、コレラ治療の方法、免疫の仕組み、輸液器や注射器の説明を行った。
初めて聞く知識や医療器具に、参加者は皆驚愕を隠せないようだった。
血清注射に関しては、皆最初は怖がっていたものの、昨日注射をしていた五人に異常がないこともあり、参加者全員が予防として注射を打つことを了承してくれた。
この世界においては、受け入れがたい知識かもしれないという危惧はあったけれど、思ったよりも皆すんなりと聞いてくれていた。
どこかの宗教には、輸血を拒否する教義があるとかないとか聞いたことがあったけれど、この世界では大丈夫なようだった。
けれど、今までには全く存在しなかった知識や器具をいきなり持ち込むのは、やはり今後、魔女呼ばわりされる危険性も充分にあると思う。
それでも、と思った。
例え、この行動が後で自分の首を締めることになる危険性があったとしても、今救える命があるのであれば、私は、できる限りのことはしよう、と。
こうして宮殿に集結した救援隊は、明日の出発に向けての最終調整をしていた。
リ・コーズ王国への道は、まずプリエの北にあるカレーズの港までは、馬車で向かう。
カレーズで船に乗り、ドーヴァ海峡を渡ると、すぐ目の前にはリ・コーズ王国のドーヴァの港があるけれど、今回はそこでは降りず、船でティムズ川を遡り、首都ロンドルまで船で移動する予定だった。
船のままの方が、積み荷を載せ替える必要なく進めるので、大量の荷物を運ぶのにも都合が良かった。
ティムズ川はリ・コーズ王国を横断している大河で、首都ロンドルから海へと通じていた。
二十数名の参加者と荷物は、馬車で運ぶと馬車六台分と騎馬数頭にもなる大所帯だったけれど、船に乗せれば一隻で済んだ。
「ブルゴーニュ公爵閣下、このたびは多大なるお力添え、誠にありがとうございます。」
私は出発に先立ち、改めてブルゴーニュ公爵にお礼を伝えた。
「なに、こちらこそだ。まさかオルレアン公爵令嬢に、ここまで革新的な医学の知識と用意があったなどと、予想だにしていなかった。」
「大切なブルゴーニュの皆様のお力も借りさせていただきますので、皆様には出来る限り危険の少なくなるよう、務めさせていただきます。」
「なんの、姫を守って死ねたら、騎士の誉れ。我々ブルゴーニュもご令嬢を守るために力を尽くすだろう。」
ブルゴーニュ公爵は豪快に笑った。その言葉に裏は感じられず、気持ち良いぐらいに真っ直ぐだった。
今まで、父であるオルレアン公爵を嫌っているおじさん、という目で見ていて、あまり話したことはなかったけれど、話してみれば、本当に気持ちの良い人だった。
見送りには、私の両親も来てくれていた。
オルレアン公爵と、オルレアン公爵夫人、そしてブルゴーニュ公爵という、以前であれば、冷たい嫌味の応酬が行われた組み合わせであったけれど、今回は和やかに挨拶をしていた。
ブルゴーニュ公爵は、率直に私を褒める言葉を父に話し、両親はそれを聞いて素直に嬉しそうだった。
今回のリ・コーズ王国行きに関しては、両親からかなり心配され、引き留められてもいたので、ブルゴーニュ公爵に褒めて貰えたのは、私にとって、非常にありがたい追い風となってくれた。
両親と抱き合い、旅の無事を祈って貰う。
国王も、王妃も見送りに来てくれていた。
シャルマーニュ王太子も、国王と王妃と別れを惜しんでいる。
国王夫妻のためにも、王太子殿下に危険が及ばないように気をつけなければ、と、私は改めて心に誓った。
こうして私は、沢山の人に見送られて、私を除くと二十一名の精鋭を連れて、初めてのリ・コーズ王国へと旅立ったのだった。




