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47、採血をしました。


 今回私が、ジャンに頼みたいのは、血液を少し分けてください。という内容だった。


 もちろん、大人に比べて血液量の少ない子供から、血液を取るのは危険だと分かっている。


 今回の血清治療に使う血液は、全て私のもので賄うつもりだった。


 ただ、サンプルとして、私以外のコレラ快癒者の血清にも、同じ効果が得られるのかを、できれば知りたかったのだ。


 血清治療、きっと上手くやれば、コレラの予防と治療、どちらにも効果が期待できるはずだった。


 けれど、きっと見境なしに快癒者の血液を使えば、他の感染症をばらまく危険もあるかもしれない。


 治療に使用する血清全ては、シルヴィの浄化の力で無毒化し、抗体だけ残せば、危険性はだいぶ除去されるだろうと思う。


 けれど、全ては予想止まりで、安全性が確立されているわけではない。


 それでも、と思う。


「ジャン、あなたの血を、血清治療のサンプルの一つとして、少し採取させて貰えないかしら?」


 私は医師団の後ろで黙って座っていたジャンに、そう話しかけた。


「血?え?痛いの!?あー、でも、お姉ちゃんのためなら良いよ!」


 血と聞いて、どこかを切られることを想像したらしく、ジャンは一瞬怖がる素振りをしたけれど、頑張って了承してくれた。


「ありがとう。採血はこの注射器で行うから、切るよりは痛くないけど、少しチクッとするわ。」


「注射器……。」


 鋭い針の付いた注射器を見て、ジャンはゴクリと唾を飲み込んだ。


「怖かったら、無理しなくても大丈夫よ。」


「こ、怖くない!ちょっとチクッとするぐらい我慢できるよ!」


 針を刺されると聞いて、怖くない子はいないだろう。でも、私の役に立とうと、ジャンは健気にも強がった。


 この世界の治療法の一つに、瀉血(しゃけつ)という、血液を抜くことにより、病が治る、という方法があった。

 効果のほどは疑わしいが、瀉血では、小刀等を使い、血管を直接傷付け、血を抜くというものだった。


 刀で切るので、注射に比べれば当然痛いし、傷も大きい。


 血を採ると聞いて、ジャンが最初に瀉血を思い浮かべたのなら、採血は、それよりマシだと考えて貰えるかもしれなかった。


「先ほどもお話したように、こちらの注射器は、薬液の注入にも使えますし、また、患者から血液を抜く時にも使えます。」


 私は注射器を掲げると、三人の医師に説明を始めた。

 今私が見本を見せれば、この優秀な三人の医師達なら、すぐに実践で使えると感じていた。


「基本、採血用には、こちらの針がやや太い方を、薬液投与用には、こちらの細い方を使います。」


 私は針の太さの違う、二本の注射器をそれぞれ掲げた。


 これだけ細い注射針も、注文次第で作って貰えたので、この世界の飾り職人の腕は、実に神業レベルだと思う。


「では実際に、ジャンに協力してもらい、この場で採血をしたいと思います。」


 こうしてジャンは、三人の医師が見守る中、この世界で私以外では初めての、注射器による採血をされることになったのだった。


「まず、注射器は必ず煮沸消毒し、消毒用アルコールと、浄化の力で使う直前にも消毒してください。もしも注射器に雑菌が付いていたら、そこから病になります。」


「はい。」


 医師達はそれぞれメモを取りながら、私の手元と説明をしっかりと聞いていた。


「採血は、腕の関節部の静脈から取るのが、最も取りやすい場所になります。まず、患者の腕を台の上に置いてもらいます。」


 私はジャンの腕を、四角く、固めに作ったクッションの上に乗せて貰った。


「次に、腕の上部、採血部よりもだいたい10cmくらい上を紐で縛り、血管を浮き上がらせます。この時患者には、親指を中にして、手を握って貰います。」


 採血は、前世では病院で何度もして貰っていたので、される側の気持ちはよく分かった。


 ただ、自分がするのは初めてなので、巻いたタオルや自分の身体で何回も練習はしたものの、ジャン少年に対しては、失敗したら本当にごめんなさいと言うしかない。


「次に、静脈の位置を確認し、取りやすい血管を決めます。決まったら、採血部分を消毒用アルコールを付けた脱脂綿で消毒します。もしもアルコールでかぶれる人がいたら、浄水を付けた脱脂綿を使い、浄化の力で綺麗にしてください。」


「浄化が使えない時は?」


「近くの浄化を使える人と組んで行ってください。」


 ジャンの血管は、子供にしては太く、初心者でも取れそうなほど浮き上がっていたので、とてもありがたかった。


「血管に対し、少し斜めに力を加えるように、圧をかけつつ、注射針の斜めになっている方を上に向け、迷わず針を刺します。」


 注射針が、ジャンの腕に刺さる。最初はビクッとしたジャンだったけれど、すぐに痛くなくなったようで、ビックリした顔をしていた。


「次に、押子をゆっくりと引き、血液を採取します。」


 ジャンの顔色を見ながら、ゆっくりとシリンジに血液が入って来るのを確認した。


「採血を確認したら、針を抜く前に腕上部の紐を外し、素早く針を抜き、アルコール綿で傷口を素早く押さえます。」


 私は言いながら、全ての作業を集中して行った。


「最後に、清潔な脱脂綿で患部を3分ほど、患者さん自身に必ず押さえてもらい、包帯等で保護しましょう。これで採血は終わりです。」


「すごい!痛くなかった!」


「おおー!」


 ジャン少年の喜びの声と、医師達の感嘆の声を受けながら、私の初めての採血レクチャーは、無事に終了したのだった。



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