43、シルヴィに告白されました。
「もしかして、お邪魔でしたでしょうか…?」
室内に流れていた微妙な空気に、シルヴィは恐る恐る聞いた。
「いいえ、そんなことはなくてよ、待っていたわ、シルヴィ!」
私はシルヴィの不安を和らげようと、なるべく明るく振る舞った。
シルヴィのことは、聖堂に関することをお願いしたくて呼んでいたのだ。
むしろ気を使わせるタイミングになってしまって、申し訳ないと思う。
「王太子殿下にも、ご無礼でしたら本当に申し訳ございません。」
「いや、いい、大丈夫だ…。」
シャルマーニュ王太子は、ゴホゴホとわざとらしい咳払いをしてから、席に座り直した。
「シルヴィ、相談したいのはリ・コーズ王国に向けての救援隊のことなのだけれど…。」
私も席に座り、シルヴィも一緒に、お茶を淹れて落ち着いてから、再び話し始めた。
「聖堂から何人か、浄化と回復の力を持った方で、救援隊に参加していただける方はいらっしゃらないかしら?」
「浄化と回復でしたら、私と懇意にしてくださる、助祭様、副助祭様、などに、適した方が何人かいらっしゃるかと思います。参加をお願いできるか、ルーアン司教様を通じてお伺いしてみます。」
「ありがとう、後で私からもお伺いさせていただきますね。」
「でも、浄化と言っても、まだ私以外の方は水の浄化くらいしかできないかと思います。」
「それでも充分よ。まずは経口補水液用の水の浄化をお願いできたら、とても助かるわ。それに、リ・コーズ王国の人達が飲んでいるのは井戸水だろうから、飲む前に煮沸してもらうだけでも、だいぶ殺菌にはなるだろうし…。でもそうね、リ・コーズ王国の人は、いくら浄化されてても、セイネ川の水を飲むのは嫌がるだろうし、だとしたら、向こうでリ・コーズの水を沢山浄化できるように、できるだけ水を沢山浄化できる人が来て貰えたら助かるわ。」
「分かりました。」
こうして考えると、違う国に行くというのは、かなり色々考えなければならないことが多かった。
「救援隊には、他にどなたがいらっしゃるのですか?」
「そうね、ブルゴーニュの方10名ほど、とあと私と、オルレアンからも数人…。」
「少々お待ちください。」
珍しく、私の話をシルヴィが遮った。
「なに?」
「今、私と、っておっしゃいましたか?」
「言ったけど…。」
聞き返してきたシルヴィの顔が怖かったので、私はやや及び腰になりながら答えた。
「……………。」
シルヴィはシャルマーニュ王太子の方を見た。
シャルマーニュ王太子は、ため息を吐いて、両手を上げて首を振る仕草をした。
お手上げだ、という意思表示だろう。
そんなシャルマーニュ王太子を見て、シルヴィは頭を抱えて、深くため息を吐いた。
なんだなんだ二人とも?その態度は?なんだかちょっと失礼じゃないですか?
と、文句を言いそうになった時、シルヴィは何かを決意した顔で、こちらを真っ直ぐに見据えた。
「わかりました。カミーユ様自らが行かれるとおっしゃるなら、私も同行いたします。」
「え?いや、シルヴィは来ない方が良いわよ、女性が来るのは危険だし…。」
「同じ女性のカミーユ様が行かれるのに、私が駄目な理由が分かりません。」
「リ・コーズ王国とは、今でこそ和平条約を結んでいるけど、つい最近までフランセイズと長く戦争をしていた国だし、何があるか分からないわ。」
「それでも私は、病の浄化と回復の魔法を使えます。まだ頻繁に使うことはできませんが、万一またカミーユ様に何かがあった時にも、お力になれます。」
「でも……。」
「もしもカミーユ様が別の風土病にかかられたらいかがされるんですか?また、私がいないところで死にかけるんですか?私が間に合わなかったら、今度こそ本当に死んでしまわれるかもしれません、どうか私に、もうあんな思いはさせないでください!」
シルヴィは涙を流していた。
数日前にコレラで死にかけた時に、そこまでシルヴィに辛い思いをさせていたなんて、と改めて申し訳なくなる。
けれど、小説の中では、シルヴィは自分を苛めるカミーユのことは、あまり好きではなかったと思う。
やはり、この世界はすでに小説と同じであって、かなり違う部分も出てきているのかもしれない、と思った。
「ありがとう、シルヴィは本当に優しいのね…。」
「優しいから泣いているのではないのです、カミーユ様が好きだから泣いているのです!カミーユ様は、まったく分かっていらっしゃらない!」
シルヴィは、泣きながらそう叫んだ。
「シルヴィ……。」
胸が痛くなるような告白に、私もつられて涙が滲んだ。
「私は、カミーユ様が好きだから、どうか死なないで欲しいんです!どうか私も一緒に連れていってください、カミーユ様!」
「分かったわ、私が悪かったわシルヴィ!どうか一緒に来てちょうだい!」
私とシルヴィは、ひし!と抱き合った。
感動の場面である。
横から、奇しくも告白を横取りされてしまったような形になってしまったシャルマーニュ王太子は、そんな二人を何とも言えない気持ちで見つめていたのだった。




