41、救援隊の打ち合わせをしました。
私は、今回の救援隊に必要なものをリストアップすることにした。
「砂糖、塩、浄水、石鹸、消毒用アルコール、マスク、手袋、防護服、リンゴ、干し葡萄、オートミール、パン、干し肉、燃料、ひとまずこれらをできるだけたくさん用意しましょう。」
救援隊の分と、患者の分、どれだけ持って行けば良いかを試算する。
「ブルゴーニュ公爵様からは、何名ほど派遣をお願いできますでしょうか?」
「ひとまずは第一段で10名ほど。その後必要に応じて、更に人数を増やしても良い。」
「ありがとうございます。ちょうど良い人数です。」
最初にあまりたくさんの人数で押し掛けても、多すぎては統率が取れないことがある。こちらもバランス良く10名を選び、最初は20名程度で行くのがちょうどよいだろう。
「リ・コーズ王国には、今から書簡を書きます。そちらをブルゴーニュ公爵からの使者で、リ・コーズ国王へお届けと、ご説明をお願いいたします。」
「うむ。」
リ・コーズ国王への説明は、ずっと懇意にしていたブルゴーニュ公爵を通じてして貰えれば、話が早く済むだろう。
ずっとオルレアン公と対立していたブルゴーニュ公と共同で働くということに、多少の不安はあったのだけど、実際に作戦を立ててみると、これ以上頼りになる味方もいなかった。
「リ・コーズ王国で行うのは、患者の治療、そしてこれ以上の感染拡大の防止です。コレラは、きちんと治療、予防さえすれば、かなりの人が助かります。どうか慌てずに対応をしてください。」
「分かった。」
「出発は2日後、明日には参加できる隊員を全員集合させ、事前研修を行います。ブルゴーニュ公、その日程でお願いできますでしょうか?」
「大丈夫だ。急ぐに越したことはない。明日までに、ブルゴーニュの精鋭をこちらに来させよう。」
「ご協力感謝いたします。」
予想以上に素直に頷いてくれるブルゴーニュ公爵のおかげで、打ち合わせは驚く程スムーズに進んだ。
「しかし、意外であるな。」
話がほとんど纏まったところで、ブルゴーニュ公爵はそう笑った。
「何がでございますか?」
「カミーユ・オルレアン公爵令嬢、どうやら私は、あなたのことを思い違えていたようだ。」
「と、おっしゃられますと?」
「あなたは、もっと、王太子殿下との婚儀のことしか頭にない、甘ったれたお姫様だと、そう思っておったのだ。」
「それは…。」
ブルゴーニュ公爵の正直な言葉に、私は頬が熱くなった。
確かに小説の中に出てくるカミーユ・オルレアンは、今ブルゴーニュ公爵が言った通りの人物像だったのだ。
「そのような小娘が、オルレアンの権力だけを嵩に正妃になるのは、どうにも我慢がならんので、なんとか邪魔してやろうかと思っていたのだが、これは考えを改めなければならないのかもしれないな。」
「ブルゴーニュ公爵…。」
黙っていれば分からなかったであろう悪意を、こうして隠さずに堂々と話すブルゴーニュ公爵には、逆に器の大きさを感じた。
「もう、私を排除したいとは思われないのですか?」
「ふむ。」
ブルゴーニュ公爵の目が鋭く光った。
もしかして、以前散策中に矢を射かけてきたリ・コーズの暗殺者の黒幕は、ブルゴーニュ公爵かもしれない、と私は感じていた。
「もしも我らの中、先走ってあなたに危害を加えようとした者がいたとしたら、今後は二度とないように徹底しよう。」
そしてその予想は、恐らく当たっていたのだろうと、今確信できた。
「ひとまず、今後あなたの身に危険が及ばないよう、我々も及ばずながら、お守りさせていただこう。」
そう言うブルゴーニュ公爵の言葉に、裏は感じられなかった。
反オルレアンの筆頭であるブルゴーニュ公爵からの支持を約束して貰えたということは、今後反オルレアン派の貴族からの襲撃に怯えなくても良くなったということだった。
「まずは、リ・コーズ王国における救援活動を成功させるためには、最大限の助力をさせていただく。」
リ・コーズの暗殺者を直接罰することができないのには、多少の不安もあったけれど、二度と危害を加えられないのであれば、それでよしとすることにした。
「感謝いたします。さすがはフランセイズのブルゴーニュ公爵でございますね。」
私はニッコリと笑うと、再びブルゴーニュ公爵と固い握手を交わしたのだった。
ブルゴーニュ公爵が準備のために退席した後、遅れて、シャルマーニュ王太子が宮殿にやってきた。
シャルマーニュ王太子は、完全に私側の人間ということで、今回は御前会議への参加が許されていなかったのだ。
もっとカミーユ令嬢を信頼しろ、お前が出てくると、必ずもっとややこしいことになる。
お前はプリエ市内のコレラ対策で、今やることがあるだろう。
そう国王に諭され、忸怩たる思いで、必死にプリエでの仕事を終え、急いで宮殿に走ってきてくれたようだった。
「カミーユ、問題ないか!!」
シャルマーニュ王太子は、息を切らせながら部屋に飛び込んできた。
よほど頑張って、今日の分の仕事を終わらせて来てくれたようだった。
「大丈夫です。ご心配ありがとうございます、王太子殿下。」
そんなに急いで来てくれるなんて、と私は嬉しくなった。
小説の中では、シャルマーニュ王太子がそんなにもカミーユを気にかけている描写はなかった。
ただシルヴィだけを愛し、カミーユには常に冷たい態度を取っていたはずだった。
もしかしたら、小説とはだいぶ違う展開になっているかもしれないと思う。
カミーユがリ・コーズ王国への救援隊を提案する時点で、小説と話が変わっているのは明らかだったけれど、シャルマーニュ王太子の気持ちで考えれば、カミーユはこの点に関しては、どこまでも臆病だった。
もしかしたら、と期待する気持ちと、勘違いしてはいけない、という気持ちが交錯する。
ただ、今こうして走って駆けつけてきてくれる王太子の行動には、純粋に胸が熱くなるの感じていた。




