40、ブルゴーニュ公爵が仲間になりました。
「疫病、コレラは、インディカ王国にて発生し、貿易を通じて、リ・コーズ王国へ持ち込まれたと推測されます。」
私は世界地図を取り出すと、王太子にしたのと同じ、パンデミックについての説明をした。
「つまり、疫病の原因をリ・コーズ王国に求め、一方的に国交を断絶しては、必ずリ・コーズ王国の逆鱗に触れ、再び戦争になることもあるかもしれません。この件は、まさにブルゴーニュ公爵のおっしゃる通りです。」
私に全面的に肯定され、ブルゴーニュ公爵はやや複雑な表情をしていた。
「ですが、リ・コーズ王国において、すでにコレラの流行が確認されているのも事実。けれど、こちらには、コレラ流行を食い止めるための知識があります。」
私はそこで、一度息を吸った。
「故に、人道的見地の上から、私はリ・コーズ王国へのコレラ対策特別医師団の派遣を提言いたします。」
「何……?」
私の言葉に、その場にいた国王以外の皆が、顔を見合わせた。
フランセイズ王国は、大きく分けて親リ・コーズ王国派と嫌リ・コーズ王国派に分かれる。
オルレアン公爵は、その嫌リ・コーズ王国派の筆頭だった。
そのオルレアン公爵の令嬢であるカミーユが、率先してリ・コーズ王国への支援を提言するというのは、非常な驚きだったのだ。
御前会議に同席しているカミーユの父、オルレアン公爵は、事前にカミーユから話を聞いていたため、落ち着いた表情で娘の演説を聞いていた。
「それは…、良い提案かと思われますが…。」
オルレアン公爵の顔色を見ながら、ブルゴーニュ公爵は不審気な顔でそう言った。
何故、嫌リ・コーズ王国派の娘が、リ・コーズ王国に利するようなことを言うのか、何か思惑でもあるのだろうか?と顔に書いてある。
「リ・コーズ王国の国民も、フランセイズ王国の国民も、同じ人です。両国は密接な関係にあるが故に、今でも様々な思いがあることは承知しています。ですが、疫病という共通の敵が現れた今、力を合わせなくては、この強大な敵に打ち勝つことはできないのです。」
私は立ったまま、演説を続けた。
「リ・コーズ王国を良く思わない人の中には、リ・コーズ王国の国民が何人死のうと構わない、と思う人もいるかもしれません。けれど隣国の疫病を見逃し、リ・コーズ国民を見殺しにすれば、必ず海を渡って押し寄せてくる、膨れ上がった病原菌に、我々も大量虐殺されることでしょう。今ここでリ・コーズ国民を助けることは、ひいては我々フランセイズ国民を助けることにも繋がるのです。」
私の演説に、最初に拍手をくれたのは、ブルゴーニュ公爵だった。
「素晴らしい。」
手を叩くブルゴーニュ公爵の顔に、先ほどあった嫌味の色は綺麗になくなっていた。
「リ・コーズ王国への救援隊の派遣、及ばずながら、このブルゴーニュも協力したいと思う。」
反オルレアン派の急先鋒である、ブルゴーニュ公爵が、一転支持を表明したことから、議会の流れは一気に変わった。
「良いのですか?ブルゴーニュ公爵、コレラの感染地に行くのです。当然行く者には、感染の危険に飛び込むことになります。」
「何、オルレアン公ばかりがリ・コーズ王国と仲良くなってしまっては、寂しいのでね、私も仲間に入れて貰いたいだけなのだよ。」
ブルゴーニュ公爵は冗談めかしてそう言ったけれど、ブルゴーニュ領に協力して貰えるのは、正直ありがたかった。
「よし、決まった。」
私とブルゴーニュ公爵の話を聞いて、フランセイズ国王が手を打った。
「リ・コーズ王国への救援隊は、オルレアン公爵とブルゴーニュ公爵が主軸になり、編成、実施して貰おう。他公国より救援隊参加希望する者は、オルレアン公に申し出ること。ブルゴーニュ公爵は、必要なものをオルレアン公爵令嬢に確認し、その指示に従うこと。以上が決定事項である。異議ある者はあるか?」
「異議ございません。」
「同じく、異議はありません。」
オルレアン公爵、意外なことに、ブルゴーニュ公爵も、国王の言葉に素直に従った。
ブルゴーニュ公爵からしたら、犬猿の仲であるオルレアン公爵の、また成人してもいない小娘の言うことを聞くなど、屈辱以外の何物でもないはずだった。
御前会議は無事に終わり、私は別室で、父親であるオルレアン公爵と、そしてブルゴーニュ公爵と、救援隊の打ち合わせをすることになった。
「ブルゴーニュ公爵、まさかあなたが、私の言葉に耳を傾けてくださるとは思いませんでした。」
私はロマンスグレーのブルゴーニュ公爵とテーブルを挟んで、初めて向き合って話をした。
「私も、まさかオルレアン公のご令嬢が、リ・コーズ王国救援を提言するとは思わなかった。」
それは、初めて見るブルゴーニュ公爵の柔らかな表情だった。
ブルゴーニュ公爵と言えば、いつも父を離れたところから睨んでいる怖いおじさんというイメージしか、今までなかったのだ。
「ブルゴーニュ公爵、あなたほどの方のお力を借りられれば、これ以上心強いことはありません。どうぞよろしくお願いいたします。」
「こちらこそ、オルレアンの乙女。」
口の端を上げて、右手を差し出してくれたブルゴーニュ公爵と、私は固い握手を交わした。
こうして、予想外に長年の仇敵とも言えたブルゴーニュ公爵と手を組んだ私は、リ・コーズ王国への救援計画を立て始めたのだった。




