39、御前会議に参加しました。
リ・コーズ王国に対する医師団の派遣。
その議題について、国王の前で行われる御前会議において議論されることが決まった。
そしてその会議に、令嬢としては異例なことに、私こと、カミーユ・オルレアンも参加を許して貰えることになった。
各公国の、公爵、重臣が集まる中、今回の計画の発案者として、私も議席の末席をいただいていた。
何故こんな小娘が議会の席に、という重鎮達の視線は怖かったけれど、私はなるべく胸を張り、堂々と席に座っていた。
そもそも私は、先日コレラに罹患した時に、死んでいたも同然なのである。
一度死んだ命なのだと思えば、何を恐れる必要もなかった。
「コレラ、と言いましたな。」
国王が来るのを待たずに、公爵の一人が私に話しかけてきた。
「はい。」
早速始まった先制攻撃に、私は緊張した。
「そもそもコレラとは何ですか?何故あなたはそんなことを知っているのですか?」
「古代ローマ時代の医師、ケルヌスの医学論にありました。発熱は、体内に巣食う微小生物を追い出すための作用である、と。」
「ほう。」
「この微小生物を菌と呼びます。菌には様々な種類があり、このうち、コレラと呼ばれる菌は、人体を死に至らしめ、恐ろしい勢いで感染をするということが、古代ローマの時代に、すでに突き止められていたのです。」
「なんと…。」
私の堂々とした説明に、公爵達は皆ざわめいた。
ハッタリである。
ケルヌスの医学論は、確かに紀元前に書かれたとは思えないほど素晴らしい書物だけれど、そこまで詳しい菌の特定まではできていない。
「オルレアン公爵令嬢は、将来医者を目指しておられるのですかな?」
侯爵の一人が、ニヤニヤと笑いながらそう聞いてきた。
王太子妃候補でありながら、生意気にも医学をかじって医者気取りか?という嫌味である。
「それほどの見識があれば、さぞかし素晴らしい医者になれるでしょう。王太子妃になどなっては勿体ないのでは?」
同調してきたのは、ブルゴーニュ公爵だった。
医者かぶれの小娘など、次期王妃には相応しくないから、さっさと辞退しろ、という意味である。
ブルゴーニュ公爵は、親リ・コーズ王国派であり、フランセイズ王国の重鎮でもある。
前国王の時から重用されている、オルレアン公爵を目の敵にしており、正に犬猿の仲であった。
ブルゴーニュ公爵には、反オルレアン派である貴族が多く集まり、ブルゴーニュ派を形成しており、反オルレアンの筆頭でもあった。
「ブルゴーニュ公爵のお言葉は最もです。私は……」
そこまで言い掛けたところで、国王陛下が遅れて部屋に入ってきた。
「盛り上がっておるようだな。」
国王陛下の登場に、集まっていた人々は一斉に頭を下げる。
もちろん私も例外ではない。
「まずは、カミーユ・オルレアン公爵令嬢、この度の帝都プリエにおいて、疫病の蔓延を未然に防いだ功績、誠に素晴らしかった。」
「もったいないお言葉にございます。」
国王陛下が最初に声を掛けたのが、令嬢であるという事実に、列席の重臣達からざわめきが起こる。
「ですがまだ、油断はできません。菌はいまだに他国より持ち込まれ、また、収まったように見せて、またいつぶり返すか分かりません。引き続きの警戒が大切かと存じます。」
「その通りだ。しかし、そなたの提言した疫病対策が一定の成果を上げているのも事実だ。」
「実施を許してくださいました、国王陛下の寛大さのおかげかと思っております。」
「さて、」
国王は一度言葉を切ると、列席の皆を見渡した。
「すでに他国では、今回の疫病の爆発的流行が起きている可能性がある、と、そういう話であったな。」
「はい。」
ついに入った本題に、私は緊張しながら、列席の皆にも分かりやすいように、声を張った。
「この度の疫病、コレラは、リ・コーズ王国より我が国に持ち込まれた可能性があります。つまり、リ・コーズ王国にはすでにコレラが流行っている可能性が高いです。」
「つまり、ただちにリ・コーズ王国との交流を差し止めなくてはならないということだな。」
「異議があります。」
私と国王の会話に、ブルゴーニュ公爵が割って入った。
「得体の知れない病気の原因をリ・コーズ王国に求めるのは、濡れ衣に他なりません。今リ・コーズ王国との交流を止めれば、これまで築いていたリ・コーズ王国との関係に亀裂が入ることになるでしょう。」
親リ・コーズ王国派のブルゴーニュ公爵にとっては、リ・コーズ王国との国交断絶は、あまりに大きな痛手だった。
なんとしても撤回させたいという意思がひしひしと伝わってくる。
「では、ブルゴーニュ公爵、今リ・コーズ王国で、くだんの疫病が流行っているという事実はないのだな?」
「それは……。」
国王に問われて、ブルゴーニュ公爵は口ごもった。
リ・コーズ王国において、コレラと思われる疫病が流行っていることは、すでに何人もの人が確認済みだった。
「今こそ力を合わせるべきです。」
私は立ち上がり、皆を鼓舞するように、そう声を上げたのだった。




