4、聖堂にも協力して貰えることになりました。
この世界は4年後、黒死病の猛威に襲われること。
助かるためには、街の改革と、聖女の使う浄化の力が必要なこと。
私は魔女の汚名を着せられ、3年後に処刑されること。
私が司教に話したのは、おおまかにその3つだった。
「なんとっ…!」
私の言葉に、ルーアン司教はかなりの衝撃を受けていた。
「貴女様が…、火刑に…?それは誠ですか!?」
「はい、まあそれは良いのです。問題は、その後に大規模な感染症が蔓延する、というところなのです。」
「いやいやいや、良いということはないでしょう。火炙りだなどと、斬首よりも更に辛い処刑方法ではありませんか。」
「死に方の上下ではありません。私亡き後、黒死病で数十万人の命が失われることを思えば、私一人の命など、砂粒のようなものです。」
「数の問題なのですか!?」
「そうです。」
「なんとっ…!」
言い切った私に、ルーアン司教は言葉を失っていた。
確かに私だって、火炙りになるのは嫌だし、できたら生き残りたいと思う。
けれど、私を嵌めた反オルレアン派の首謀者の正体は、結局のところ分からないままであった。
小説にも、首謀者の名前はなく、ただ反オルレアン派の貴族とだけしか説明がなかったのだ。
もしも私が今火炙り回避のためにばかり動いてしまっては、肝心の感染症対策が疎かになってしまうかもしれない。
であれば、もしも上手に火刑を回避できたとしても、その後に感染症にかかって死ぬかもしれない。
前世も感染症で死んだ私としては、火刑で死ぬより感染症で死ぬことのほうが、数十倍は嫌だった。
「私は、今まで国母となることを目指して生きておりました。国母になることはないと託宣を受けはいたしましたが、国民を守る使命は、改めて与えていただけました。」
私は司教を真っ直ぐに見据えて宣言した。
「私は、この命尽きましても、必ずや感染症の流行を抑え、フランセイズの国民皆を感染症から守ることをお誓いいたします。それが、神より与えられました、この私の使命でございます。」
「おお……。」
私の宣言に、ルーアン司教は、その場に膝を付いた。
「己が身を犠牲にしてでも、衆生を救おうとなさるとは、貴女は神の子の再来でありましょうや…?よもやこの御代に、聖女様が二人もご降臨されるとは…。」
祈りを捧げる司教に、私は同じく膝を付いて、視線を合わせて否定した。
「いいえ、私は神の子でも、ましてや聖女でもありません。聖女はシルヴィ様ただお一人。私はただ、聖女様をお助けすることを許された、ただの人の子の一人に過ぎません。」
「なんと、謙虚な…。」
ルーアン司教は、そんな私の言葉をただ謙遜しているだけだと受け取ったようだったけれど、私が聖女などではないことは、厳然とした事実だった。
「私の希望は、浄化の力について教えていただくこと、そして聖女様とお話をさせていただくことです。」
「畏まりました。大司教と連絡を取り、すぐに手配させていただきます。」
「そしてもう一つ、私の行う感染症対策に、ソーヴル大聖堂もご協力いただけるという旨を、どうか書面にて一筆いただけませんでしょうか?」
「畏まりました。聖堂といたしましても、全面的にカミーユ公爵令嬢にご協力させていただきましょう。」
深々と頭を下げるルーアン司教に、私はほっと息を吐いた。
今日の目標は、まずは達成である。
これで、私はソーヴル大聖堂の後ろ楯を得ることができた。
この後ろ楯があれば、今後かなり行動がしやすくなる。
私はルーアン司教から、書面を受けとると、ひとまず邸宅に帰ることにした。
聖堂の力を借りるのと同時に、街の改革を進めなくてはならない。
やらなくてはならないことは沢山あった。
公爵家の令嬢。幸いなことに、オルレアン公爵はかなりの資金を持っている。
まずは両親の力を借りて、公爵家の力だけでもできることから始めるのが良いだろう。
邸宅に戻ると、私は意を決して、両親へも司教とほぼ同じ説明をすることにした。
ただし、自分が3年後に火炙りにされる部分のみは隠して。
神からの御告げを受けたなどという話は、普通であれば、まず信じて貰えるものではない。
頭がおかしくなったと思われて、笑われるのが落ちだろう。
けれど今回に限っては、かなりタイミングに恵まれていたと思う。
一つは、ちょうど聖女が現れ、人々が神の啓示を信じ始めている時期であること。
二つ目は、私の倒れたのが、ちょうど聖女の宣言が行われていた聖堂内であったこと。
そして私は、明らかに以前とは顔つきが変わっていた。
限られた命を知り、足りない時間の中で、使命を全うしようと、思い詰めた瞳。
前世の記憶を思い出す前と後では、私はほとんど別人だった。
この急激な変化は、私が本当に神からの啓示を受けたのだと、両親に信じさせるに充分だった。
私から、この後に起こる感染症の話を聞いた両親は、当然のように驚いていた。
けれどここで、聖堂から貰ってきた書面が、大いに役に立った。
聖堂の印の押された書面に、聖堂からの協力を確認した両親は、諸手を挙げて、私の行う感染症対策に協力を約束してくれたのだった。




