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37、体力が回復しました。


 意識が回復してから3日間、私は自室のベッドに移り、ひたすら体力回復に努めていた。


 部屋には毎日シャルマーニュ王太子とシルヴィがお見舞いと治療に訪ねてきてくれていた。


 ベッドの脇でリンゴを剥いてくれているシャルマーニュ王太子に、公務はしなくて良いのかと聞くと、私の回復よりも大切な公務などない、と返されてしまった。


 こうして私は、王太子殿下が剥いてくださったリンゴ、という大変ありがたいものを、日に何度も食べさせて貰う日々を送っていた。


 私はあの日に起こったことを、ベッドの中でシルヴィから説明を受けていた。


 夜半過ぎに私からの手紙を受け取ったシャルマーニュ王太子は、朝を待たずに動き出し、様々な部署へ命令を下してくれたらしい。


 シャルマーニュ王太子の適切な指揮により、プリエの一部地区で発症していたコレラ患者は、ほぼ全てをオルレアン邸の離れに移すことが出来、迅速に治療を開始することができた。


 そして夜明け前、シャルマーニュ王太子は聖堂に赴き、まだ起きたばかりだったシルヴィを連れ出して、発症したカミーユがいるオルレアン邸の離れへと急いだのだった。


 そこで、すでにかなりの脱水症状に陥っていた私を発見し、なぜもっと早くに来なかったのかを後悔したそうである。


 そもそも、絶対にこの離れには近付かないよう再三言っておいたはずなのだけど、こちらに来る王太子を誰も止められなかったようである。


 シルヴィを連れてきたのは、自分の力だけでは私を救えないかもしれないと判断したからだったようだったけれど、結果的に、その判断は大正解だった。


 私の状態を知ったシルヴィとシャルマーニュ王太子は、感染の危険があるからと反対する家臣を押し切り、部屋に入ると、私の治療を始めてくれた。


 けれど、すでに意識を失っていた私は、用意していた経口補水液を飲むこともできず、後は死を待つだけの状態になっていた。


 そしてシルヴィは祈った。

 今まで、水の浄化しかできなかった『浄化』の力が、病気の浄化もできるようになるまで、必死に祈り続けた。


 そして奇跡は起こった。


 小説の中では、3年後にペストが大流行し、たくさんの人々が死ぬまでは顕現していなかった、病を治せる浄化の力が、この早い段階で実現することになったのだ。


 シルヴィは顕現したばかりの浄化の力を使って、私の中で爆発的に増えていたコレラ菌を、残らず駆逐することに成功していた。


 そして、もはや臨死状態であった私の体力を、回復の力を使って、なんとか持ち直させた。


 更に極度の脱水であった私に、シャルマーニュ王太子が、何度も口移しで経口補水液を与えてくれたことによって、私は奇跡的に息を吹き返すことができたのだった。


 感染した私の側にいて、濃厚接触していたにも関わらず、シャルマーニュ王太子もシルヴィも発症しないで済んでいるのは、シルヴィのレベルアップした浄化の力のおかげだった。


 こうして私は、脱水のために上手く動かなくなった手足を、シルヴィの回復の魔法で日々治療して貰いつつ、下痢と嘔吐で絶対的に不足してしまった、水分と塩分と、糖分とカリウムを、こうして王太子自らが補給に来てくれていたのだった。



 もちろんこの緊急事態に、一国の王太子が一人の令嬢の部屋で、一日中リンゴを剥いていればいいなどということは断じてなかった。


 国内での発症判明件数がまだ一桁で済んでいる今、初動をいかに迅速に的確にするかは、今後の感染拡大を防ぐ上で、最も重要な局面と言えた。


 シャルマーニュ王太子は、オルレアン公爵邸にある、私が寝ている自室の隣の部屋を、王太子の執務室件、疫病対策特別本部として、私の両親から一定期間借り受けたのだった。


 そしてシャルマーニュ王太子は、私の部屋の隣で、コレラ対策の陣頭指揮を取り、シルヴィも王太子と連携を取りながら、聖堂の協力を仰ぎ、一リットルでも多い、清浄な水の供給や、コレラ患者への対応に当たっていたのである。


 なので、寝ている私のところに頻繁に顔は出してくれるものの、シルヴィも王太子も、私と長時間雑談できるような余裕はなかった。


 話すのは主に、コレラ患者の現在の状況の報告や、今後の対応についての相談が多かった。


 そのため、ずっと気になっている、あの時にシャルマーニュ王太子が、わざわざ私に口移しで水を飲ませてくれたことについて、私はシャルマーニュ王太子にも、シルヴィにも、なかなか聞けないでいた。


 シャルマーニュ王太子は、私のことをいったいどのように思っているのか、

 そして、シルヴィはあの場面を見て、どう感じているのか。


 それを聞くこともできないまま、事態は私の気持ちを待たずに、どんどんと進行していた。


 

 リ・コーズ王国で、コレラの集団感染の事実が確認されたのは、それから2日後のことだった。


 リ・コーズ王国が紅茶の貿易国として懇意にしている、インディカ王国よりどうやら菌は持ち込まれていたようだった。


 そうであれば、リ・コーズ王国は元より、インディカ王国でも、現在コレラの集団感染が起こっているということになる。


 パンデミック。


 その言葉が脳裏を過る。


 世界的集団感染。


 その危険は、決して自国だけは守れれば良いというものではなく、

 反対に、自国民は必ず守らなくてはならないものだった。


 民間レベルでの国交の断絶。


 国レベルでの、情報の共有と助け合い。


 今、疫病という共通の敵に対し、世界は一丸となって立ち向かわなければならない。


 5日間休んで、すっかり体力も回復した私は、外出着に着替えると、隣の部屋の疫病対策特別本部の扉をノックしたのだった。



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