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31、チョコを渡しました。


 私とシルヴィは、できたショコラタブレット、タブレット・ドゥ・ショコラを、まず最初にシャルマーニュ王太子に届けることにした。


「これがタブレット・ドゥ・ショコラか。」


 シャルマーニュ王太子は、初めて見るショコラタブレット(板チョコ)に、恐る恐る手を伸ばした。


「美味しい!」


 一口口に入れた瞬間に、シャルマーニュ王太子の顔が輝く。


「素晴らしい、こんなに美味しい菓子は初めて食べた。まさかショコラがこんなにも滑らかに、美味しくなるとは、初めての口溶けだっ…!」


「フレーズ卿がとても頑張って滑らかにしてくださいました。」


「む?アランが?…そうなのか。」


 滑らかにしたのは近衛騎士団隊長と聞き、王太子のテンションが少しだけ下がる。


「もちろんそれ以外は、私とシルヴィで心を込めて作りました。」


「ふむ。」


 女性陣も頑張ったことを伝えると、王太子の機嫌は再び上向いた。なかなかに分かりやすい。


「このデュール・ショコラ(固いチョコ)は、扱い方次第で、様々な形にすることができます。」


「ほう。」


 私の話を聞きながらも、王太子の指は二口目、三口目のショコラへと伸びていた。

 どうやらだいぶ気に入ってくれたようである。


「また、ナッツやウエハース、クッキー、ケーキ、フルーツにお酒と、様々なものと相性が良く、そのアレンジはまさに無限大です。」


「それはすごいな。」


「つまり、クール(ハート)形に形を整え、ラズベリージャムで情熱の赤を中に含め、私の心をあなたに捧げます、といった意味の菓子として、恋人に贈ることもできるのです。」


「ほう。」


 突然始まった艶かしい話に、シルヴィもシャルマーニュ王太子も身を乗り出した。


「2月の、ラ・サンヴァロンタン(バレンタインデー)、恋人達のお祭りに、デュール・ショコラに想いを込めて贈り合うと、想いが通じるかもしれないと、そう言って売り出せば、きっと喜んでショコラを買う人々が続出すると、私はそう睨んでおります。」


「おお…。」


 前世であれば、誰もが知っていた、2月にある愛とチョコの祭典。バレンタインデー。

 義理チョコの方が圧倒的に多いとか、チョコレート会社の策略だとか、様々に言われながらも、この日のチョコの売り上げ方はすごかった。


 そのバレンタインデーは、恋人達の祭典、ラ・サンヴァロンタンとして、すでにこのフランセイズ王国にもある。ただ、ショコラを贈るような風習は当然ながらなかった。


 来年の2月までに、このデュール・ショコラを大量生産できるように準備を整え、年が明ける前に一気に売り出すのだ。


 もちろんその前に、できる限りのカフェや商店でデュール・ショコラを扱ってもらい、皆へショコラの認知度を高めてもらうことも必要だった。


 やりたいことも、やらなければならないことも山程ある。

 でも、きっと成功する。

 ショコラが生み出す利益が、庶民の生活も潤してくれる未来を想像するのは楽しかった。


「では、このあなたの手作りのタブレット・ドゥ・ショコラは、あなたからの気持ちが込められていると、そう思っても良いのだろうか?」


「え?」


 ショコラをいかに普及させるかばかり考えていた私は、王太子の質問の意味がすぐには分からなかった。


「…………。」


 王太子は無言で、こちらをじっと見つめていた。


 好きな人に、想いを込めてショコラを贈る。確かに私は今そう言っていた。


「あっ……!」


 つまり王太子は今、そういう意味で聞いたのだと、理解した瞬間に顔に一気に血が昇った。


「あ、あのっ…、シルヴィも一緒に、作りましたのでっ…!」


 私はどう答えて良いのか分からず、ひとまずシルヴィの名前を出した。


「ふむ。」


 シャルマーニュ王太子は、しばらく私の慌てた様子を見て、何かを考えていた。


「では、来年のラ・サンヴァロンタンには、私はあなたからクール(ハート)型のデュール・ショコラを貰えるのだろうか?」 


「そ、それは、はいっ…!」


 王太子の視線に妙に色気を感じて、私はすっかりドキドキしてしまっていた。


「愛の告白以外にも、普段お世話になっている方にショコラを渡すのも良いと思っております。王太子殿下には、私のありったけの技術を使って、美味しいショコラをお渡しできればと思っております。」


 もちろん国王にも、アラン・フレーズ卿にも、シルヴィにも、私は美味しいショコラを作って渡したいと思っていた。

 

「ふむ……。」


 私の返事に、シャルマーニュ王太子は、また少し眉を寄せた。


「まあ、今はまだいい。あなたからの心のこもったクール・ドゥ・ショコラを貰えるのを楽しみにしている。」


「はい、腕によりをかけて作らせていただきますね!」


 私と王太子の、噛み合っているようで噛み合っていない会話を聞きながら、シルヴィは横でハラハラしていたようだったけれど、その時の私はまだ何も分かってはいなかったのだった。



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