30、ショコラタブレットを作りました。
去年は相次いだ台風や長雨のせいで、小麦が大不作になり、庶民の生活を苦しめていたけれど、幸いなことに、輸入品であるカカオ豆と砂糖には影響はなかった。
とは言えやはり輸入に頼るものは高級品なので、近いうちにフランセイズ王国でもさとうきびの栽培をしようと思った。
オルレアン領はあまり暖かくはないけれど、夏であれば栽培もできそうだし、南フランセイズであれば、通年で栽培できるだろう。
南フランセイズにおける栽培促進は、やはり国王の力を借りるのが一番話が通りやすいと思った。
ひとまずは、大切なのは固形ショコラの試作だった。
私は自宅にシルヴィを呼び、邸宅の厨房を借りて、固形ショコラの製作に取り組むことにした。
手元にあるのは、搾りたての牛乳、昨日買ったカカオ豆、そして砂糖である。
「よし、シルヴィ、頑張りましょう!」
「はい、カミーユ様!」
私とシルヴィは、エプロンを付け、髪を三角巾で纏めると、袖をしっかり捲って戦闘態勢に入った。
まずは生クリーム作りである。
搾りたての牛乳を火にかけ、加熱殺菌した後に冷暗所に置き、冷えて油分が分離するのを待つ。
この分離された上澄みを掬うと、生クリームが手に入る。
そして何より大切な、カカオマス作りである。
まず最初に、カカオ豆の殼を剥く。そして、銅鍋を使って、しっかりとローストする。更に胚芽も取る。
きちんとローストできたら、次はすり鉢を使って、ひたすら砕く。
砕く、砕く、砕く、砕く。
擂る、擂る、擂る、擂る…。
ゴリゴリゴリゴリ…。ひたすら擂る。
だいぶ細かくなってきた。でもまだ全然滑らかさが足りない。
ここで、私とシルヴィは力尽きた。女性の体力の限界である。
「すみません…、フレーズ卿…、助けていただけませんでしょうか…?」
私は護衛のアラン・フレーズ卿に助けを求めた。
「はい。」
部屋の入り口に待機していたフレーズ卿は、私の手招きに近寄ってきてくれた。
「このカカオを、ひたすら砕いて、そしてきめ細かく擂っていただきたいのです…。」
「かしこまりました。」
フレーズ卿はこくりと頷くと、無言ですり鉢を手に取った。
ゴッ、ゴッ、ゴッ、ゴギャッ、
ゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリ………
近衛騎士団隊長の腕力を以てカカオ豆は無事にきめ細かいカカオマスになったのだった。
フレーズ卿のおかげで大量にできたカカオマスを半量ずつに分け、半分は綺麗な布に包んで、ひたすら搾った。
ここでもフレーズ卿の出番である。
油分の滲んだ擂りたてのカカオマスをひたすら搾ると、布からじわじわと油が滴ってきた。
カカオバターである。
カカオバターを搾りきられたカカオマスは、カカオパウダーとなる。
半量残しておいたカカオマスに、カカオバターを混ぜる。
そしてまた、ゴリゴリゴリゴリひたすら擂りながら混ぜる。
とろりとしはじめたショコラの元に、砂糖を少量ずつに分けて、混ぜながらまた擂る。
そして最後に生クリームを適量混ぜて、テンパリングする。
ようやく出来た滑らかなショコラは、作っておいたショコラタブレット型に流し込んで、冷暗所に置いて、固まれば、固形ショコラの出来上がりである。
そこまでできた時、私もシルヴィも、そしてフレーズ卿も、ほとんど言葉を発しなくなっていた。
想像以上に大変だった。
三人とも、すでに腕が完全に痛くてだるくて疲れきっている。
これは、かなり大変な作業だった。
けれど逆に言えば、これだけ大変な作業であれば、独占も簡単にできるということだった。
すり鉢で擂るのは大変だけど、フードプロセッサーや圧縮機になるような道具を作ってしまえば、カカオマス作りの労力は減らせるはずだった。
タブレット状態になるまでに作るところまでを各自に任せたら、その大変さから、やる人が減ってしまいそうだけれど、その段階まで作ったものを一手に製造販売し、それ以降の工夫を各自にして貰えば良いと思った。
すっかり疲れた私達は、腕の疲れを癒すべく、シルヴィの淹れてくれたハーブティーを飲みながら、ショコラが固まるのを待っていた。
そうこうしているうちに、試作第1作目の固形ショコラはできあがったのだった。
艶々と黒く輝くショコラタブレットは、正に黒い宝石のような美しさだった。
「できたっ…!」
両腕が筋肉痛になるほど頑張って作ったショコラの完成は、感慨もひとしおだった。
「では、早速っ…!」
タブレットを割り、三人同時に出来たてのショコラを口に入れる。
「美味しいっ…!」
「甘いっ…!!」
「滑らかだっ…!!」
初めてのショコラ作りは、大成功だった。
「このショコラは、きっとフランセイズ国民を救ってくれるわっ…!」
「このショコラ工場を作りましょうっ…!」
私は、美味しくできたショコラタブレットの出来映えに、今後の展望が広がっていくのを感じたのだった。




