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29、カフェに行きました。

 

 温泉に浸かりながら、スイーツの話で盛り上がった私とシルヴィは、帰りの馬車の中でも、どんな菓子が食べたいかという話で引き続き盛り上がっていた。


 男湯に入っていたシャルマーニュ王太子は、最初蚊帳の外になっていたけれど、スイーツの話と理解すると、素晴らしい提案をしてくれた。


「菓子と言えば、ル・プルコープの菓子は美味しいようだな。帰りに食べて帰るか?」


 シャルマーニュ王太子のその言葉に、スイーツに飢えていた女子二人が、目を輝かせないわけがなかった。


「ル・プルコープ!あの、プリエで一番歴史のある、貴族の皆様御用達のあのカフェですか!?」


「アイスクリームまで出しているという、常に時代を先取りしたシュクルリ(スイーツ)を出してくれている、あのル・プルコープに連れて行ってくださるのですか!?」


「ああ、温泉の後にジェラートを食べるのは、きっと最高に美味しいだろうな。」


「ありがとうございます王太子殿下!こんなに嬉しいこと、人生で初めてでございます!」


「温泉後にジェラート!まさに最高ですね!ありがとうございます王太子殿下!!」


 こうして、この一件を持って、私達の中でのシャルマーニュ王太子の株は、爆上がりしたのだった。


 ル・プルコープは、フランシス・プルコピオが創業した、プリエで一番最初にできたカフェである。


 遠くムッカラーの港から仕入れたコーヒーと、冬場に集めた氷を集めた氷室で作ったジェラートが一番の目玉商品だった。


 ジェラート以外にも、菓子も食事も酒も出しており、貴族達のサロンのように愛用されている、高級店である。


 私とシルヴィは大喜びで、シャルマーニュ王太子と一緒にル・プルコープの店内へと入った。


「なんて綺麗……。」


 綺麗なガラスのシャンデリアと、鏡をふんだんに使った店内は、まるで宮殿の中のようなきらびやかさだった。

 

 席に通された私達は、オススメのメニューを出して貰うことにした。


「うわぁ、素敵っ…!」


 運ばれてきたジェラートにコーヒー、そして可愛らしい焼き菓子のその全てがセンスの良い可愛い形に作られていた。


「美味しいっ…!」


 どのお菓子も全てが美味しくて、私とシルヴィは幸せを噛み締めた。


「ところで、このお店にショコラはあるのかしら?」


「ショコラでございますか?」


 私の質問に、店員は不思議そうな顔をした。


「ショコラはここでは扱っておりません。お求めでしたら、薬屋で扱っているかと思います。」


 そこまで言われて、私はようやく思い出した。

 

 この世界にはまだ、甘くて固形のショコラは存在していなかったのだということを。


 前世と記憶が混濁して、うっかりしていたけれど、この世界でのショコラは、まだ砂糖も加えられずに、薬としてドリンク状のまま飲まれていたのだ。 


「これだわっ…!!」


 この後何十年かしてから、初めて脂質を加えて固形にできると発見されたショコラは、甘い今の形になった瞬間に、爆発的に世界中に広がるのだ。


 商機はここにある。


「フランセイズ王国の名物には、甘くて可愛いショコラが一番良いわっ…!」


「甘いショコラですか?それは美味しそうですわね。」


 私の言葉に、シルヴィも賛同してくれた。


「シルヴィ、私と一緒にショコラ作りしてくださいませんか?」


「私で良ければ、喜んで!」


 お菓子作りに関しても、私とシルヴィは息がピッタリ合っていた。


「王太子殿下、今後より多くのカカオを輸入することはできますでしょうか?」


「ああ、カカオの輸入先とは関係が良好だ。あなた方が望むなら、カカオを特別にたくさん買い入れることも可能だろう。」


「ありがとうございます、王太子殿下!」


 私とシルヴィは、王太子殿下にたくさん菓子をご馳走していただき、更には薬局でカカオ豆を手に入れて、ひとまずは一旦それぞれ帰宅した。


 カカオ豆から固形のショコラを作るためには、カカオバターの準備もしなくてはならない。


 最初は難しいところもあるかもしれないけれど、カカオ豆は原価の何十倍にもなる価値のあるショコラに変わるのを、私は知っていた。


「ふふ…、明日は…、ショコラを…、作ろう…。」


 私は買ったカカオ豆を見ながら、今日の温泉旅行の疲れも出て、そのままウトウトと眠ってしまった。


 明日になったらチョコレートを作る。


 前世ではよくバレンタインの前日に手作りチョコを作っていた。


 大好きなあの人に、心を込めて。


『大好きです…。』


 前世でバレンタインのチョコは、愛の告白にも使われていた。


 チョコを渡す相手の顔は、夢の中ではよく見えない。


 でもきっと、チョコを貰ったら喜んでくれるかもしれない。


 いつの間にか眠ってしまっていた夢の中に、シャルマーニュ王太子が出てきたような気がしたけれど、朝になった時、私は夢の内容をまったく思い出すことはできなかったのだった。



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