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26、消毒用アルコールを作ります。


 プリエの中心部、セイネ川の近くにある、古代ローマの公衆浴場跡である、クルニー浴場跡は、現在は近くの酒造店のウイスキー置き場となっていた。


 私はてっきり国の管轄かと思っていたのだけれど、クルニー浴場跡は、以前は近くの修道院が使っていて、その後酒造店に売られたらしい。


 つまり、私がその浴場跡を欲しいと思ったなら、国ではなく、酒造店と直接話をする必要があった。


 これは、もしかしなくても、ものすごくラッキーな偶然だった。


 クルニー浴場跡を使っているのは、プリエの老舗酒造店、ラ・イムーブル・ド・ウイスキーという店だった。


 消毒と言えばアルコール。

 

 今まで消毒も必要だとは感じてはいたものの、具体的にどうして良いのかが、すぐには思い付かないでいた。


 ウイスキーのアルコール度数は、大体40度前後。消毒として使うには、全然度数が足りない上に、第一もったいない。


 けれど、蒸留酒であるウイスキーを日常的に作っている会社であるなら、消毒用アルコールも簡単に作れるかもしれない、というのが、私の狙いだった。


 ラ・イムーブル・ウイスキーの所有者は、ジル・ディスティレリという男だった。

 平民出身ながら、この酒造所に弟子入りし、今では酒造所を継ぐことになった実力者である。


 元々平民のため、姓はなく、そのため、蒸留所を意味する、ディスティレリを名乗っていた。


 そのため、貴族の中でも特に身分の高い、オルレアン公爵の令嬢が会いに行くと聞いて、ジル・ディスティレリは、一も二もなく迎えてくれた。


 こういう時に、貴族の身分というのは便利なものである。


「はじめまして、ムッシュ・ディスティレリ。お会いできて光栄ですわ。私はカミーユ・オルレアンと申します。」


 豪華な馬車から降りて、優雅にお辞儀をした私に、ジル・ディスティレリはすっかりどぎまぎしていた。


「そんな、私程度はムッシュと言っていただける身分ではございません。どうかお気軽に、ジルとだけお呼びください。」


「そうなのですね。では、ジル、このたび私は、あなたと商談をさせていただきたくて参りました。」


「商談ですか?」


 この頃の貴族と言えば、商人から巻き上げた金で贅沢をする程度の人間が多かったせいで、私の言葉にジルにはかなり驚いたようだった。


「私は、この街の美化を推進させ、疫病対策をしたいと思っています。そのために、あなたの力を借りたいのです。もちろんお金は払います。」


「それは、お金さえいただけるなら、こちらとしても文句はありませんが、何をお望みでいらっしゃるのですか?」


「まずは1つ、あなたが今ウイスキーの貯蔵庫として利用している、クルニー浴場跡、そこを私に売っていただきたいのです。もちろん相応の対価は払いますし、新しくウイスキーの貯蔵に適した、石作りの貯蔵庫も提供いたします。」


「それは、新しい貯蔵庫をいただけるなら、私に否はありません。」


 クルニー浴場跡の買い取りに関しては、すんなりと話が纏まり、私はまず1つ心の中でガッツポーズを決めた。


「次に、あなたの蒸留酒作りの腕を見込んで、消毒用アルコールの精製をお願いしたいのです。」


「消毒用…アルコール…、って何ですか?」


 ジルの反応に、やはりこの時代、消毒用アルコールの意識はあまり普及していなかったか、と思う。


 けれど、戦時中負傷兵への殺菌などに酒を使ったりもしているだろうから、多分知っている人は知っているはずだった。


「高濃度のアルコールには、殺菌作用…、病を抑え、予防する作用があります。大体アルコール度数70度~80度くらいあれば大丈夫です。あなたに、その、飲むためではない、消毒専門のアルコール作りをお願いしたいのです。」


「ただ度数が高いだけの酒なら、蒸留したてのものを詰めればすぐにできますが、もちろん飲めたもんじゃないですよ?」


「飲むためではありません。手足、傷口の消毒に使います。そのため材料に小麦を使う必要はありません。高価ですので。材料は、私の農園で取れるじゃがいもやとうもろこしなどで作れないでしょうか?」


「そりゃ、ただの度数の高いアルコールってだけで良いなら、作れますが…。」


「では、まずは試しにお願いできないでしょうか?もちろん報酬は払いますし、上手く行けば、新たに消毒用アルコール精製専用の蒸留工場を作り、そこの監督もあなたに任せたいと考えています。」


「ひえっ…!」


 私からの突然の提案に、ジルは飛び上がって驚いていたけれど、オルレアン公に出資して貰い、事業を拡大できるのだから、ジルにとって、ものすごく良い話であるのは確実だった。


 問題は、消毒用アルコールというものの良さが、あまり浸透していない所であったけれど、きっと実際に使えば、皆がその良さを実感してくれると確信があった。


「分かりました。…正直よく分かってないところもありますが、まずはクルニー浴場跡をあなたに売って、ウイスキーの場所を移し、濃度の高いアルコールをじゃがいもで試しに作って、お見せすれば良いってことですよね?」


「その通りです。話が早くて助かります。」


 私はジルの話の早さに満足すると、クルニー浴場跡買い取りのための、金額の話に入ったのだった。




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