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23、騎士隊長が来ました。


 翌日、私はシルヴィとの約束に間に合うように、身支度を整えていた。


 まだ午前中である。


 突然、オルレアン公爵邸に、シャルマーニュ王太子が訪問してきた。


 王族が、先触れもなしに貴族の屋敷を訪れることは、ほとんどない。


 突然のことに、ちょうど屋敷にいた母と私とで、王太子を迎えることになった。


 シャルマーニュ王太子は、イライラとした様子で、こちらの出したお茶に口を付けていた。


「このたびは、わざわざのお運び、申し訳ございません。」


 私はひとまず、王太子にまずは頭を下げた。


「これは、どういうことだ?」


 王太子は、昨日私がしたためた手紙を手に持っていた。


 どうやら、今朝に届いた手紙を読み、そのまま家を飛び出してきたらしい。


「書いてあるままにございます。」


 私はひとまず頭を下げたまま、落ち着いて答えた。


「私との婚約の約束を、正式に破棄したいとは、どういうことだ?婚約は破棄しないと、以前そう話は終わらせたはずだろう?」


「私が王太子殿下の婚約者候補筆頭なため、昨日隣にいたシルヴィまで、命が危険になりました。これ以上命を狙われては、疫病対策もままならなくなり、周りにも危険が及びます。それは、手紙に書いた通りの理由でございます。」


「王族には、多かれ少なかれ命が危険に晒されることはある。危険が迫ったなら、こちらから信頼できる護衛を付けよう。聖女が心配なら、聖女にも護衛を付ければ良い。そんな理由で、あなたは私との婚約を破棄しようというのか?」


「婚約を破棄と言うか…。」


 まだ婚約をする前であるので、婚約者候補を降りる、というだけではあるのだけど、どうもそんなことを言い出せる雰囲気ではなかった。


「では逆に、シャルマーニュ王太子殿下は、私と婚約したいと思ってらっしゃるのですか?」


「それは…。」


 私の切り返しに、シャルマーニュ王太子は言葉を詰まらせた。


 それ見たことか、と思う。

 どうせ小説通りに、すでにシルヴィに心惹かれ始めているはずなのに、何故私との婚約の話に拘るのか、理解ができなかった。


「それに私は、シャルマーニュ王太子殿下を信頼しております。」


「信頼…?」


「真に国民のためを思っていらっしゃるシャルマーニュ王太子殿下なら、私が婚約者候補から外れたとしても、必ず私の疫病対策にお力を貸してくださると信じております。」


「む……。」


「シャルマーニュ王太子殿下が私を手助けしてくださるのは、私が婚約者候補であることとは関わりないことと分かっております。」


 私の言葉に、シャルマーニュ王太子は一瞬黙ってから、怒ったように言った。


「それはそれ、これはこれだ!」


「それはそれ…?」


「婚約者だから力を貸すわけではない、婚約者でなくても、力は貸すだろう、だからと言って、婚約は解消はしない!」


「え…?」


 いやだから、まだ婚約はしていません、と今更言うのはやはり野暮なのだろうかと思う。


「ですが、私が婚約者候補なため、シルヴィにまで危険が及ぶのは堪えられません。」


「確かに、私のせいであなたの身が危険に晒されるのは、本意ではない。」


「はい。」


 ようやく分かってくれたか、とも思ったけれど、実際には私の身よりもシルヴィの身が危ないのが嫌なのだろうな、と思う。


「では、あなたとシルヴィに、騎士を護衛に付けさせよう。実はすでに、外に待機させている。」


「え?」


 え?何ですか?騎士まで朝から何がなんだか分からないうちに、ここまで連れて来られちゃったんですか?

 騎士かわいそう。


 そんな風に思っているうちに、王太子はあれよあれよという間に、部屋に騎士を招き入れた。


「近衛騎士隊長のアラン・フレーズ卿だ。」


 そう言われて出てきたのは、いかつい身体に、イケメンだけどいかつい顔に、赤い髪を短く整えた、生粋の騎士だった。


「フレーズ卿…、フレーズ(苺)なのですね…。」


 しかし、名前は可愛い。フレーズ(苺)だなんて、赤い髪にはぴったりだった。


「もうすぐ、アラン・モンターニュ(山)と改名したいと思っております…。」


 フレーズ卿は名前をいじられるのが苦手らしく、仏頂面でそう答えた。


「いえいえ、フレーズ卿の方が、ずっと爽やかで、あなたの綺麗な髪にぴったりで、良いと思いますわよ。」


 私は笑いたいのを堪えて、そう言った。大の男が名前を恥ずかしがって拗ねるなんて、予想外で面白かったのだ。


「髪、綺麗でしょうか…?」


「ええ、とても美しいフラム(焔)色、素敵ですわ。」


 髪を褒めると、フレーズ卿は照れたように俯いた。身体は大きいのに、仕草はいちいち可愛かった。


「アランは、文武に優れて忠誠心も篤い。私が最も信頼している者だ。彼が守れば、あなたが危険に晒されることはないだろう。」


「って、いえいえ、近衛騎士団の隊長なんて、私の身辺警護には過ぎた方でございます!」


 可愛い仕草に和んでいたけれど、どう考えても、私を守る程度の仕事に就くべき方ではなかった。


「未来の王妃を守る重要な仕事だ。本来なら、私が四六時中守りたいが、公務のため、そうもいかない。なのでどうか、この者で我慢して欲しい。」


「我慢って、過ぎた方ですので…。」


「では、今後も何かあったらすぐに言うように。最大限の助力は惜しまない。」


 こうしてシャルマーニュ王太子は、騎士隊長を置いていくと、婚約破棄の件は断固拒絶して、帰っていかれた。


「えー……。」


 私は、いかついアラン・フレーズ卿に付き添われ、予想外の展開に、呆然としていたのだった。




 

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