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22、矢を調べました。


「お礼を言うのが遅くなってごめんなさい、助けてくれて、本当にありがとう。」


 考えなくてはならないことは沢山あったけれど、私はひとまずシルヴィにお礼を言った。


 危険を察知して、咄嗟に身を呈して私を庇ってくれたのだ。


「いえ、むしろ助けていただいたのは私の方です。カミーユ様が矢を逸らしてくださったので……。」


「私が魔法を使えたなら、それは本当に良かったわ。もしもシルヴィが傷付いていたりしたら…。」


 私はそれを想像すると、背筋が凍った。


 もしも私の代わりに、シルヴィが矢を受けて死ぬようなことがあったら、私はどうして良いか分からなかった。


「それにしても、いったい何者が…。」


 シルヴィは青冷めた顔のまま、私の手元の矢を見つめた。


「そうね…、たぶん、私にいなくなって欲しい、誰かでしょうね…。」


 犯人の目星が付いているわけではない。


 ただ、小説の中では、魔女として陥れられ、火刑にまでされているカミーユである。


 カミーユを殺したいと考えている貴族がいることは確かだった。


「ごめんなさい、怖い思いをさせたわね…。」


 けれどそのせいで、偶然一緒にいたシルヴィを死ぬかもしれない状況に追い込んでしまった。


 これは、由々しき事態だった。


 今まで、ただ私一人が死ぬだけであるなら、さほど気にしなくても良いかとさえ思っていたことを後悔する。


 私を狙う人を放っておくことで、周りの人にまで危険が及ぶのであれば、やはりこれは、きちんと対処しなくてはいけない事案だった。


「いいえ、私は少しも怖くなんてありません!カミーユ様が守ってくださいましたから!それに、荒っぽい切欠でしたが、カミーユ様に魔力がある証明にもなったので、むしろ良かったと考えても良いかもしれません!」


「前向きなのね。」


 必死に良い方向に事態を捉えようとするシルヴィは、とても健気で可愛かった。


 きっと今までも、何か辛いことがあっても、そうして前向きに考え直して頑張ってきたのだろうと推測された。


「そうね、私に魔力があるなら、これはものすごくラッキーだわ。シルヴィ、また明日にでも、私の魔力の練習のためにお時間いただけないかしら?」


「はい!喜んで!」


 私は明日の約束をすると、ひとまず、今日は矢を調べるために、屋敷に帰ることにした。



 今回のことを、どの程度家族に話した方が良いか悩んだけれど、やはり正直に話すのが一番かと思った。

 これから、外での活動を制限される危険もあるけれど、私一人で対処するには、いささか重大過ぎた。


 私が街で命を狙われた話に、屋敷の中はひっくり返った。


 公務中だった父まで帰宅し、私はどこも悪くないと言ったのに、医者に見せられた。


 一緒にいながら私を危険な目に合わせたとして、罰を受けそうになった侍女のアンナには、お咎めがないように必死に両親を説得した。


 持ち帰った矢は、早速検証が進められた。


 矢尻が四角錐になった、典型的なロングボウの矢は、古来から、グランド・ブルターニュにある、リ・コーズ王国でよく使われていた武器である。

 

 当時はクロスボウが主流であったフランセイズ王国は、リ・コーズ王国との戦争の時に、起動の早いロングボウに散々苦しめられた過去がある。


 けれどそんなロングボウも、マスケット銃が主流になってからは、ほとんど使われなくなっていたはずだった。


 ロングボウの習得には時間がかかる。つまり、ロングボウを使える人間で探せば、ある程度犯人の目星を付けることは可能だった。


 もしかしたら。リ・コーズ王国と貿易をしている、海側の地域の貴族の可能性もある。


 けれど、その程度の情報では、まだとても特定はできなかった。


 そこで問題となるのは、何故カミーユが命を狙われるのかという理由だった。


 小説の中では、カミーユを陥れたのは、カミーユを王太子妃の座から降ろして、自分達がその座を奪いたいと考えている輩だった。


 つまり、カミーユが王太子妃候補を辞退したいと思っていることを公表し、正式に王太子妃候補から外れてしまえば、もう命を狙われる理由はないということになる。


 そうだ、それしかない。


 犯人の特定ができない以上、原因を先に取り除いてしまった方が手っ取り早い。


 今まで王室との繋がりはあった方が良いかと、公表はしないでいたけれど、そのせいで命を狙われるのであれば、むしろ不利益だった。


 王太子妃候補から外れることで、そのまま火刑からも逃れられたら良いのだけど、そこまで上手くいくかは分からない。


 ひとまず私は、再び王太子妃候補辞退をお願いする手紙を、国王とシャルマーニュ王太子両方にしたためたのだった。




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